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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第4章「魔封術師の国」
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敵なの?味方なの?





 カイストさんの様子を気にしながらアルベールさんたちの後ろを付いていくと、やがて巨大な扉の前に辿り着いた。

 鉄で出来た重厚な扉には南京錠が掛けられており、タルオスオールさんはそれを見て舌打ちをする。


「んだよ。鍵掛かってんだけど。…隊長、本当にここっスか?」

「そうだ」


 タルオスオールさんの傍で、ふよふよと浮かぶ光球(こうきゅう)が扉の鍵を照らし出す。


「たいちょー。こんな鍵、見たことないんですけど。開けられるんですか?」


 南京錠を覗き込みながら、ファムさんが首を傾げる。


「壊しちまうっスか?」

「それは止めておいた方がいい。この南京錠には微弱ながら魔封術の力が込められている。迂闊に触れれば、返り討ちに遭うだろう」

「うっへ……」


 タルオスオールさんは顔をしかめ、南京錠から一歩後ろに下がった。


 では、どうするのか――。

 僕が考え込むより早く、アルベールさんは懐から一枚の札を取り出す。無言で南京錠に近づき、札をペタリと貼り付けてから小さく呪文を唱えた。


 カチリ。


 乾いた音とともに南京錠が外れ、床に落ちる。


「ひゅー。さっすが隊長」

「魔封術には魔封術をぶつけろ――古くからの言葉だ。覚えておけ」


 札を回収しながら、アルベールさんは南京錠を拾い上げる。そして扉を押し開けると、ギギギ、と重々しい音を立てて内側が現れた。僕たちは次々にその中へ足を踏み入れる。


 中は広大な空間だった。辺りをキョロキョロと見回すが、暗がりに包まれて隅の方は見えない。

 アルベールさんが光球を進ませると、光が氷の巨大な塊を照らし出した。塊には二本の太いしめ縄が十字に巻かれ、その中央には古びた札が貼られている。


 よく目を凝らすと、氷の内部で黒い靄のようなものが蠢いていた。

 その瞬間、僕の鞄に入っている"呪い具現化装置"がぶるぶると震え出す。


「たいちょー、これ何ですか?」


 ファムさんが不安げに尋ねる。

 アルベールさんは札を睨み、眉をひそめた。描かれた魔法陣は魔封術のもの。だが随分と古び、頼りない。


「これは――呪いだ」

「え?」

「呪い? このでっかい氷が?」

「管理人にはわかるだろう。これが呪いだと」

「……はい。装置が反応してますから」


 僕は鞄から装置を取り出し、震えるそれを皆に見せた。


「ひゅー、そいつが反応してんのか」


 タルオスオールさんは口笛を吹く。


「それ……あなたの物?」


 ファムさんが、まっすぐに僕を見てくる。思わず胸が高鳴った。


「い、いえ。これは僕のじゃ……」


 その隙をつき、アルベールさんが僕の手から装置をひったくる。鋭い眼光でまじまじと観察し――低い声で問う。


「……これを、どこで手に入れた?」

「え?」

「どこだ?」


 威圧的な声音に、僕は思わず足を引いた。


「隊長、それが何なのか知ってるんスか?」

「……これは呪いを実体化できる秘具の一つだ」

「実体化?」


 アルベールさんは答えず、装置を氷の塊へ近づける。途端、装置は引き寄せられるように吸い付き、震えながら塊にヒビを走らせていく。


 ピキピキピキ……!


 音を立てて氷が割れ、装置はそのまま中に潜り込む。回転しながら黒い靄を吸い込み、数秒もせぬうちに氷塊は空っぽになった。靄を纏った装置は、やがてアルベールさんの掌に戻ってくる。


