ロボットたちの異変
三階のバイオルームから、一階のロビーまで全速力で駆け抜ける。
その道中で目にしたのは、ロボット同士が殺し合う光景だった。
外へ出ると、その惨状は建物の中だけにとどまらず、至るところで発生していた。
僕たちは思わず立ち止まり、目を見開く。
「……な、なんだよこれ!?」
「ロボット同士が戦ってる……!?」
「一体、何が起きとるんじゃ?」
「これは……」
視界に入るだけでも、数体のロボットが互いを傷つけ合い、壊し合っている。
その合間に火の手が上がり、時折、爆発音とともに破壊されるロボットの悲鳴のような声が響いてきた。
[にゃー]
「! シロ!」
背後から白い猫が駆けてきて、アルヴィスさんの足元で立ち止まる。
ロボットの群れを器用にすり抜けてきたのだろう。
[にゃー]
「シロ、ついてきたのか?」
[にやー、にゃー]
どうやら僕たちがバイオルームを出てから、ずっと後を追ってきていたらしい。
その猫には見覚えがあった。
僕が幼い頃、一度だけお母さんが連れてきてくれた猫。
そして今は――僕たちが先程まで居た部屋に残っている僕と同じ名前の少女、シオンが飼っている猫だ。
[にゃーにゃー!]
「……ん?どうしたんだ?」
鳴き続けるシロに、アルヴィスさんは首を傾げる。
するとシロはくるりと踵を返し、僕たちから離れて走り出してしまった。
「…………」
その姿を見送り、アルヴィスさんは真剣な表情で僕たちに向き直る。
「悪いが、俺はここで別れる」
「え?」
「あの猫、シロって言うんだが……何の理由もなしにシオンの元を離れる奴じゃない」
「何か、おぬしに伝えたいことでもあったのかの?」
「それを確かめる。それと、余裕があったらセキュリティルームで何が起こっているのか調べてみる」
「わかった。気を付けろよ」
頷くと、アルヴィスさんはシロの後を追って走り去った。
僕たちは彼と別れ、ロボットたちを探すために別方向へ走り出す。
「ケアテイカー殿、これを」
「! これ!」
「手紙に壊されたと書いてあったからのう。ここに来たのは、これを渡すためでもあったんじゃ。……こんなこともあろうかと、二つ作っておいて良かったわい」
走っている途中、神様が差し出したのは、ひとつの黒い箱。
あの時、アルベールさんに壊されて失った呪い具現化装置――その予備だった。
僕は安堵の息を吐き、深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「もう壊されんでくれよ。あとは作っとらんからの」
「精進します」
力強く返事をし、今度こそ壊さないよう胸に抱きしめた。
+
[ピー!ピー!]
「あ!いた!」
ロボットたちを追って数十分、ようやく彼らを発見した。
目の前には巨大な建物。その中へロボットたちは吸い込まれるように入っていく。
見上げると、その建物は空に届くかのように高く、果てが見えなかった。それを見たジンと神様は目を見開く。
[早く!早く!ロボット追う!ロボット追う!]
ピービーが急かすようにぴょんぴょん跳ねる。
建物を見上げて、KBさんが口を開いた。
[ここは……。もしかすると、彼らは保管庫へ向かったのでは]
「保管庫?そこに何があるのか?」
[そこには、ひとつの箱が封じられているのです……]
「箱?」
「……“呪いの箱”」
KBさんの言葉を引き取るように、僕は呟く。
「呪いの箱?」
KBさんは静かに頷く。
ジンが続きを尋ねようとしたその時、神様が突然声を上げた。
「まさか……ここにあるのか!その箱が!?」
「じいさん、知ってるのか?」
「舐めるでない!わしは神じゃぞ! おぬしたちに呪いのことを教えたのは、このわしじゃ!知らぬはずがなかろう!」
「…………」
“呪いの箱”――それはその名の通り、呪いを宿す箱。
込められた呪いの力は、今まで僕たちが遭遇してきたどんな呪いよりも強大で、その力は世界を一瞬で破壊出来るほどのものだと、お母さんから聞かされていた。
歴史書にはこう記されている。
数千年前、地球そのものが箱に封じられたのち、幾星霜を経て発掘された“識別不能な異物”。
それがこの国のどこかに封印されたのだ、と。
「その箱を、あいつらは狙ってるのか?どうして?」
[そこまでは……。ですが、彼らが保管庫に到着すれば危険です。急がないと]
そう言って、KBさんは建物の中へ駆けていく。
その姿が見えなくなると、僕たちは顔を見合わせた。
「ケアテイカー殿も、箱のことは知っていそうじゃの」
「はい。……よく知ってます」
「……なんか、雰囲気変わったか?」
「うん。記憶が戻ったからね」
「記憶?」
[ケアテイカー!ジン!神様!ボクたちも行く!呪い追いかける!]
[にゃあ]
「……うん。そうだね。僕たちも行こう!」
僕もまた、KBさんを追って建物の中へ足を踏み入れる。
そんな僕の背中を見つめながら、ジンは眉をひそめ、神様は顎ひげを撫でて笑っていた。




