表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第5章「始まりの国」
64/106

好奇心には誰も勝てない





 瓦礫に覆われた街をキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。

 広がるのは崩壊したいくつもの建物と灰色の大地。緑はなく、風に舞う砂埃だけが延々と視界をかすめる。

 その光景にただただ気圧されるばかりだけれど、僕の心は躍っていた。


「すごいよ、ジン!見て!」


 思わず声をあげると、ジンは僕の方に顔を向ける。

 よくそんなテンション高く行けるな。と半分呆れられたけど、一向に構わない。

 胸の奥から湧き上がるこの気持ちは抑えられなかった。


「ねぇ、もっと見て回ろう!街だけじゃなくて、この国全体を!」

「うん。国全体はちょっと無理だな」


 瓦礫に残された建物の影、途切れた石畳の道、崩れた城壁。

 一つひとつが僕にとっては宝物みたいで、ただの荒廃した光景だなんて思えなかった。


「ジーン!ここも見てみて!凄いもの見つけたー!」

「………何であいつはあんなにも元気なんだ」

[ケアテイカーの好奇心爆発中。爆発中]


 ジンは終始冷ややかな目で僕を見ていたけど、その視線に怯まず、僕は前を向いた。

 荒野の向こうに何があるのか知りたい。

 まだ誰も気づいていない秘密が、きっとどこかに眠っている。


「あ!あそこにも何かあるよ!」


 声を張り上げ、先頭に立って歩き出す。

 足取りは軽く、まるで冒険の始まりに戻ったみたいに胸が高鳴っていた。


+


 崩れた街並みを歩きながら、僕は胸を高鳴らせていた。

 壁が半分落ちた家屋、ガラスの砕け散った窓、錆びついた看板。

 それらは本来なら恐ろしい光景なのかもしれないけれど、僕にとっては“謎を解くための手がかり”にしか見えなかった。


「ねぇ見て!この家、まだ棚が残ってる!」


 中に入れば、倒れた椅子や割れた食器が散らばっている。

 だけど、不思議なことに埃は薄く、つい最近まで誰かが住んでいたみたいに思える場所もあった。

 胸の奥がゾクゾクする。


 次に立ち寄ったのは、広場らしき場所だった。

 石畳は剥がれ、噴水は根元から崩れている。

 けれどその噴水の縁には、まだ何かの模様が残っていて――僕は夢中になって手でなぞった。


「ほら!これ、何かの紋章じゃない?」


 ジンたちは疲れた表情で僕を見ていたけど、そんなこと気にしていられない。

 ここには、この国の“真実”が散りばめられている気がしてならなかった。


 さらに歩き続け、僕たちはやがて街の中心にたどり着く。

 そこに待っていたのは――瓦礫に沈む巨大な影。


「……城、だね」


 壊れた尖塔、崩れ落ちた城壁。

 まるで巨人に踏み潰されたみたいに無惨な姿をしているのに、それでもなお威圧感を放っていた。


 僕は喉を鳴らしてごくりと唾を飲み込む。

 これまでの探索心とは違う、どこか不穏な気配を感じながらも――心はすでに決まっていた。


 崩れた城の前に立ち、僕は思わず息を呑んだ。

 瓦礫に埋もれ、ほとんど形を失っているのに、それでも“王の居場所”だった威厳がそこには漂っていた。

 胸の奥がドクドクと波打ち、好奇心が弾ける。


「……すごい。中、どうなってるんだろ」


 僕が一歩踏み出した瞬間、背後からジンの声が飛んできた。


「ちょっと待て」


 振り返ると、彼は険しい表情でこちらを見ていた。


「中は危険だから行くな」


 一瞬だけ、ためらう。けれど――僕の足はもう止まらなかった。


「大丈夫!ちょっとだけだから!」


 そう言って、僕は瓦礫の隙間をすり抜け、薄暗い城の入口へと滑り込んだ。

 ジンのため息が背中越しに聞こえる。


「……仕方ねぇな」


 次の瞬間、重たい靴音が後ろから追いかけてきた。

 結局ジンも、僕を放ってはおけないのだろう。


 城の中はひんやりとしていて、外の荒廃した街とはまた違う不気味さがあった。

 倒れた柱、砕けた天井、壁一面を覆う煤の跡。

 けれど僕の心は恐怖よりも好奇心に突き動かされていた。


「見てよ、ジン!ここにまだ絵が残ってる!」


 壁の端に掠れた装飾を見つけて駆け寄る。


[ケアテイカー、疲れる]

「まったくだ」


 ピービーの言葉に頷き、ジンは頭を抱えるようにして低く呟いた。



+


 そして、辿り着いたのは玉座の間。


「……わあ!」


 思わず息を呑む。

 天井はところどころ崩落し、外の光が瓦礫の隙間から差し込んでいる。

 しかし玉座自体はまだ残っており、その周囲には広い空間が広がっていた。


 僕はあちこちを調べて回った。

 瓦礫を避け、割れた柱の影を覗き、古びた石畳を踏みしめて。

 僕のあとから玉座の間に入ったジンたちも、キョロキョロと周囲を見渡して、足下の瓦礫に注意しながら歩みを進めた。


「なぁ、ケアテイカー!そろそろ戻ろう!」


 声を張り上げて、ジンが言う。


「もう少しー!」


 離れた所で返事をし、僕はジンの方を向かずに応えた。



 ――クスクス。


 その時、耳に届いたのは、どこか楽しげな女の子の笑い声。

 一瞬、空耳かと思った。


 けれど次の瞬間――


『やっと来てくれた』


 澄んだ声が、玉座の間に響いた。

 思わず振り返る。


 そこに立っていたのは、黒い靄を纏った小さな女の子の姿だった。

 顔立ちも衣装も黒に溶け込み、ただ紅く光る瞳だけが闇の中で鮮烈に輝いている。


「……え?」


 思わず声が漏れた。

 ジンにも声が聞こえたのか、姿をみて顔を青ざめ、瞳を大きく見開いている。


 女の子はただ笑みを浮かべながら、俺たちを見ていた。

 その笑みは無邪気にも、恐ろしくも見えて――僕は息を呑むしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