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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第6章「機械だらけの宴」
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シオン・アースビーの旅





 昔々、まだこの世界が丸くて、穏やかで、誰もが笑って暮らしていた頃のお話。


 とあるひとりの少年が、相棒と一緒に旅をしていました。


 少年の名は――『シオン・アースビー』。

 彼のそばにはいつも一匹の黒猫が寄り添っていました。

 黒猫の名は――『クロ』。

 クロはシオンの一番の友だちであり、一番の相棒でもありました。


 シオンとクロは、今日もまた新しい道を歩きます。


 これまでに二人が立ち寄った国には、本当にいろいろな人がいました。

 仲間思いの青年や、言葉遣いは少し厳しいけれど心優しい女性。

 大切な家族を守ろうとする青年に、見た目は可愛いけれど立派な心を持った小さなロボット。


 シオンとクロが出会った人たちは、みんなとても個性的で、そしてとても楽しい人たちでした。


「自分も一緒に旅をさせてほしい!」


 出会った人たちは口々にそうお願いしました。


 けれども、シオンは首を横に振って、静かに断るのでした。


 ――それでも、シオンとクロの旅は続いていきます。



 けれど、旅には楽しいことばかりではありません。

 時に、彼らを歓迎しない人々とも出会いました。

 そしてその人たちは、シオンとクロを追い払おうと襲いかかってきたのです。


 けれどシオンは――何もしませんでした。



 シオンとクロの旅は、そこで終わってしまいました。


 めでたし。めでたし。



+


 パタン、と本を閉じる音が響く。

 本を閉じた女性は、膝の上に両腕を乗せている小さな少年の頭を優しく撫でた。


 少年は目を細めて嬉しそうに笑う。


「……ねぇ、ママ」

「なあに?」

「この本の男の子は、どうして何もしなかったの?」

「何もしなかったんじゃないの。――できなかったのよ」

「?」

「この子はね、戦う術を持っていなかったの。だから、そこで旅が終わってしまったの」

「すべって、なに?」

「あら……ふふふ。まだあなたには、この言葉は少し早すぎたかしらね」


 女性はくすくすと笑い、やがて椅子から立ち上がると、本を棚へと戻した。

 少年は立ち上がった女性の手にくっついて、「次は何するの?」と首を傾げる。


 女性は、棚の上に置いてあった水色のリボンで飾られた白い箱を手に取り、少年の前に差し出した。


「……? なにこれ?」

「ふふ。あなたにプレゼントよ。――五歳のお誕生日おめでとう」

「! プレゼント!」


 その言葉に、少年の顔がぱっと明るくなる。

 箱を受け取ると、急いでリボンをほどき、蓋を開けた。


 中には、小さな黒い仔猫。

 仔猫はふるふると震えながら、小さな声で「にゃあ」と鳴いていた。


 少年は箱を床に置き、そっと仔猫を抱き上げる。


「ネコだ!本物のネコ!初めて見た!」


 本の中で見た絵とは違って、ふわふわで、あたたかくて、確かに息をしている命。

 少年は仔猫を優しく抱きしめると、耳元で「にゃー」と鳴く声が響いた。


「ありがとう、ママ!僕、大事にする!」

「喜んでもらえて嬉しいわ。……名前はどうするの?」

「なまえ?あ、そっか……なまえ!えーっと、えーっと……」


 少年はくるくるとその場を回り、じたばたと足を動かしながら一生懸命に考えた。


 そして――。


「決めた!」

「何?」

「クロ!こいつの名前、クロ!」

「あら。どうして?」

「黒いから!それに……ママが読んでくれた本にも出てきたから!」


 少年は仔猫を高く掲げ、「クロ!」と名前を呼ぶと、仔猫は応えるように「にゃー」と鳴いた。


「気に入ったみたいね、その名前」

「うん!これからよろしくね、クロ!」

[にゃー]


 少年はにっこりと笑い、仔猫――クロをぎゅっと抱きしめた。



 ――少年『シオン・アースビー』と黒猫『クロ』の旅は、またここから始まる。





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