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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第5章「始まりの国」
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母さんの家で ※ジン視点





 俺は深く息を吸い込み、壊れた扉を押し開けた。

 錆びついた蝶番が悲鳴を上げ、重たい音が地下に響き渡る。


 中は薄暗く、鼻を突くような鉄と埃の匂いが充満していた。

 壁際には壊れた机や棚が押し潰されるように倒れ、ガラス片が床一面に散らばっている。


「……随分荒れてるな」


 小声で呟くと、後ろからケアテイカーも恐る恐る入ってきた。


「まるで、誰かが暴れた後みたいだね……」


 ピービーがぴょんと壊れた机の上に乗り、光を放ちながら周囲を照らす。

 その光が、俺たちの足元に長い影を落とした。


「手分けして探してみよう。何か、母さんの手掛かりが残ってるかもしれない」

「…分かった」


 それぞれが部屋を散策し始める。

 ケアテイカーは棚の残骸を漁り、俺は奥に積み上がった瓦礫をどかしていった。


 その時――。


[ジン。こっち。こっち]


 ピービーがふいに光を強め、奥の壁際を示した。

 そこには小さな通路があり、半ば瓦礫で塞がれていたが、辛うじて人が通れる隙間があった。


「……まだ奥があるのか」


 腰をかがめ、慎重に通路を進む。やがて現れたのは、ひんやりとしたコンクリートの空間だった。


 牢獄のような部屋――。

 無機質な灰色の壁、無骨な鉄格子、冷え切った空気。

 誰も居ないはずなのに、そこに立っているだけで背筋が粟立つ。


「ここは……牢屋か?」


 顔を引きつらせ、呟く。

 俺は奥へと歩み寄り、錆びたベッドの下に黒ずんだ箱が落ちているのを見つけた。


 箱を開けると、中には一冊の古びた日記帳が入っていた。

 表紙は擦り切れており、角は欠けている。だが、その表紙には確かに文字が刻まれていた。


『Sの日記』


 息を呑み、しばし言葉を失う。


 俺は日記をそっと開いた。

 ページは黄ばんでいて、文字はかすれ、時折涙でにじんでいる箇所もあった。


 そこに綴られていたのは――幼い頃の、母さんの苦悩だった。

 幼少期から突如として始まった父親の虐待。毎日のように繰り返される理不尽な叱責と暴力。

 それまで母さんの目に映る彩りのある世界は、いつしか恐怖と孤独しかない世界へと変貌していった。


 そして、母さんの母親の死。

 その悲しみの中、父親の隙をついて家を逃れる描写が続く。

 逃げ延びた先で、母さんはある男と出会い、支え合うように生きていったことも書かれていた。


 次のページには、妊娠したことへの驚きと戸惑い、そして不安に震える字で、ただ一つの願い――

 「どうか無事に生まれてきてくれますように」

 と、俺の無事な誕生を祈る母さんの思いが綴られていた。


 読み進めると、見覚えのある名前も出てきた。


 ――PB(ピービー)

 ――KB。


 母さんは、その男と行動を共にしていたピービーやKBのことを日記に記していた。

 彼女たちは母さんの逃走を助け、支えてくれていたこと。

 そして、俺の誕生を見届け、守ってくれた存在だというのがつらつらと書かれている。


 胸が熱くなる。

 母さんはどれだけ孤独で、どれだけ恐怖と戦いながら俺を産んでくれたのか。

 その思いを考えると、自然と拳に力が入った。


 まだ日記は終わっていない。

 ページをめくると、そこには呪いの事が書かれていた。


「これ……!」


 俺は目を見開き、ページに書かれた文章を読み進める。

 突然始まった父親からの暴力は、すべて呪いに侵食された結果からの行動だった。

 母さんの父親は研究者として働いていて、そこで彼は"呪い"についての研究をしていたらしい。


『彼の話では、父は呪いの研究に取り憑かれ、その影響で心まで蝕まれていたらしい』


 母さんの父親は、呪いの研究を始めてすぐに家の地下に研究室を作り、研究に没頭していった。

 そこから一ヶ月も経たないくらいに父親からの突然の虐待が始まり、母さんは母親と共に、俺が今居る牢獄のような部屋に閉じ込められた。

 その間に母親は死に、それから何年もの間、母さんは父親からの暴力に苦しめられた。

 この部分に関しては、前のページでも触れられていた。


「…………、」


 口元を覆い、眉をひそめて日記の続きを読み進める。


 その内容に、俺は再び言葉を失った。




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