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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第1章「11日間の試練」
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女の人VSジン





 僕たちの力を見せよ。

 神様は、確かにそう言った。


 場所は神様の家の裏手に広がる、わずかに開けた一角。

 四方を囲むのは、周囲の民家と同じ色をした無機質なブロック塀。幾段にも積まれ、まるで外界からこの場を切り離す防壁のようだった。


 空間の中央、地面には幾何学的(きかがくてき)な文様を描く魔法陣が刻まれている。その上で、槍を手にした女の人とジンが対峙していた。

 僕と神様は魔法陣からやや離れた位置で二人を見守る。ジンはわずかに表情をこわばらせ、怯えを隠しきれない様子だった。


「よいか、加減するんじゃぞ!」


 神様の声が響く。

 魔法陣から放たれる光は半球状の障壁結界となり、二人を包み込んでいた。外へ余波が及び、周囲の家々を壊すことを防ぐためらしい。

 なるほど、今から戦いが始まるのなら当然の備えだ。


「準備はいいか!」

「……戦いはあんま好きじゃねぇんだけどな」


 女の人が低く言い放ち、槍を構える。

 ジンは渋々といった面持ちで黒いパーカーの内側ポケットから一枚の札を取り出し、構えた。紙切れ――いや、ただの紙ではない。


「ほぉ、レスター殿の武器はそれか」


 神様が興味深げに頷く。


[なぁ、なんだあれ? あんなモンで勝てんのかよ?]


 肩に乗るクロが訝しむ。


「あれは“魔封術”の札じゃよ」

「魔封術?」


 僕の反応を見て、神様が説明を続けた。


「古来より伝わる武具の一つ。一枚持つだけで、この世に存在するすべての属性魔法を行使できる、まさに万能の術札じゃ」

[へぇ……]


 クロが感心したように頷く。

 古代の武具……もしかして、地球が箱詰めにされる以前の遺物だろうか。そうだとしたら、確かに興味をそそられる。


「おぬしの武器はそれか。せいぜい破られぬよう気を付けるんだな!」


 女の人が地面を蹴り、鋭い踏み込みとともに槍を振るった。

 刃が迫る寸前、ジンは身をひねってかわし、札を横一文字に払う。


炎閃(えんせん)!」


 言葉と同時に札に描かれた魔法陣が赤く輝き、一筋の炎が疾駆するように放たれた。

 炎を間近に浴び、女の人は表情を歪めて即座に後退する。


[おっ、なかなかやるじゃん!]


 炎の軌跡は徐々に消え、女の人は槍をくるりと回して構え直した。

 神様は目を細め、ジンの動きをじっと観察している。


「ふむ……やはり、わしの目に狂いはなかった」


 ほほほ。と、顎髭を撫でながら笑う。


「この私に一撃とはな。大抵の輩は、私の姿を見ただけで尻尾を巻くものだが」

「逃げる場所なんざねぇだろ。だったら戦うしかねぇんだよ、嫌でもな!」


 ジンは札を高く掲げる。

 次の瞬間、札から放たれた光が彼の全身を包み込んだ。


「おおっ!」

「神様?」

「あれは光の魔封術! 数ある魔封術の中でも、使い手はほんの数人しかおらぬ希少な術じゃ!」


 興奮を隠せぬ神様の声に、僕はただ瞬きをする。見た目は確かに美しい光だけど、それほど珍しいものなのだろうか。


「ふん……そんな術、私に通じ――っ!」


 女の人が再び踏み込む。けれどジンは一瞬で背後へ回り込み、懐からもう一枚の札を引き抜いた。


封縛(ふうばく)!」


 乾いた破裂音と共に札が女の人の背中へ貼り付く。

 無数の糸のような光が彼女の四肢を絡め取った。バランスを崩し、倒れかけた女の人は最後の抵抗とばかりに槍を振り上げる。


 ジンは咄嗟に身を引くも、完全には避けきれず頬に浅い傷を負った。赤い筋が滲んで血が流れる。


「そこまでじゃ!」


 神様の声で女の人の動きが止まる。同時に結界も魔法陣も消え、ジンはその場に尻餅をついて大きく息を吐いた。

 僕は駆け寄り、大丈夫かと問いかける。


「ああ、平気。ちょっと疲れたけどな」


 神様が歩み寄り、ジンを見下ろした。


「魔封術、確かに見せてもらった。いやはや、想像以上じゃ」

「……そりゃどーも」

「おい、この術を早く解け! 動けぬではないか!」

「焦るな。魔封術は精神力を大きく削る。しばし休ませてやれ」


 不満を隠さず舌打ちする女の人を横目に、僕はジンの札を見せてもらった。

 遠くからではよく見えなかったけど、そこには複雑な魔法陣の他にも見知らぬ文字が刻まれている。


「この札は、すっかりレスター殿に身を委ねておるな」

「…わかるのか?」

「うむ。ここに記された言葉を見ればな。……使いこなすまで、相当苦労したじゃろ」


 ジンの肩がわずかに震える。

 札からは確かに、持つ者を圧倒するほどの力が感じられた。


「さて――次はケアテイカー殿じゃ」

「え?」


 神様の視線が僕に向く。

 そうだった、僕もやるんだった。


「レスター殿、もう動けるか?」

「ああ、動くだけなら」

「ならば、死神と一緒に端へ寄っておれ。ケアテイカー殿の相手は……わしが務めよう」

「……ん?」

「……え?」


 え? 今、この神様なんて言った?




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