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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第4章「魔封術師の国」
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再会





「ジン! 階段見つけたよ!」


 大きな音を頼りに走り続けて、僕たちはようやく上へと続く階段のある場所に辿り着いた。

 一直線に伸びる階段の先を光球が明るく照らし、ふよふよと浮かぶそれのあとを追いながら、僕たちは急いで駆け上がっていく。


 階段を登りきった先には、何人かの人影があった。誰だろうと目を凝らすと――それは死神さんたちだった。

 さらにその横には、なぜかサリカちゃんの姿まであった。彼女たちは何やら深刻な表情で話し込んでいるようだった。


「死神さん!クレイズさん!」


 階段を登り終える直前に声を掛けると、死神さんたちはほぼ同時にこちらを振り向いた。

 僕たちの顔を順に見つめ、驚いたように目を見開く。


「ケアテイカー!無事だったか!」

「はい。……まぁ、おかげさまで」


 近寄りながら、安堵と共に眉を下げる。アルベールさんたちが僕の前から消えたときはどうなることかと思ったけれど、なんとか無事にここまで来られた。


 ジンたちが駆けつけてくれて本当に良かった――心の底からそう思う。


[ったく。どんだけ心配させれば気が済むんだよ、お前は]

「……ごめん、クロ」


 死神さんの足元から、ぴょんと飛び上がって僕の腕の中へ飛び込んできたクロ。

 その頭を撫でながら、謝ると自然に口元が緩んだ。


「お兄ちゃん、無事で良かった」

「ああ。心配掛けて悪い。……でも、どうしてサリカがここに?」

「サリカちゃんがこの場所を教えてくれたんだよ。『地下に行ったのなら出てくるのはここしかないだろう』って」

「……なるほど。確かにそうだ」

[ジン!ジン!ケアテイカー! ケアテイカー、ブジ!ブジ!]


 ぴょんぴょんとジンの足元で飛び跳ねるピービー。

 僕たちの顔を見てよほど嬉しいのか、いつもより高く跳ねて満面の笑みを浮かべていた。


「……? お兄ちゃん、その人は?」


 そこでサリカちゃんが、ジンの後ろに控えている白いローブの人物に気付いた。

 問い掛けに応えるように、ジンはその人物を自分の前に立たせる。


[ノロイ。ノロイ]


 ピービーが白いローブの人物を見て呟いた。


「……呪い?どういう意味だ?」

「……あ、その……驚かないで聞いてほしいんだが」

「……ティタニアさん」


 ポツリと呟き、サリカちゃんが近づく。

 僕も一緒に覗き込むと、確かにそのローブの人物はティタニアさんだった。

 彼女は表情を変えず、ただじっと立っている。


 ――いや、正確には僕たちを見ていなかった。

 目には生気がなく、まるで心ここにあらずといった様子だ。


「ジン、これは?」

「……聞いた話だと、暁の水晶球のせいなんだと」

「え?」

「ティタニアは暁の水晶球の力で操られてる。親父に、はめられて」

「!」


 その瞬間、ピービーが大きく目を見開き叫び出した。


[! ノロイ!ノロイ!]


 コロコロと転がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら僕たちから離れていく。

 慌てて追いかけて廊下へ出ると、そこには倒れた人々が大勢転がっていた。

 緩やかに曲がる廊下の奥まで続く人影の列。僕とジンは顔を見合わせ、頭の中に「?」を浮かべる。


「……えっと、死神さん、この人たちは?」

「ここの観客たちだ。おぬしたちが地下へ落ちたあと、突然襲い掛かってきてな。あまりにもしつこかったから、お灸を据えてやった」


 死神さんは淡々と答える。

 どうやら、この人たちを眠らせたのは死神さんたちの仕業らしい。


 ――もしかして、あの大きな音と揺れは死神さんたちの攻撃だったのかな……?


