乱入者だらけ
現在。
主催者とジンの戦いは、数分前から始まっていた。
主催者が繰り出す激しい攻撃を、ジンは寸前でかわし続ける。
ゴングが鳴って以来、ジンは一度も攻撃を仕掛けていない。
攻撃する暇がないのか、それとも隙をうかがっているのか――。
「おい、何やってんだよ!」
「戦え、ガキ!」
「避けてばっかじゃつまんねぇぞー!」
次第に観客席からブーイングが飛び交う。
ジンは表情を変えずに身を翻すばかりで、観客の怒声に耳を貸す様子はない。
僕はそんなジンを見つめ、眉を下げた。
どうしてジンが出場者として決闘場に立ち、主催者と戦っているのか――その理由はまだ分からない。
「……………」
手にした装置がぶるぶると震える。
ジンのことも気になるけれど、まずは装置の反応の正体を突き止めなくてはならない。
候補は一つ。
主催者のあとから入場した、白いローブの人物。
《…避けてばかりでは、私には勝てませんよ!》
「……っ」
主催者の攻撃がさらに激しさを増す。
死神さんには、そのままジンともふちゃん、そしてクロの様子を見ててもらい、僕とクレイズさん、ピービーは装置の反応を見ながら観客席を移動した。
装置の震えが大きくなれば呪いに近づいている証拠。
逆に弱まれば、呪いから遠ざかっているということ。
両手で装置を握りしめ、僕は注意深く周囲を観察した。
『はっ!あいつの言う通り、避けてばっかじゃ勝てねぇぞ!?お得意の魔封術で攻めてみろよ!』
――ぶるぶる。ぷるぷる。
《そっちがいつまでも来ないのなら、こちらにも考えがあります》
――ぶるぶるぶるぶる。
「!」
装置が大きく震えた。
その場所は、主催者が入ってきた格子扉の近く。
そこに立つのは、水晶玉を抱えた白いローブの人物。
装置はその人物に反応し、さらに震えを強める。
同時に、足元で転がっていたピービーがぴょんと塀の上に飛び乗った。
[ノロイ。ノロイ]
ピービーは塀の上でぐるぐると回転し、そのまま決闘場の中へ落下。転がりながら、一直線に白いローブの人物のもとへ向かっていく。
予想外の行動に、僕とクレイズは目を見開いた。
「ピービー!?」
「何やってんだ、あいつ…!」
ピービーはローブの人物の足元まで転がると、じっと見上げた。
ローブの人物も顔を下げ、無言でピービーを見返す。
やがてピービーは体の向きを変え、今度はジンと主催者が戦う中央へ転がっていった。
――自由すぎる……っ!
「ピービー!待って!」
僕とクレイズさんは慌てて追いかけるが、ピービーは止まらず真っすぐ進んでいく。
それに最初に気づいたのは主催者だった。
攻撃の手を止め、転がってくるピービーへ顔を向ける。
主催者が止まったことで、ジンも異変に気づいた。
《おやおや。これは可愛らしい乱入者ですね》
「ピービー!?」
ジンが目を見開く中、主催者はピービーを抱き上げる。
フードの影に隠れた顔を、ピービーはじっと見つめ返した。
《これは、君のペットかい?》
「…………」
問いかけられても、ジンは応えない。
僕とクレイズさんはジンたちの声が届く距離まで走り寄り、足を止めた。
そのとき――。
《レディース・アーンド・ジェントルメーン! ごちゅーもーく!》
「「?」」
会場内に響き渡る声。
僕とクレイズさんは顔を見合わせ、頭の上に疑問符を浮かべた。
声の主を探すと、格子扉の傍――白いローブの人物の隣に、見知らぬ二人組が立っていた。
銀色の鎧に身を包んだ二人の姿が、そこにあった。
「……親父」
ジンは鎧姿の二人を見つめ、眉をひそめて呟く。
――おやじ……?
「なんだ?なんだ?」
「また乱入者か?」
観客たちがざわつく。
鎧の二人のうち、一人の手のひらには水晶玉が乗っていた。
反対の手には、一枚の紙切れを持っている。
水晶玉は、白いローブの人物から渡されたのか、それとも奪ったのか――。
紙切れの意味は分からない。
首を傾げながら見ていると、鎧の人物はそれを頭上に掲げ、口を開いた。
……?
あの紙切れ、どことなくジンが持っている札に似ている……?
《闇よ。力を示せ》
鎧の人物が唱えると、紙切れから黒い光が放たれた。
決闘場の中心に、小さな穴が出現する。
穴は瞬く間に広がり、決闘場の隅から隅まで巨大な空洞となった。
避ける隙もなく、ジンたちはなす術もなくその中へ落ちていく。
「ジン!ピービー!」
僕たちは塀の上に手を置き、暗黒の穴を見つめた。
真っ暗で、深さも分からない。
「おい、なんなんだあれ?」
「オレが知るかよ!」
「おーい!決闘はどうしたー!」
観客たちが騒ぐ中、僕とクレイズさんは表情を強張らせた。
すると、頭上から声が聞こえてくる。
顔を上げると、空中に女の子が浮かんでいた。
そのままストンと塀の上に降り立ち、僕の顔をじっと見下ろす。
――ファム・フォオルだ。
先ほど主催者と戦っていた、ピンク色の髪の少女。
「…………」
「……………」
強く睨まれて、僕は思わず萎縮する。
「な、何…か……?」
「……………」
彼女は手を伸ばし、僕の服を掴む。
力任せに自分の方へ引っ張り、そのまま僕を穴の中へ落とした。
視界がぐるりと反転し、僕はまっ逆さまに落下する。
「ケアテイカー!」
背後から、クレイズさんの慌てた声が聞こえる。
真っ暗な穴の中を、どこまでも落ち続ける。
深さも形も分からない、無限の闇――。
不安も恐怖も、なぜか感じない。
自分でも驚くほど、冷静でいられる自分がそこにいた。




