バイオルームで
ロボットたちに案内されて、バイオルームの扉が開く。
部屋に入ると、そこにはジンたちの姿があった。まさかこんな場所で再会するとは思わず、僕は思わず目を見開く。
[ケアテイカー! ケアテイカー!]
「! ジン! ピービー! えっ、神様まで!?どうしてここに――!?」
ピービーが弾かれたように近づいてきて、ぴょんぴょんと跳ねる。
[あなたたちは……私たちが戻るまで待っていろと、あれほど言ったのに]
ポツリとKBさんが呟いた。
「待つつもりではいた。けど――そこのジジイとピービーのおかげで、ここまで来ちまったんだ」
[……はぁ。まぁ、来てしまったのなら仕方ありませんね]
KBさんは小さく息を吐き、ジンたちの奥に立つ一人の女性へと視線を送る。
目が合うと、その女性はふっと口元を緩ませ、懐かしそうにKBさんを見つめ返した。
「……久しぶりね、KB」
[はい。ご無沙汰しております、B。――私の廃棄処分が決まった日以来の邂逅ですね]
部屋の中央まで歩み寄り、KBさんは淡々と告げる。
Bと呼ばれた女性は眉を下げ、静かに目を伏せた。
「ごめんなさい。あの時は……ああするしか方法がなくて」
[いえ。あの時のあなたの判断は最適でした。どうか悔やまないでください]
「……ありがとう、KB」
そう言ったあと、Bさんは僕へと顔を向けた。
「そして――あなたも。久しぶり……と言って、通じるかしら?」
「うん。大丈夫。わかるよ。……お母さん」
「! ……そう。記憶が戻ったのね」
「KBさんのおかげ、なのかな……」
力なく笑いながら言葉を返すと、B――お母さんは目を見開き、一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべた。
「……ご苦労さま、皆さん。持ち場へ戻って結構ですよ」
[[ピー]]
僕たちを連れてきたロボットたちへ、お母さんはそう命じる。
しかし、一度は返事をしたものの、彼らはその場から一向に動こうとはしなかった。
不審に思ったお母さんは、首を傾げながらもう一度同じ言葉を繰り返す。
「……あなたたち、何をしているの?持ち場に戻っていいのですよ」
[[…………]]
今度は返事さえない。
一体どうしたというのか――。
僕もロボットたちに顔を向けたその瞬間、耳をつんざくほどのノイズが鳴り響き、彼らは一斉に僕たちへ襲いかかってきた。
[ピー!!]
[ピー!ピー!ピー!!]
まん丸な両目を赤く光らせ、ロボットたちは両手を広げて突進してくる。
小さな体だからと侮ってはいけない。
その力は、人間のそれよりもはるかに強いのだ。
「っ、危ない!」
お母さんが叫ぶ。
飛びかかってきたロボットたちは、ジンの側にいた紺色の髪の男によって叩き落とされた。
[ピー!]
[ピー!ピー!]
床に叩きつけられ、ひっくり返ったロボットたちの車輪がむき出しになったまま、空しく回り続ける。
直後、部屋の外からまた音が響いてきた。
ピー。ピー。まるで警報のように鳴り渡る。
「な、なんだ?」
ジンが戸惑いの声を上げたその時、ピービーがふるふると体を震わせ、僕の腕に飛び込んできた。
[呪い!呪い!]
「え?」
声を荒げて叫ぶピービー。
“呪い”という言葉を聞いて、僕とジンは顔を見合わせる。
[ピー!]
[ピー!ピー!ピー!]
ひっくり返っていたロボットたちが自動で体勢を立て直し、ぞろぞろと部屋の外へ出ていく。
同時に、開いていた扉がバタンと閉まり、ガタンッと大きな音が響いた。
「行っちゃった……」
「追いかけなくていいのか?あれ」
[呪い!呪い!放置ダメ!絶対!]
「ピービーの言う通りだよ。追いかけよう、ジン!」
[待ってください。それは不可能かと]
「え?KBさん?」
ジンと顔を見合わせて頷き合い、僕たちは部屋を出ようと足を踏み出した。
だが、その前にKBさんが立ちふさがり、僕たちの動きを止める。
扉に近づいたKBさんは、じっと観察するように見つめた。
「……KBさん?」
[やはり、扉が開きません]
「は?」
[おそらく、先ほどのロボットたちが扉の開閉装置を破壊したのでしょう]
「はあ?なんだそれ?」
ジンは首を傾げながら扉に近づき、ドンドンと叩いてみる。
しかし扉はびくともしなかった。
「ダメだ、開かない」
[こうなってしまえば、扉を壊さない限り外へは出られないでしょう]
「どうするんじゃ?扉が開かなかったらロボたちを追えんぞ?」
「どうするって言われても……」
「なら、扉をぶっ壊してしまえばよろしいかと」
うーん、と考え込んでいると、背後からお母さんの声がした。
振り返ると、お母さんは口元に笑みを浮かべていた。だがその目は冷たく笑っておらず、僕の背筋にぞくりとしたものが走る。
――いつの間にか、お母さんは怒っていた。もちろん、矛先はロボットたち。
「私が許可するわ。アルヴィス、扉を蹴破りなさい」
「蹴破……って、俺がやるのかよ」
「ええ。大丈夫、心配ないわ。研究費でなんとかなるでしょうから」
「……はぁ、仕方ない」
アルヴィスと呼ばれた男の人が後頭部を掻きながら扉に近づく。
彼は懐から一枚の札を取り出した。――魔封術師が使う札だ。
その姿を見て、ジンが驚いたように目を見開く。
「……わかった。それじゃ、下がっててくれ」
「お前、それ……!」
「黙ってたけど、俺もお前と同じ魔封術師なんだ。……まだなりたてだけどな」
「蹴破るって、どうするんじゃ?」
「まあ、見てろよ」
僕たちはアルヴィスさんに任せ、距離を取って下がる。
アルヴィスさんは札を扉に貼りつけ、低く呪文を唱えた。
やがて淡く光り出す魔法陣。彼はそれを見据え、助走もなく渾身の蹴りを叩き込んだ。
ドコォッ!!
轟音とともに扉は一瞬で吹き飛び、向かいの壁へと叩きつけられる。
「「おー!」」
僕と神様が同時に声を上げた。
変形した扉が壁にめり込み、煙がゆらゆらと立ち上る。
「さすがね、アルヴィス」
「……あー、これ本当に研究費でなんとかなるか?」
「ならなかったら、その時に考えればいいわ。それより――これでロボットたちを追えるでしょう」
お母さんの言葉に、KBさんは静かに頷いた。
『ビーッ!ビーッ!』
部屋を出た瞬間、建物内に大きな警報音が鳴り響く。
「お母さんはそこにいて!」
「シオンを頼む!」
「アルヴィス…!」
そう叫び、僕たちは音に急き立てられるようにして駆け出した。




