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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第6章「機械だらけの宴」
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Bと"シオンの日記" ※ジン視点





 エレベーターに乗り込み、俺たちは三階へと辿り着いた。ここにも数え切れないほどのロボットが行き交っている。


 その光景に、じいさんは目を輝かせて歓喜の声を上げた。

 ……この国に来てからというもの、じいさんのテンションは上がりっぱなしだ。このままじゃいつか倒れるんじゃないかと心配になる。


「バイオルームだから……あそこだな」


 アルヴィスの言葉に従い、俺たちは奥へ進む。

 扉の横に埋め込まれたコンピューターにカードキーをかざすと、低い音を立ててロックが外れ、扉が左右に開いた。


 中に足を踏み入れると、そこには卵形の水槽がいくつも並んでいた。水槽同士は無数の太いケーブルで繋がれており、どこか不気味な静けさを漂わせている。部屋の奥にはコンピューターが鎮座し、その前には人影があった。


[B! B!]


 ピービーがぴょんぴょんと飛び跳ねて転がり出す。声に気付いたその人物は肩をびくりと震わせ、振り向いた瞬間、胸に飛び込んできたピービーを抱き止めた。


「! PB……!なぜここに?」


 ピービーは嬉しそうに笑い声をあげる。

 ……あれが、B?


「B」

「? あら、アルヴィス。こんにちは」


 近付く俺たちに気付き、彼女――Bは顔を上げた。

 茶色の髪に薄紫色の瞳。緩く結った髪を肩に下ろし、眼鏡を掛けた落ち着いた雰囲気の女性だった。


「珍しいわね。あなたがここに来るなんて」

「シオンがBに会いに行くって言うから、護衛がてらついてきた。あと、こいつらの案内」

「?」


 Bが俺とじいさんを見る。

 間近で視線が合うと、思わず胸がどきりと鳴った。


「初めまして、B殿。わしは神様と申す者。……しがない旅人じゃ」

「か、かみ……?」


 じいさんは相変わらず大げさだ。嘘は言っていないが、自分で神様って名乗るか普通……。


「あー、その……じいさんの事は気にしないでください。ボケが始まってるみたいなので」

「はぁ……」

「俺はジン・レスターと言います。突然お邪魔してすみません。俺たちは、この国に観光で来ていて……」


 余所行きの笑みを浮かべ、俺はこれまでの経緯をかいつまんで説明した。本当のことは隠しつつ、あくまで旅人――観光客として話す。

 こういう場面で礼儀正しい態度が取れるのは、貴族に生まれてよかったと思う瞬間だ。


「まあ、そうでしたか。こんな所まで遥々ご苦労さまです。何もない所ですけど、ゆっくりなさってくださいね」

「はい」

[ぬ?……ジン。ケアテイカー居ない。KBも居ない]


 俺が言葉を選びながら話していると、Bの腕の中で辺りを見渡していたピービーが声を上げた。


「本当じゃの。ここに居ると思うたんじゃが……」

「ケアテイカーって……まさかあなたたち、あの子のことを知っているの?」

「………え?」


 Bの目が見開かれる。

 あの子、という言い方をした。


[B。ジン。ケアテイカーの友達。友達]

「………友達?」

[うん。友達。仲間。旅仲間]


 Bはピービーを見つめ、やがて目を細めて微笑んだ。コンピューターの上にピービーをちょこんと置き、深く息を吐く。


「……そう。あの子は無事なのね。良かった」

[にゃあ]


 安堵の言葉とともに、シオンとシロが彼女に近付いた。


「B。シオンはもうすぐここに来るよ」

「え?」

「夢を見たの。彼らとシオン、一緒に旅をしていた。辛いこともあったけど、とっても楽しそうだった」


 シオンの笑顔に、Bはそっと手を伸ばして頭を撫でた。


「それで、今はKBと一緒。KBとここに来るよ」

「……けー、……今、KBって言ったの?」

[KB。KB。ケアテイカーとここに来る。ここに来る]

「そう。なら、お迎えに行かないとね。PB、少し手伝ってくれる?」

[ん?]


