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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第4章「魔封術師の国」
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魔封術師の国・その後 ※ジン視点





 その後の俺たち。



「……………」


 目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

 ぼんやりとした意識の中で、ここはどこだろうと考える。


「ジン。目が覚めましたか?」

「………ティタニア?」


 声に反応して顔を向けると、椅子に座ったティタニアがいた。

 彼女は心配そうにこちらを見つめている。白いローブはまだ身にまとったままだ。


 どうやらここはレスター家にある、俺の部屋らしい。

 謎の女に叩きのめされて動けなくなった俺たちを、ティタニアたちがここまで運んでくれたのだという。


「運んだ? …お前が?」

「ええ。ここまでジンたちを運ぶのに時間はかかりましたが、なんとか」


 その言葉に、思わず目を見開いた。

 大変な重労働をさせてしまったのだ。


「…悪い。重かったろ?」

「そんな。謝らないでください。あなたは、こうしてまた私を救ってくれたのです。せめて、私にもお役に立たせてください」

「……………」


 あれから俺たちは、親父から渡された暁の水晶球を壊し、街の住人にかけられた呪いを消滅させた。


 ピービーの話によると、暁の水晶球には莫大な呪いが封じ込められていて、親父が持っていた“喋る呪いの札”と同じように、住人全員に呪いをばらまいていたらしい。


 そして暁の水晶球の呪いと、住人に宿っていた呪いは本来ひとつの存在。だから水晶球を破壊したことで同時に住人の呪いも消え去った、というわけだ。


 ちなみに親父の呪い札はというと――今も俺が持っている。

 地下に落ちてからも、ケアテイカーと合流してからも、死神たちと再会してからも、さらには謎の女と戦っている間さえも、止まることなくベラベラと喋り続けるものだから、正直ウザすぎた。


「死神たちは?」

「大丈夫です。あの方たちも他の部屋で療養中です。今、老婆先生が皆様の傷を診ています」

「そうか……」


 痛む身体をおしてゆっくりと起き上がると、ティタニアが手を貸してくれた。

 彼女の腕もまた包帯に覆われている。


「ティタニアは……体調に変化とかは?」

「ええ。大丈夫。ジンが貼ってくれたお札のおかげで、なんともありません」


 そう言ってローブを少し開き、胸元に貼られた札を見せる。

 札の魔法陣は淡い緑色の光を放っていて、それを見て俺は胸をなで下ろした。


 この札を貼った理由はただ一つ。

 暁の水晶球の力に操られたティタニアを鎮めるためだった。

 地下に落ちても水晶球の力は失われず、彼女は無理やり俺に襲いかかってきた。

 だから俺は考えていた手段のひとつを使い、札を胸元に貼って強引に動きを封じたのだ。


「それでは、私は老婆先生に伝えてきますね。ジンが目を覚ましたら知らせるように、と言われていますので」


 そう告げてティタニアは立ち上がり、部屋を出て行った。


 パタン、と扉が閉まり、部屋が静かになる。

 俺はキョロキョロと視線を巡らせた。


 ――四年前まで使っていた自分の部屋。

 必要最低限の物しか置いていない殺風景な部屋だ。

 だが、長い間使われていないはずなのに埃ひとつなく清潔なままで、懐かしさと同時に驚きを覚える。

 ……誰かが、ずっと掃除してくれていたのだろうか。


「おお、ジンちゃん。元気そうだね」


 首を傾げていると、扉が開いて老婆先生が入ってきた。

 笑みを浮かべながらこちらへ歩み寄る。


 さらにその後ろからケアテイカーとピービーの姿も見えた。


「ジン!良かった!目が覚めたんだね!」

[ジン!ジン!]


