呪いの残滓 ※クレイズ視点
魔封術師の国。
街の裏路地で、死神が呪いの残滓を仕留めた。
逃げ回る影を追い詰め、顕現させた槍で一突き。甲高い悲鳴を上げて、黒い残滓は煙のように消え失せた。
「………ふぅ」
死神が軽く息を吐く。
「もう、ここには居ないか?」
「うーん…」
周囲を見渡す。近場には呪いの気配はないけど、まだ何処かに潜んでいるかもしれない。
これで、呪いの残滓は十体以上は片付けたはずだ。それでもなお、数が減った実感は薄い。
「まったく……一体どれだけ残ってるんだ、コイツは」
「残滓の気配を探し始めてから、まだそんなに時間は経ってないのにな。他の場所には、まだまだ残っているだろうよ」
死神が深いため息を漏らす。俺も同じ気持ちだ。
怪我人である身にとって、逃げ回る残滓を追いかけるのは正直、骨が折れる。だが、残しておけばまた街が危険に晒される。ここで退くわけにはいかない。
「幸い、俺の力で呪いの気配は多少なら感知できるからな。少しは楽だろ」
「まぁな」
そう言って歩き出そうとしたとき――死神が、ふいに足を止めた。
静かに槍を構え、鋭い眼差しで背後を振り返る。次の瞬間、刃先が空を裂き、迫ってきた気配の主の喉元へと突きつけられた。
「……っ!」
現れた人物は目を見開き、慌てて足を止める。
そこにいたのは、赤と黒の髪を持ち、髪色と同じく赤と黒の衣服を纏った男だった。
「おっと!ちょっと待って!敵じゃねぇって!」
男は両手を挙げ、慌てた口調で言う。
死神の眼光は冷たく、まるで相手を貫くようだ。
「証拠はあるのか」
言うと、男はきょとんとした表情を見せ、頭を悩ませる。
「証拠?え、証拠?証拠……ええ、証拠、…ううん、そうだな……あ、そうだ。お前ら、呪いの残滓を探してんだろ?残りの残滓の居場所を教えてやるよ。どうだ、十分だろ?」
死神の手がわずかに止まる。俺も眉をひそめた。
嘘か真か――判別は難しい。だが、もし本当なら、時間を大きく短縮できるのも確かだった。
「……ふざけているのか」
「冗談抜きだって。呪いの残滓、早く片付けたいんだろ?」
「………信じていいのか?」
「さぁな。だがもし、その言葉が嘘だった場合、その時はコイツの胸に風穴が空くだけだ。問題ない」
死神は槍を引く。
完全に納得したわけではないが、一刻も早く残滓を片付けなければならない。そのためには、この男の言葉に賭けるしかなかった。
「案内しろ。…少しでも妙な真似をしたら、わかっているだろうな?」
「こっわ」
+
俺と死神は、男の案内で街を巡った。
数時間後――すべての残滓は消滅し、ようやく肩の荷が下りる。
「ふぅ……やっと終わったな」
包帯越しの身体は鈍く痛むが、それ以上に解放感が勝っていた。
「ごくろーさん。ほらな。俺の言った通り、残滓、すぐ見つかったろ?」
「……貴様は何者だ。何故私たちのあとをつけていた?」
噴水広場のベンチ付近。
死神が問えば、男は自らの名を名乗り、俺たちに近付いた目的を口にした。
「俺の名はタルオスオール。お前たちに声を掛けたのは他でもない。俺を仲間にしてくれないか?救いたい少女がいるんだ」
男…タルオスオールは胸に手を当てて言った。
「少女?」
「ああ。あいつは、もうずっと前から呪いに苛まれ続けてる。ひとりで戦い続けてる。俺はもう、たったひとりぼっちで苦しむあいつの姿を見たくないんだ」
真剣な眼差し。その裏に隠された意図を、俺は探る。
「……どう思う?」
「信用できん」
即答だった。だが、死神はすぐに続ける。
「……だが、奴が残滓の居場所を知っていたのは事実。助けられたのも事実だ。完全に切り捨てるのは得策ではない。しかし、仲間に引き入れるかどうかは我々だけで決めることではない」
「まぁ、そうだよな。ジンたちの意見も必要だ」
ケアテイカーやジンたちの意志もある。
俺たち二人で判断できることではない。
タルオスオールという得体の知れない男――彼をどう扱うか。
その答えは、仲間と合流してから出すことになるだろう。
死神が低く告げる。
「……貴様の言葉は理解した。だが、仲間に加えるかどうかは、今すぐには決められん。我々だけで判断することではない」
タルオスオールは一瞬目を細め――やがて、肩をすくめて笑った。
「いいさ。いずれ仲間にしてくれるなら、それで十分だ」
その笑みは友好的で、しかし底の見えない色を帯びていた。
俺は無言で息を吐き、死神と視線を交わす。
この男――タルオスオールが、果たして本当に味方なのかどうか。
答えが出るのは、まだ少し先の話になりそうだった。




