機械の国へ
[ここ、ここ。機械の国。マリーナリー。マシーナリー]
始まりの国を脱出した僕たちは、KBさんの案内で機械の国――“マシーナリー”へとやって来た。
線の上から地上へ降り、ぐるりと辺りを見渡すと、そこには見たことのないものばかりが広がっていて、思わず息を呑む。
「わぁ……!」
「なんかすごい場所だな。ピービーみたいなのが、やたら多い」
[みんな、Bに造られた。造られた。だからみんな、ボクの兄弟。家族]
「……? ピービー、あの空を飛んでるのもそうなの?」
[うん。あれは飛行機。空を移動する乗り物。乗り物]
「飛行機!!」
説明を聞いて、僕の目が輝く。
飛行機には中にたくさんの人が乗っていて、それは長距離を移動する時に使う乗り物らしい。
「いいなぁ、乗ってみたい!」
「はいはい。また今度な。それにしても……ほんと見たことないものばっかだな。これとか、中に何が入ってんだ?」
近くのコンテナのようなものに触れ、軽く叩いてみると、ガンガンと金属音が響いた。
[シオン。貴方にこれを]
「? ……何、これ?」
[Bのところに行くのに必要なカードキーです]
「カードキー?」
KBさんに渡されたのは、二本の線が描かれた硬い板。つるつるしていて、とても軽い。
[これから、私と彼はBの元へ向かいます。あなたたちは、私たちが戻るまで自由にしていてください]
「え? ジンたちは付いてこないの?」
「俺たちが付いて行っちゃいけねぇ場所なのか?」
[そういうわけではありません。ただ……念のためです]
そう言うと、僕はKBさんに連れられて、ジンたちと離れた。
残されたジンは、小さく息を吐き、改めて周囲を見渡す。
「こんな所で放置ってなぁ……」
[ジン。ジン。KBたち戻るまで自由行動。自由行動]
「……って言われてもな。どうしろってんだ」
「レスター殿ー!」
「ん?」
きょろきょろと辺りを見渡すジン。
そのとき、背後から声を掛けられた。振り返ると、そこには見知った白い姿のお爺さんの姿があり、離れた場所から片手を振っている。
ジンは思わず目を見開いた。
「は? じいさん!?」
[神様! 神様!]
ピービーがぴょんぴょんと飛び跳ねながら叫ぶ。
近付いてきた神様は、白い顎髭を撫でながら「ほほほ」と笑った。
「じいさん、どうしてここに?」
「ケアテイカー殿からの手紙にの、“機械の国に行く”と書いてあったから、わしも来てみたのじゃ」
聞けば、神様は大の機械好きで、一度でいいからこの国を見てみたかったらしい。
僕が送った手紙を読んだら居ても立ってもいられず、はるばる駆けつけてしまった、ということのようだ。
「いやぁ、想像していた通りじゃ! 見ているだけで大興奮じゃわい!」
珍しい機械や、人型ロボットが行き交う光景に、僕以上に目を輝かせる神様。
ジンは冷ややかな視線を送り、ピービーは「神様が喜んでくれて嬉しい」と飛び跳ね続けていた。
「して、ここにはレスター殿だけなのか? ケアテイカー殿は?」
「ああ、それが……」
事情を説明すると、神様は納得したように頷き、それなら一緒に観光しようと提案してきた。
「かんこう……?」
「そうじゃ。暇を持て余しておるのじゃろう? ならばこの国を見て回って、有意義に過ごすのじゃ」
「いや……俺は別に観光とか――」
「さぁ行くぞ、レスター殿!行きたい場所リストを作っておいたからの。効率重視でゴーじゃ!」
「あー……だから俺は、」
[ゴー! ゴー! 観光! 観光!]
