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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
幕間・2
69/106

呪いの残滓 ※クレイズ視点




 魔封術師の国。



 街の裏路地で、死神が呪いの残滓を仕留めた。

 逃げ回る影を追い詰め、顕現させた槍で一突き。甲高い悲鳴を上げて、黒い残滓は煙のように消え失せた。


「………ふぅ」


 死神が軽く息を吐く。


「もう、ここには居ないか?」

「うーん…」


 周囲を見渡す。近場には呪いの気配はないけど、まだ何処かに潜んでいるかもしれない。

 これで、呪いの残滓は十体以上は片付けたはずだ。それでもなお、数が減った実感は薄い。


「まったく……一体どれだけ残ってるんだ、コイツは」

「残滓の気配を探し始めてから、まだそんなに時間は経ってないのにな。他の場所には、まだまだ残っているだろうよ」


 死神が深いため息を漏らす。俺も同じ気持ちだ。

 怪我人である身にとって、逃げ回る残滓を追いかけるのは正直、骨が折れる。だが、残しておけばまた街が危険に晒される。ここで退くわけにはいかない。


「幸い、俺の力で呪いの気配は多少なら感知できるからな。少しは楽だろ」

「まぁな」


 そう言って歩き出そうとしたとき――死神が、ふいに足を止めた。

 静かに槍を構え、鋭い眼差しで背後を振り返る。次の瞬間、刃先が空を裂き、迫ってきた気配の主の喉元へと突きつけられた。


「……っ!」


 現れた人物は目を見開き、慌てて足を止める。

 そこにいたのは、赤と黒の髪を持ち、髪色と同じく赤と黒の衣服を纏った男だった。


「おっと!ちょっと待って!敵じゃねぇって!」


 男は両手を挙げ、慌てた口調で言う。

 死神の眼光は冷たく、まるで相手を貫くようだ。


「証拠はあるのか」


 言うと、男はきょとんとした表情を見せ、頭を悩ませる。


「証拠?え、証拠?証拠……ええ、証拠、…ううん、そうだな……あ、そうだ。お前ら、呪いの残滓を探してんだろ?残りの残滓の居場所を教えてやるよ。どうだ、十分だろ?」


 死神の手がわずかに止まる。俺も眉をひそめた。

 嘘か真か――判別は難しい。だが、もし本当なら、時間を大きく短縮できるのも確かだった。


「……ふざけているのか」

「冗談抜きだって。呪いの残滓、早く片付けたいんだろ?」

「………信じていいのか?」

「さぁな。だがもし、その言葉が嘘だった場合、その時はコイツの胸に風穴が空くだけだ。問題ない」


 死神は槍を引く。

 完全に納得したわけではないが、一刻も早く残滓を片付けなければならない。そのためには、この男の言葉に賭けるしかなかった。


「案内しろ。…少しでも妙な真似をしたら、わかっているだろうな?」

「こっわ」



+


 俺と死神は、男の案内で街を巡った。

 数時間後――すべての残滓は消滅し、ようやく肩の荷が下りる。


「ふぅ……やっと終わったな」


 包帯越しの身体は鈍く痛むが、それ以上に解放感が勝っていた。


「ごくろーさん。ほらな。俺の言った通り、残滓、すぐ見つかったろ?」

「……貴様は何者だ。何故私たちのあとをつけていた?」


 噴水広場のベンチ付近。

 死神が問えば、男は自らの名を名乗り、俺たちに近付いた目的を口にした。


「俺の名はタルオスオール。お前たちに声を掛けたのは他でもない。俺を仲間にしてくれないか?救いたい少女がいるんだ」


 男…タルオスオールは胸に手を当てて言った。


「少女?」

「ああ。あいつは、もうずっと前から呪いに苛まれ続けてる。ひとりで戦い続けてる。俺はもう、たったひとりぼっちで苦しむあいつの姿を見たくないんだ」


 真剣な眼差し。その裏に隠された意図を、俺は探る。


「……どう思う?」

「信用できん」


 即答だった。だが、死神はすぐに続ける。


「……だが、奴が残滓の居場所を知っていたのは事実。助けられたのも事実だ。完全に切り捨てるのは得策ではない。しかし、仲間に引き入れるかどうかは我々だけで決めることではない」

「まぁ、そうだよな。ジンたちの意見も必要だ」


 ケアテイカーやジンたちの意志もある。

 俺たち二人で判断できることではない。

 タルオスオールという得体の知れない男――彼をどう扱うか。

 その答えは、仲間と合流してから出すことになるだろう。


 死神が低く告げる。


「……貴様の言葉は理解した。だが、仲間に加えるかどうかは、今すぐには決められん。我々だけで判断することではない」


 タルオスオールは一瞬目を細め――やがて、肩をすくめて笑った。


「いいさ。いずれ仲間にしてくれるなら、それで十分だ」


 その笑みは友好的で、しかし底の見えない色を帯びていた。


 俺は無言で息を吐き、死神と視線を交わす。

 この男――タルオスオールが、果たして本当に味方なのかどうか。

 答えが出るのは、まだ少し先の話になりそうだった。



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