 ケアテイカーは俺の姿を見つけるなり、嬉しそうに駆け寄ってくる。

 腕に抱かれていたピービーはベッドにぴょんと飛び乗り、くるくると回った。


「ケアテイカー、ピービー」

「うん。傷もだいたい治っているね。ティタニアちゃんに運ばれて来た時は本当に心配したけど……良かった良かった」


 老婆先生は安心したように笑みをこぼす。

 ケアテイカーはベッドの端に腰を下ろし、真剣な目で俺を見つめた。


「……ジン、街の人たちは助かったよ。呪いが解けて、みんな元気を取り戻し始めてる」

「そうか……」

[良かった。良かった]


 その言葉に、胸の奥にじんわりと安堵が広がった。


「でもね」


 ケアテイカーの声色がわずかに沈む。


「呪いは消えたけど、全部が終わったわけじゃない。あの水晶球に宿っていた力の残り火――“呪いの残滓”が、まだ街の奥に漂っているんだ」

「呪いの……残滓?」

「ピービーがそう言ってた」

[残滓、残滓。まだ残ってる。暁の水晶球を壊しても、呪いの力が強すぎたせいで、街に残った。探して消さないと大変。大変]


 小さな体を震わせながら、ピービーが告げる。

 俺は視線を落とし、強く拳を握った。


 水晶球。親父。呪い。

 ……そして、セレーナ。


 あの時、KBとかいう女が言った言葉が頭をよぎる。


『――始まりの国』


 そこへ行けば、何がわかるというのだろうか。


「ジン?」


 不安げに僕の名を呼ぶケアテイカーに、ゆっくりと顔を上げた。


「! あ、悪い。ちょっと考え事してて…」

「考え事って、…KBさんに言われた事?」

「……まぁな。あの女は、母さんの事を知ってた。それが、どうしてなのかなって」

「うん。……僕もKBさんの事は気になってて。どうして僕の名前を知ってたのかなって」

「前に会ってるとか?」

「ううん。会った事ないよ。もし会ってたら、あんなに強い人の事を忘れるわけない」

「…………」

「それでね、どうしてなのかなって思って、ピービーに聞いてみたんだ。そしたら――」

[マリーナリー!マシーナリー!]

「…の、一点張りになっちゃって」

[マシーナリー!]


 ピービーは叫び続ける。


「マシーナリーって、もしかして機械の国の事か?」

「ジン、知ってるの?」

「ああ」


 機械の国。別名マシーナリー。

 その名の通り、その国にはほとんど機械しか存在しない。

 人間も少なからず居るという話は聞いたが、本当かどうかは怪しい。


[マシーナリーにはBが居る。BはKBと僕を作った。ケアテイカー。会いに行く。会いに行く]

「B?」


 ピービーの言葉に、俺とケアテイカーは顔を見合わせる。


[ジンも、始まりの国に行く。始まりの国はマシーナリーの手前。手前]


 言いながら、ピービーは両目から光を放ち、地図を映し出す。

 そこには赤い点が二つ表示され、点滅していた。


[始まりの国。セレーナの故郷。セレーナの家ある。ジン、そこに行く。行く。僕、セレーナに世話になった事ある。案内できる]

「え?」

「ピービー。ジンのお母さんの事、知ってるの?」

[うん。セレーナは良い人。優しい人。僕、セレーナ好き。好き]


 光の中の地図を消すと、ピービーは次に写真を映し出した。

 そこには二人の男女が写っており、男の方はどことなく俺に似ていた。


「この女の人が、セレーナさん?」

[セレーナ。セレーナ]

「………………」


 写真に写る母さんをじっと見つめ、無意識に眉をひそめる。


「………始まりの国へ行ったら、何かわかるのか?」


 その言葉は自然に口から零れ落ちていた。

 俺の問いに、ピービーは光を消し、ぴょんと跳ねる。


[わかるかもしれない。でも、わからないかもしれない]

「なんだよそれ」


 ため息混じりに返す。


 始まりの国に行くのは、誰かに命じられたからじゃない。

 自分の意思で、俺はそこに辿り着くべきだと感じていた。


 ケアテイカーはしばらく俺を見つめ、やがてふっと口元に笑みを浮かべて頷く。


「……分かった。僕も一緒に行くよ」


 ピービーがベッドの上で再びぴょんと跳ねる。


「いいのか?」

「うん。ピービーが出してくれた地図だと、マシーナリーより始まりの国の方が近いし、こういうのは近場から攻めるって相場が決まってるから」


 口元を緩ませて、人差し指を立てながら言うケアテイカー。

 その楽しげな仕草に、思わず肩の力が抜ける。


[いく!いく!]


 ピービーも元気よく飛び跳ね続ける。


 ――こうして俺たちは次なる目的地を決め、その旨を、別の部屋で休んでいる死神とクレイズに伝えに行った。



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