ジンの婚約者
ティタニアさんの爆弾発言から二時間後。
僕たちは宿屋の一室で、ジンと彼女の話を聞いていた。
ジンはベッドの端に腰掛け、その隣にはティタニアさんが座っている。
二時間前のやり取りを思い出しながら、僕はジンの正面に座り、改めて問いかけた。
「えっと、もう一度聞きますね。……あなたは誰で、ジンとのご関係は?」
「私はティタニア・シュライベルク。ここにいるジンの幼馴染で、将来を約束した妻です」
「…………」
ジンは眉をひそめる。
将来のお嫁さん――つまり婚約者ということだろう。
「ジン、彼女を紹介しろ。わかりやすくな」
壁に背を預けていた死神さんが言う。隣に立つクレイズさんも頷いた。
もふちゃんとピービーは床でじゃれ合い、クロは僕の隣で眠っている。
「……ティタニアは、この街を治めるシュライベルク財閥のご令嬢様だ」
「財閥のご令嬢、って……?」
「要するに、貴族のお嬢様だ」
「そう」
ジンの説明に、僕は思わず目を見開いた。
ジンがそんな人と知り合いだったなんて、初めて知った。
「それよりジン、どうしてここに?……まさか旅をやめて、私のもとに帰ってきてくれたのですか!?」
「あー……いや、違う。色々あって、この街に寄ることになっただけだ」
「色々……。それは、ここにいる方たちと関係が?」
「まあな……って、もういいだろ。いちいち聞くな」
「いちいち聞きたくもなります! 四年ぶりに会ったんですよ? 四年も放置されていたんです。事情をたっぷり聞かせていただきます!」
「…………」
ティタニアさんの真剣な眼差しに、ジンは大きなため息をつく。
立ち上がると、面倒くさそうに頭をかきながら扉の方へ向かった。
「お前には関係ないことだから、首を突っ込むな」
「関係ないって……またそうやって私を遠ざけるつもりですか?」
「別にそういうわけじゃねぇ。……ああもう、だから来たくなかったんだ」
取っ手を握り、ジンは振り返らずに言う。
「ジン、どこ行くの?」
「病院」
「病院!?どこか具合が悪いのですか!?」
「俺らだけの秘密だ。……クレイズ、ついてきてくれ」
「あ?……ああ、わかった」
そう言ってジンはクレイズさんを連れ、部屋を出て行った。
扉が閉まる音がして、残った僕と死神さんは顔を見合わせる。
そういえば――。
この国に来る前、ジンが言っていた。国境の底でゴリラに殴られ、全身を痛めたと。
病院に行った理由は、おそらく骨の検査だろう。
「ジン……」
眉尻を下げて、ティタニアさんはジンが出ていった扉を見つめる。
その顔は、なんだか寂しそうだった。
「……あの、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「え?あ、はい」
ジンたちが出て行ってすぐ、ティタニアさんが口を開く。
「……ジンは“闘技会”には出場するのでしょうか?」
「……はい?」
唐突に聞かれる。
闘技会…?
「闘技会とは何だ?」
死神さんがピービーに尋ねる。
じゃれていたピービーはぴょんと跳ね、光を投射した。
映し出されたのは、大きな建物。
[トウギカイ。コノマチデ、ネンイチペースデカイサイサレルゴラク。ゴラク]
「娯楽……?」
[マチヲモリアゲル。オキャクサンタクサン。タクサン]
「この建物が、会場?」
[ユウフクガイノコロシアム。オカネモチ、タクサンクル。タクサンクル]
光を消したピービーはコロコロと転がり、楽しそうに声を弾ませる。
もふちゃんも加わり、二匹は再びじゃれ合い始めた。
ピービーから得た情報を頭の中で整理する。
――闘技会。それは、この街で一年に一度開かれる大きな娯楽で、街を盛り上げるための催しだ。会場となるのは裕福街にあるコロシアムで、そこには大勢のお金持ちが集まるらしい。
その闘技会について、ティタニアさんは「ジンは出場しないのか」と聞いてきた。
ジン、闘技会に出たことがあるのかな……?
「……それでは、私はこれで失礼しますね」
「あ、はい。お会いできて良かったです、ティタニアさん」
「ええ。私も」
ティタニアさんは口もとをゆるめ、にっこりと柔らかい笑みを浮かべてから部屋を出ていった。
突然現れたジンの知り合いに驚いたけれど、彼女の纏う雰囲気は思ったよりも穏やかで、僕は自然と好印象を抱いていた。
「闘技会か……もっと詳しく知りたいなら、私たちも病院へ行くか?」
「うーん、そうですね……」
死神さんの言葉に頷き、僕は立ち上がる。
まだ眠っているクロをそっと抱き上げ、起こさないように気をつけながら、死神さんと一緒に部屋を出た。
ピービーともふちゃんもついてきて、僕たちの後ろをコロコロ、ぴょんぴょんと転がったり跳ねたりしてついてくる。
こうして僕たちはジンたちを追い、街を歩く。
病院の場所は知らないから、道すがら街の人に聞いてみよう。