 あまりの光景に、ファムさんとタルオスオールさんは目を見開いて言葉を失った。


「うっわ……何スか今の?」

「す、すごかったですね……」


 しかしアルベールさんだけは、黙り込んだまま装置を凝視している。やがて視線を僕に移し、低く語った。


「呪いの実体化には二つの方法がある。一つは秘具から直接呪いを顕現させる方法。そしてもう一つは……その器を人間に渡す方法だ」


 そう言いながら、アルベールさんは装置を持ってカイストさんの前へ。


「……? いまいち意味わかんねぇっスけど?」

「今にわかる」


 アルベールさんが装置を差し出すと、カイストさんは生気のない瞳でそれを見つめ、ゆっくりと手を伸ばした。


 ――駄目だ。


 胸の奥に嫌な予感が走る。あの装置をカイストさんに渡してはいけない。


「アルベールさん! 待っ――!」


 僕は思わず飛び出す。しかし、その前にファムさんが立ち塞がった。


「隊長の邪魔はしないで。邪魔をする者は、誰であっても容赦しない」


 シュッ――。

 彼女のチャクラムの刃が僕の喉元に突きつけられる。息が止まり、冷たい感触に全身が硬直した。


 装置は、カイストさんの手に渡ってしまった。

 それはゆっくりと彼の体内に吸い込まれていき、すぐに背中から抜け出る。

 中に収められていた呪いは、すべてカイストさんの中に入り込んでしまった。


「カイストさん!」


 思わず叫ぶ。

 床に「ゴトン」と音を立てて落ちた装置を、アルベールさんはじっと見つめ、そして何をするのかと思えば、彼はそこに一枚の札を貼り付けた。

 すると装置は跡形もなく消滅し、僕は目を見開く。


「っ、アルベールさん、何を…!」


 喉元に当てられていたチャクラムの刃が離れる。


「君たちに邪魔をされては都合が悪い。……ここでお引き取り願おう」

「は……?」


 そう言った瞬間、地面が大きく揺れた。

 轟音が響き、僕はバランスを崩して尻もちをつく。


 揺れが収まった時には、もうアルベールさんたちの姿はどこにもなかった。

 カイストさんの姿も消えている。

 僕はきょろきょろと周囲を見回しながら立ち上がり、眉を下げた。


 ――代わりに、周囲には光球がふわふわと漂っていた。

 たぶん、アルベールさんが残していったものだろう。


「………………」


 神様から預かった呪い具現化装置が壊されてしまった。

 これでは、呪いを見つけることも、倒すこともできない。


 ……どうしよう。


 けれど、今は考えている場合じゃない。

 まずはこの洞窟を出て、死神さんたちのもとに戻らなければ。

 装置のことも、カイストさんのことも、それから考えればいい。


 僕は、装置でひび割れた氷の塊を見つめた。

 パラパラと氷片が崩れ落ち、貼られた札も剥がれかけている。


 その時――背後から声がした。


[ケアテイカー。ケアテイカー]

「!」


 振り返ると、そこにはピービーがいた。

 扉の近くでぴょんぴょん跳ねながら、楽しそうに笑っている。


「ピービー!」


 名前を呼ぶと、ピービーはころころと転がって近づき、そのまま僕の胸に飛び込んできた。

 探しに行かなければ見つからないと思っていたから、思わず驚いてしまう。


「ケアテイカー!?」


 次の瞬間、別の声が僕を呼んだ。

 顔を向けると、そこにはジンがいた。

 息を切らせ、疲れた様子でこちらに駆け寄ってくる。

 その傍らには、なぜか白いローブの人物が立っていた。


[ジン。ジン。ケアテイカー。ケアテイカーミツケタ]

「見りゃわかるよ。……お前も落ちてきてたんだな」

「う、うん。色々あってね。二人とも無事でよかったよ。今から探しに行こうと思ってたんだ」

[ピービー。ケアテイカーノケハイサッチ。サッチ]

「ん?」


 気配を察知?

 どういう意味だろうと首を傾げると、ジンが補足してくれた。


 ――僕のところに来たのは偶然じゃない。

 出口に向かって歩いていた時、前を照らしていたピービーが突然止まって、僕の名前を叫びながら猛スピードで逆走していった。

 慌てて追いかけたら、そこに僕がいた。……そういうことらしい。


 ピービーは「気配を察知した」と言っている。


「…………」


 なんとも言えない顔でピービーを見る。

 ピービーは嬉しそうに笑っていた。


「……で、さっきから気になってるんだけど。その白い人は?」

「ん? ああ、こいつは――」


 ジンが振り向いたその時、再び地面が大きく揺れた。

 ドーンという轟音が響き、ジンは天井を仰ぐ。


「……とりあえず、ここを出ようぜ。話はそれからだ」

「…………」


 この揺れと音は一体……?

 上の方から聞こえてくるということは、コロシアムで何かが起きているのだろうか。


 僕の頭の中には、いくつもの疑問符が浮かんでいた。

 ――とにかく、早く洞窟を出なければ。




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