 ピービーがぴょんと跳ねる。Bはコンピューターのパネルを操作し、やがて近くの大きなガラス板に光の地図を映し出した。


 以前ピービーが見せてくれた光の板と同じ仕組みだ。


「これは?」

「マシーナリーの地図だな。随分簡略化されてるが……」

「この、点滅してるのは何じゃ?」

「それは多分、俺たちじゃないかな? ここの四角が研究所だとすると」


 アルヴィスが指で示し、説明してくれる。

 線と点で描かれた単純な地図だが、むしろ複雑なものよりも直感的にわかりやすい。


「マシーナリーに居るすべての機械に告げます。識別ナンバー08K、名称KBと、識別ナンバー00A、シオン・アースビーを捜索。発見次第、私の元へ連れてきてください。繰り返します――」


 Bがコンピューターに向かって指示を出すと、地図上の無数の点が一斉に動き出し、各方面へと散っていった。


「PB。記録を見せてちょうだい」

[ぬ]


 カタカタとBがボタンを押す。

 するとピービーの目が赤く光り、ピーッと電子音を鳴らした。


 地図が消え、代わりに大きな板――モニターに、一冊の書物が映し出される。

 表紙には、はっきりとこう記されていた。


 "シオン・アースビーの日記"



「……なんだ?」


 思わず首を傾げ、じいさんと顔を見合わせる。


[シオン・アースビー。地球歴初頭、小さな大陸の一軒家で生まれた男の子]


 ピービーが淡々と語り始める。


 その声に合わせるように、モニターの書物のページがぱらりと捲られていった。

 中身は、どこか絵本を思わせるような色鮮やかな挿絵付きの記録だった。


「これは一体……?」

「これは……あの子の日記。あの子自身が綴った記録なの」


 シオンが静かに呟く。


[……シオンは黒猫と旅をしていた。線の上を歩いて旅をしていた。ある日、シオンはとある国に久しぶりに降り立った。そこは緑豊かな、美しい自然の国だった]


 ページが次々と捲られていく。

 そこに描かれていたのは、茶色い髪に黒いマントを羽織った少年と、一匹の黒猫の姿。


 その絵を見て、俺は自然と眉をひそめる。


[シオンは、そこで"十一日間の試練"を受けることになった]

[彼は酒場で出会った灰色の髪の青年と共に、その試練を乗り越えた]

[シオンは神に頼まれた。この世界に生きる四人の人間に宿る呪いを解いてほしい、と]

[そしてシオンは、灰色の髪の青年と、黒髪の女性と共に旅立った]


 ぱらぱらと、一定のリズムで捲られていくページ。

 やがてそれは、途中のページに行き着いたところで静かにパタンと閉じた。

 ピービーの目の光が消え、映し出されていた日記もゆらりと溶けるように消える。

 日記を見終え、Bは小さく息を吐いた。


[B。ジン。神様。ケアテイカーの友達。友達]

「ええ。どうやらそれは本当みたいね」


 ピービーを抱き上げ、Bは俺たちに向き直る。


「ジンさん。PBを連れてきてくれてありがとう」

「え?あ、いえ……」


 思わず戸惑いながらも、彼女の礼に軽く頭を下げる。


[B。ジン。神様。仲良し。仲良し]


 ぴょんっと飛び降りたピービーが、俺の足元で転がりながら飛び跳ねる。

 それを見て、Bはふふっと小さく笑った。


「B、さっきのは一体……?」

「……シオンの記憶よ」

「シオンの……?」

「ただし、あれは"あなたの知らない"シオンの記憶だけど」

「? それは、どういう……」


 問い掛けるアルヴィスに、Bは少し考え込むように視線を落とし、やがて言った。


「……そうね。あなたにも、もう話していい頃かもしれないわ。あの子が来たら、全部教えてあげる」

「……、」


 アルヴィスは言葉を失い、ただBを見つめる。


 その瞬間――部屋の扉が、音を立てて開いた。



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