好奇心には誰も勝てない
瓦礫に覆われた街をキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。
広がるのは崩壊したいくつもの建物と灰色の大地。緑はなく、風に舞う砂埃だけが延々と視界をかすめる。
その光景にただただ気圧されるばかりだけれど、僕の心は躍っていた。
「すごいよ、ジン!見て!」
思わず声をあげると、ジンは僕の方に顔を向ける。
よくそんなテンション高く行けるな。と半分呆れられたけど、一向に構わない。
胸の奥から湧き上がるこの気持ちは抑えられなかった。
「ねぇ、もっと見て回ろう!街だけじゃなくて、この国全体を!」
「うん。国全体はちょっと無理だな」
瓦礫に残された建物の影、途切れた石畳の道、崩れた城壁。
一つひとつが僕にとっては宝物みたいで、ただの荒廃した光景だなんて思えなかった。
「ジーン!ここも見てみて!凄いもの見つけたー!」
「………何であいつはあんなにも元気なんだ」
[ケアテイカーの好奇心爆発中。爆発中]
ジンは終始冷ややかな目で僕を見ていたけど、その視線に怯まず、僕は前を向いた。
荒野の向こうに何があるのか知りたい。
まだ誰も気づいていない秘密が、きっとどこかに眠っている。
「あ!あそこにも何かあるよ!」
声を張り上げ、先頭に立って歩き出す。
足取りは軽く、まるで冒険の始まりに戻ったみたいに胸が高鳴っていた。
+
崩れた街並みを歩きながら、僕は胸を高鳴らせていた。
壁が半分落ちた家屋、ガラスの砕け散った窓、錆びついた看板。
それらは本来なら恐ろしい光景なのかもしれないけれど、僕にとっては“謎を解くための手がかり”にしか見えなかった。
「ねぇ見て!この家、まだ棚が残ってる!」
中に入れば、倒れた椅子や割れた食器が散らばっている。
だけど、不思議なことに埃は薄く、つい最近まで誰かが住んでいたみたいに思える場所もあった。
胸の奥がゾクゾクする。
次に立ち寄ったのは、広場らしき場所だった。
石畳は剥がれ、噴水は根元から崩れている。
けれどその噴水の縁には、まだ何かの模様が残っていて――僕は夢中になって手でなぞった。
「ほら!これ、何かの紋章じゃない?」
ジンたちは疲れた表情で僕を見ていたけど、そんなこと気にしていられない。
ここには、この国の“真実”が散りばめられている気がしてならなかった。
さらに歩き続け、僕たちはやがて街の中心にたどり着く。
そこに待っていたのは――瓦礫に沈む巨大な影。
「……城、だね」
壊れた尖塔、崩れ落ちた城壁。
まるで巨人に踏み潰されたみたいに無惨な姿をしているのに、それでもなお威圧感を放っていた。
僕は喉を鳴らしてごくりと唾を飲み込む。
これまでの探索心とは違う、どこか不穏な気配を感じながらも――心はすでに決まっていた。
崩れた城の前に立ち、僕は思わず息を呑んだ。
瓦礫に埋もれ、ほとんど形を失っているのに、それでも“王の居場所”だった威厳がそこには漂っていた。
胸の奥がドクドクと波打ち、好奇心が弾ける。
「……すごい。中、どうなってるんだろ」
僕が一歩踏み出した瞬間、背後からジンの声が飛んできた。
「ちょっと待て」
振り返ると、彼は険しい表情でこちらを見ていた。
「中は危険だから行くな」
一瞬だけ、ためらう。けれど――僕の足はもう止まらなかった。
「大丈夫!ちょっとだけだから!」
そう言って、僕は瓦礫の隙間をすり抜け、薄暗い城の入口へと滑り込んだ。
ジンのため息が背中越しに聞こえる。
「……仕方ねぇな」
次の瞬間、重たい靴音が後ろから追いかけてきた。
結局ジンも、僕を放ってはおけないのだろう。
城の中はひんやりとしていて、外の荒廃した街とはまた違う不気味さがあった。
倒れた柱、砕けた天井、壁一面を覆う煤の跡。
けれど僕の心は恐怖よりも好奇心に突き動かされていた。
「見てよ、ジン!ここにまだ絵が残ってる!」
壁の端に掠れた装飾を見つけて駆け寄る。
[ケアテイカー、疲れる]
「まったくだ」
ピービーの言葉に頷き、ジンは頭を抱えるようにして低く呟いた。
+
そして、辿り着いたのは玉座の間。
「……わあ!」
思わず息を呑む。
天井はところどころ崩落し、外の光が瓦礫の隙間から差し込んでいる。
しかし玉座自体はまだ残っており、その周囲には広い空間が広がっていた。
僕はあちこちを調べて回った。
瓦礫を避け、割れた柱の影を覗き、古びた石畳を踏みしめて。
僕のあとから玉座の間に入ったジンたちも、キョロキョロと周囲を見渡して、足下の瓦礫に注意しながら歩みを進めた。
「なぁ、ケアテイカー!そろそろ戻ろう!」
声を張り上げて、ジンが言う。
「もう少しー!」
離れた所で返事をし、僕はジンの方を向かずに応えた。
――クスクス。
その時、耳に届いたのは、どこか楽しげな女の子の笑い声。
一瞬、空耳かと思った。
けれど次の瞬間――
『やっと来てくれた』
澄んだ声が、玉座の間に響いた。
思わず振り返る。
そこに立っていたのは、黒い靄を纏った小さな女の子の姿だった。
顔立ちも衣装も黒に溶け込み、ただ紅く光る瞳だけが闇の中で鮮烈に輝いている。
「……え?」
思わず声が漏れた。
ジンにも声が聞こえたのか、姿をみて顔を青ざめ、瞳を大きく見開いている。
女の子はただ笑みを浮かべながら、俺たちを見ていた。
その笑みは無邪気にも、恐ろしくも見えて――僕は息を呑むしかなかった。