神様に強引に腕を引かれ、ジンはそのまま引っ張られる。
足元で転がるピービーも楽しそうで、とても断れる空気ではなかった。
+
神様の「行きたい場所リスト」に書かれていた場所は数え切れないほどあった。
その全てに付き合わされ、休憩がてら立ち寄った広場で、ジンはベンチにぐったりと腰を下ろす。
少し離れた場所では、神様とピービーが次の目的地を相談していて、ジンは深いため息をついた。
「レスター殿ー!そろそろ行くぞー!」
[ジン!ジン!行く!行く!]
「……………、」
休憩が終わると、次に向かったのは巨大な建物の前だった。
入口らしき扉の前で、ピービーがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
[扉。カードキー。カードキー]
ジンと神様は顔を見合わせる。ガラス製らしい扉の奥は、まばゆいほどに明るい。
「カードキーって……さっきのか?」
[ここ。ここにカードキーかざして。そしたら扉、開く。開く。僕も持ってる]
「お前も持ってんのかよ」
背中をぱかっと開けて、ピービーはカードキーを取り出し、ジンに渡した。
言われた通り、黒い箱にかざすと、ピピピと音が鳴り、扉がゆっくりと開いていく。
「うひょ! 開いたぞ! どういう仕組みなんじゃ?」
[こっち、こっち]
「あ、ピービー! 待てって!」
扉が開くや否や、ピービーは建物の中へ走り去ってしまった。
「レスター殿。レスター殿!」
「……なんだよ」
「今、わしは感動しておる。まさか生きているうちに、こうして機械の国へ来られるとはのぉ……」
「……楽しそうだな、ジジイ」
ジンは吐き捨てるように言った。
「はぁぁ……本当に来て良かったのぉ。もう大満足じゃ」
「そりゃ良かったな。……俺たちも行くぞ」
感動で顔をほころばせるお爺さんの腕を引きながら、ジンはピービーのあとを追って建物の中へ入った。
つるつるの床と壁が、奥へ奥へとまっすぐ伸びる廊下。
しばらく歩くと、先を行っていたピービーが廊下の真ん中で止まっていて、その場でコロコロと転がっていた。
近づいてみると、その先にはもう一枚の扉があった。
[開けて。開けて]
扉の隣には、入り口と同じ黒い箱が壁に埋め込まれている。
ジンがカードキーをかざすと、音を立てて扉が開いた。
中は真っ暗。
すると暗さに反応して、ピービーの体がふわりと淡く光った。
「ここは……?」
「部屋のようじゃな」
[ピー]
ピービーはぴょんぴょん跳ねながら、中をきょろきょろと見回す。
[神様。神様。電気点けて。電気点けて]
「……電気?」
「そこにあるやつじゃないか?」
お爺さんが背後の壁に目を向け、スイッチを押した。
次の瞬間、部屋がぱっと明るくなる。
部屋の隅にはクリーム色のテーブルと椅子。反対側にはベッドが置かれ、天井にはそれを隠すためのカーテンが吊られていた。
[ピー。ピー]
「……診察室みたいな部屋だな」
ジンは辺りを見回しながらつぶやく。
その横で、ピービーはテーブルの上に飛び乗り、楽しそうに転がっていた。
「ん? レスター殿、あそこを」
「……?」
ゆらゆらと揺れるピービーから目を離し、神様が示す方を見やる。
そこにはベッドがあり、シーツが小さく膨らんでいた。
「誰か寝ておるのかの?」
「……」
恐る恐る近づくと、一人の女の子が眠っていた。
穏やかな寝息を立て、気持ちよさそうに眠っている。顔立ちからして、まだ子供のようだ。
「この子は……」
ジンがそっと手を伸ばした、その瞬間――。
バンッ!
乾いた音が部屋中に響き渡った。
ジンの目の前を、何かが猛スピードで駆け抜ける。慌てて身を引いたジンの耳に、扉の方から鋭い声が飛び込んできた。
「そいつに触るな!」
「!」
[ジン。ジン]
ピービーがテーブルから飛び降り、ジンの足元でぴょんぴょん跳ねる。
扉の前には、銃を構えた男の姿があった。
紺色の髪をした、長身の男――。
眉をひそめ、鋭い視線でこちらを睨みつけていた。




