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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第5章「始まりの国」
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降り立った場所は ※ジン視点





 ――辿り着いたその場所は、あまりにも静かすぎた。


 地面にはひび割れが走り、かつて畑だったのか平原だったのかも分からない灰色の大地が広がっている。

 見渡す限り緑は一切なく、木々どころか雑草の一本すらも生えていない。

 空はどこか鈍色に濁り、太陽は雲に覆われてほとんど光を落とさない。


「……ここが、始まりの国……?」


 最初に声を上げたのはケアテイカーだった。

 彼は思わず一歩足を止め、荒れ果てた大地を見渡して目を瞬かせる。


 現在、この場所に居るのは、俺とケアテイカーとクロ。そしてピービー。

 死神とクレイズは、暁の水晶球が残した"呪いの残滓"を探して、それを消すために街に残った。


「この世界に、こんな所があったなんて吃驚だよ」

「人間はともかくとして、動物も居ないなんてな……」


 耳に届くのは自分たちの靴音と、時折吹き抜ける冷たい風の音だけだった。

 鳥の声も、虫の音も――命を感じさせる気配はどこにもない。


 俺は無意識に息を呑み、拳を握る。

 この国が、母さんの出身国なのか…。


[こっち。ついてくる]


 ぴょん、とピービーが跳ね、淡い光を帯びながら先へ進む。

 彼が示した方角には、崩れかけた城壁のようなものが遠くに見えた。


「……あれが街か?」

[うん。あそこ。セレーナの家、あの中にある。ある]


 ピービーの言葉に導かれ、俺たちは廃墟と化した街へと足を踏み入れる。


 街並みはかつて賑わいを見せていたはずなのに、今は見る影もない。

 瓦礫と砂埃に埋もれた建物が無造作に並び、割れた窓から冷たい風が吹き抜けていく。

 人の気配はなく、ただ「死んだ国」という言葉がぴたりと当てはまる光景だった。


「……ここも酷いね」


 キョロキョロと辺りを見渡し、ケアテイカーが低く呟く。


 俺は答えなかった。

 街の惨状に、歩みを止めることはできない。

 ピービーの先導のもと、俺たちは街の奥へと進んでいった。


 街の奥へ進むにつれ、建物はますます形を失い、骨のように柱だけが残った家々が並んでいた。

 かつては人が暮らしていたのだろう。だが今は影も形もなく、残されているのは崩れた壁と乾いた石畳だけだ。


[……ここ。ここ]


 ピービーが足を止め、壊れかけた門を映し出す。

 そこには二階建ての家があった――いや、かつてはそうだった、と言うべきか。

 屋根の一部は崩れ落ち、壁もひび割れている。それでも他の家々よりはまだ形を留めていた。


「ここが……セレーナさんの家?」


 ケアテイカーが小さく呟き、俺の顔を見上げる。


 俺は答えず、ただ無言で門を押し開けた。

 重い音を立てて軋む扉。その音がやけに響き渡り、自然と足が止まる。


「……入ろう」


 振り向いて言い、歩き出す。


 中は静まり返っていた。

 崩れかけた床板を踏むたびに埃が舞い上がり、誰もいないのに、そこに確かに人が暮らしていた気配だけが残っている。


「……なんだろう」


 ケアテイカーが息を潜めるように言った。


「確かにここには人がいた証があるのに、けど誰もいなくて、凄く不思議な感じ」


 俺は一歩、二歩と進み、リビングらしき場所で立ち止まった。

 そこには、割れた食器や古びた家具が散乱している。

 だが――壁際の棚の上に、奇跡的に割れずに残った一枚の写真立てがあった。


「……!」


 息を呑み、手を伸ばす。

 埃を拭うと、そこには幼い母さんの姿と、その両親?が並んで写っていた。

 母さんは満面の笑顔で笑っていて、両親の方も幸せそうに微笑んでいる。

 それを見て、今も脳裏に残る母さんの面影と重なり、胸が締め付けられた。


「ジン……?」


 ケアテイカーが心配そうに呼ぶ声が背後から届いた。

 振り返らずに、俺はただ写真を見つめ続けた。


 ――ここに、確かに母さんは居て、生きていた。


 写真立てを棚に戻し、部屋をさらに奥へと進む。

 崩れた家具や散らかった書類の間を縫うように歩いていると、床の一部が妙に沈んでいることに気づいた。


「……ジン。ここ見て」


 ケアテイカーの言葉に、かがみ込んで埃を払うと、そこには木の板で覆われた小さな扉が隠れていた。

 取っ手を引くと、ぎぃ、と鈍い音を立てて開き、暗い階段が口を開ける。


「地下室……?」


 ケアテイカーが息を呑む。

 暗闇の中から冷たい空気が流れ出て、背筋を這い上がってくる。

 胸の奥がざわつくのを感じながらも、俺はゆっくりと足を踏み入れた。


 一段、二段と降りるごとに、上の光は遠ざかり、闇が濃くなる。

 ケアテイカーとピービーの気配を背に感じながら、やがて階段の終わりに辿り着いた。


 そこには――壊れた扉が立ちはだかっていた。

 片方は外れかけ、もう片方は内側にひしゃげ、まるで何かに押し破られたかのようだった。


「…………」


 息を詰めて近づく。

 扉の隙間から覗いた先には、薄暗い部屋が広がっていた。

 割れた瓶や壊れた器具の残骸が散らばり、壁一面には見慣れぬ文字が刻まれている。


 それはまるで――何かを封じようとした痕跡のようだった。





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