[ノロイクル。ノロイクル]


 ピービーが廊下の奥を指し示すように飛び跳ね続ける。

 視線を向けると、そこにはゆっくりと近づいてくる人影があった。


 やがてその人影は立ち止まり、鋭い視線をこちらに投げかける。

 淡い水色の長い髪をした女の人だった。


「…………誰?」

[! KB!KB!]

「……けーびー?」


 女の人は今にも襲い掛かってきそうな険しい気配を放っていた。

 けれど、その顔を見たピービーは、なぜか嬉しそうに声を上げる。


 コロコロと転がりながら女の人の足元へと走り寄り、ぐるぐると回り始めた。


 けーびーって……あの人の名前?


[……PB、こんな所で何をしているのですか?]


 女の人はピービーを知っているようで、首を傾げて問いかける。


[あなたは今、Bの元に居るはずでは?]

[ビー二イワレタ。イワレタ。ケアテイカーノタスケニナレ。ナレ!]

[……? 言語回路が少しおかしいようですね。大丈夫ですか?]

[ン?]


 動きを止めて、ピービーは頭の上に「?」を浮かべる。

 どうやら自分でもよく分かっていないようだ。


 女の人はしばし考え込むと、ピービーを抱き上げて背中の部分をパカッと開いた。


 ――えっ、そこ開くの!?


[少し、大人しくしていてください]

[ピー]


 ここからだとよく見えないけれど、女の人はどうやらピービーの背中に何かの細工をしているようだった。

 時折、カチャカチャと金属を弄るような音が響く。


 時間にして数分だろうか。

 女の人は集中したまま指先を動かし続け、やがて小さく息を吐いた。


[……これで大丈夫です。喋ってみてください]


 背中の開いていた部分を閉じながら、彼女はピービーに声を掛ける。


[………。PB、喋る。喋る。言語回路、正常に作動。……PB、喋れる。喋れた!]


 ピービーは突然、これまでの途切れ途切れの喋り方ではなく、滑らかに言葉を紡ぎ始めた。


[PB、正常に喋れる!KB、ありがとう。ありがとう!]


 女の人に何度もお礼を言いながら、ピービーは嬉しそうに僕たちの元へ駆け戻ってくる。


「ピービー……何をされたんだ?」

[KBが直してくれた。PBの言語回路、少し破損していたみたい。クレイズの城に転移した時に損傷したらしい。でも、もう大丈夫。直って良かった。良かった]


 目を細め、にこにこと笑うピービー。

 ――そっか。独特なしゃべり方は"個性"じゃなくて故障だったんだ。今までずっとそういうものだと思ってたよ。


「でもピービー。KBって人と知り合いなの?」

[うん。KBはPBより先に造られた人造人間(アンドロイド)。先輩だよ]

「……アンドロイド?」


 そんな僕らのやり取りを横目に、KBさんは小さく呟いた。


[……なるほど。貴方たちがPBの]


 言葉を途中で切り、彼女は腰の鞘に手を伸ばす。

 そして――すらりと抜き放たれたのは、細身ながらも身の丈ほどある長い剣だった。


 その形状には覚えがある。

 古い文献で見た、異国の武器。"かたな"――。


[PBを保護してくれたことには感謝いたします。ですが、それとこれとは別。……マスターの命に従い、貴方方を排除します]


 空気が一変する。ぞわりと肌を刺すような殺気に、思わず息を呑んだ。


「クロ、ピービーとティタニアさんと後ろに行ってて。…サリカちゃんも下がって!」

「ううん。私も戦うよ」

「でも――」

「心配するな、ケアテイカー。サリカは強い」


 死神さんが短く断じる。

 その言葉に、ジンもクレイズさんも頷いた。

[サリカ、強い。強い!]と、ピービーまでもが笑顔で言う。


「ふふ……足手まといにならないよう、頑張るね」


 サリカちゃんは淡い桜色の札を構え、ジンの隣に立った。


 僕たちとKBさんは互いに距離を取り、視線をぶつけ合う。

 廊下を満たす静寂は、張りつめた糸のように今にも切れそうだった。


[……参ります]


 その一言を皮切りに、先に動いたのはKBさんだった。



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