シオン・アースビーの旅
昔々、まだこの世界が丸くて、穏やかで、誰もが笑って暮らしていた頃のお話。
とあるひとりの少年が、相棒と一緒に旅をしていました。
少年の名は――『シオン・アースビー』。
彼のそばにはいつも一匹の黒猫が寄り添っていました。
黒猫の名は――『クロ』。
クロはシオンの一番の友だちであり、一番の相棒でもありました。
シオンとクロは、今日もまた新しい道を歩きます。
これまでに二人が立ち寄った国には、本当にいろいろな人がいました。
仲間思いの青年や、言葉遣いは少し厳しいけれど心優しい女性。
大切な家族を守ろうとする青年に、見た目は可愛いけれど立派な心を持った小さなロボット。
シオンとクロが出会った人たちは、みんなとても個性的で、そしてとても楽しい人たちでした。
「自分も一緒に旅をさせてほしい!」
出会った人たちは口々にそうお願いしました。
けれども、シオンは首を横に振って、静かに断るのでした。
――それでも、シオンとクロの旅は続いていきます。
けれど、旅には楽しいことばかりではありません。
時に、彼らを歓迎しない人々とも出会いました。
そしてその人たちは、シオンとクロを追い払おうと襲いかかってきたのです。
けれどシオンは――何もしませんでした。
シオンとクロの旅は、そこで終わってしまいました。
めでたし。めでたし。
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パタン、と本を閉じる音が響く。
本を閉じた女性は、膝の上に両腕を乗せている小さな少年の頭を優しく撫でた。
少年は目を細めて嬉しそうに笑う。
「……ねぇ、ママ」
「なあに?」
「この本の男の子は、どうして何もしなかったの?」
「何もしなかったんじゃないの。――できなかったのよ」
「?」
「この子はね、戦う術を持っていなかったの。だから、そこで旅が終わってしまったの」
「すべって、なに?」
「あら……ふふふ。まだあなたには、この言葉は少し早すぎたかしらね」
女性はくすくすと笑い、やがて椅子から立ち上がると、本を棚へと戻した。
少年は立ち上がった女性の手にくっついて、「次は何するの?」と首を傾げる。
女性は、棚の上に置いてあった水色のリボンで飾られた白い箱を手に取り、少年の前に差し出した。
「……? なにこれ?」
「ふふ。あなたにプレゼントよ。――五歳のお誕生日おめでとう」
「! プレゼント!」
その言葉に、少年の顔がぱっと明るくなる。
箱を受け取ると、急いでリボンをほどき、蓋を開けた。
中には、小さな黒い仔猫。
仔猫はふるふると震えながら、小さな声で「にゃあ」と鳴いていた。
少年は箱を床に置き、そっと仔猫を抱き上げる。
「ネコだ!本物のネコ!初めて見た!」
本の中で見た絵とは違って、ふわふわで、あたたかくて、確かに息をしている命。
少年は仔猫を優しく抱きしめると、耳元で「にゃー」と鳴く声が響いた。
「ありがとう、ママ!僕、大事にする!」
「喜んでもらえて嬉しいわ。……名前はどうするの?」
「なまえ?あ、そっか……なまえ!えーっと、えーっと……」
少年はくるくるとその場を回り、じたばたと足を動かしながら一生懸命に考えた。
そして――。
「決めた!」
「何?」
「クロ!こいつの名前、クロ!」
「あら。どうして?」
「黒いから!それに……ママが読んでくれた本にも出てきたから!」
少年は仔猫を高く掲げ、「クロ!」と名前を呼ぶと、仔猫は応えるように「にゃー」と鳴いた。
「気に入ったみたいね、その名前」
「うん!これからよろしくね、クロ!」
[にゃー]
少年はにっこりと笑い、仔猫――クロをぎゅっと抱きしめた。
――少年『シオン・アースビー』と黒猫『クロ』の旅は、またここから始まる。




