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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第3.5章「オサルサンを求めて」
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落ちたピービー ※ジン視点





「……見つけたぞ、ジン。オサルサンだ」

「いや、あれはお猿さんっていうより……ゴリラだろ」


 やっとの思いで辿り着いた、上へ戻るための昇降機。

 しかし、その前に立ちふさがっていたのは、とてつもなく屈強な体つきをした巨大な猿だった。


 足元ではピービーが慌てふためき、コロコロと俺の周りを転がり回る。そのたびに白い土煙が舞い上がり、やかましい音を立てたせいで、猿はこちらに気付き、鋭い眼光で俺たちを睨みつけてくる。


 今にも飛びかかってきそうな勢い――これは確実に襲われる。そう直感した俺は、隣に立つ死神に視線で合図を送り、互いに武器を構え戦闘態勢へと移った。


 ……どうして俺たちがこんな状況に陥っているのか。

 話は数時間前に遡る。



 数時間前。二つ目の国境を越えたその先、次の目的地のある国との狭間に存在する、真っ白な空間。俺たちはそこで昼食を取るため休憩していた。

 ここで食事をするのも、もう何度目だろうか。空間の中央でケアテイカーが鞄からシートを取り出し、風の魔術で四方を固定して広げる。その上に腰を下ろして、ささやかな食事を始めるのだ。


 張りのあるシートは線の上に浮かぶように敷かれていて、落ちる心配はない。……ないのだが、もともと三人用のシートに、一人――いや正確には、一人と一匹と、さらに変な丸い奴まで増えてしまっているせいで、激しく狭い。


 ちなみにそのシート、前に立ち寄った国でケアテイカーがこっそり買ってきたらしい。


「はい、ホットドッグだよ。熱いから気を付けて」

「サンキュ」


 腰を下ろすと同時に、ケアテイカーからホットドッグを受け取る。パンにウィンナーを挟み、ケチャップをかけただけの食べ物だが……一口食べた瞬間、思う。これを考えた奴は天才だ。

 片手で食べられるし、何より美味い。ケアテイカー曰く「昔の地球の食べ物」らしい。


 この旅を始めてから口にしたが、なんで俺は今までこれを知らなかったのかと、今さらながら激しく後悔する。


[ホットドッグ。ホットドッグ。ムカシノタベモノ。タベモノ。ニンキ。ニンキ]


 俺のホットドッグをじっと見つめながら、ピービーが妙な声を発した。……まぁ、こんなに美味いんだ。人気があったに違いない。

 熱さに気を付けながら食べ進めると、自然と飲み物が欲しくなる。だが贅沢は言えない。


「なぁ、ケアテイカー。ここって一体なんなんだ?」


 同じくホットドッグを頬張っていたクレイズが、周囲を眺めつつ問いかけた。

 ケアテイカーはちらりと彼に顔を向け、落ち着いた声で答える。


「ここは国と国の間にある国境だよ。入口に人がいたでしょ? あの人がこの空間を管理しているんだよ」

「……へぇ」


 クレイズが小さく頷く。さらに掘り下げようと会話を続ける二人の声を、俺はホットドッグをもぐもぐしながらぼんやり聞き流していた。


 最後の一口を口に放り込み、指についたケチャップを拭ったとき――視界の端に奇妙なものが映った。

 ピービーだ。何を思ったのか、身体から光を放ち、それを空間全体に向けて照射している。


 ……何してんの?


 首を傾げる俺の目の前で、ピービーは突然光を止めると、次の瞬間、ぴょんと跳ねてそのまま空間の真下へ落ちていった。


「……はあ!?!?」


 思わず声を張り上げ、俺は目を見開いた。

 慌てた俺の声に気付き、ケアテイカーたちが一斉にこちらを見る。


「ジン、どうしたの?」

「ピービーが落ちた!」

「ピービーが?」

「……落ちたって、この下に?」

「えっ、落ちたの!?」


 俺の言葉に、死神、クレイズ、ケアテイカーの順で反応が返る。

 俺は懐から札を取り出し、服に貼り付けながらシートの下を睨んだ。


「…………、」


 ――やったことがほとんどない術を、今から使おうとしている。果たして、上手くいくかどうか。


「…連れ戻してくる」

「連れ戻してくるって……え、ちょっと待って!降りるの!?」


 慌ててケアテイカーが俺を止める。


「危険だよ!この空間は謎だらけなんだ!降りて何かあったらどうするの!?」

「ピービーは自分からここを降りてったんだ。仲間を助けに行くのは当たり前だろ?」

「……そりゃ、そうだけど」

「安心しろ、ケアテイカー」


 静かに立ち上がったのは死神だった。

 「私も行く」と言って、俺の隣に並ぶ。札を要求されたので渋々渡すと、それを服に貼り付けた。


「死神さんまで……!」

「ついて来なくても俺一人で――」

「この下には何があるか分からん。もしそこでおぬしが死んだら、私はおぬしの魂を刈らねばならんからな」

「……………」


 ……さらっと物騒なことを言うな。


 いや、そういえばそうだった。

 いつか俺は死神に魂を刈られるんだった。すっかり忘れてたわ。


「……それじゃ、行ってくる」

「……気を付けてね」

「おう」


 にっと笑って、俺はシートから飛び出した。空間の下へと滑り落ちていく。

 すぐに死神も続き、俺たちは底の見えない白の中を、まっすぐ降下していった。


+


 ……で、現在に至るわけだ。


 ピービーを無事に見つけたのはいい。だが問題はそこからだった。


 空間の底へ降りて数分。思った以上にあっさり見つかったのは幸運だった。線の上からここまでは相当な距離がある。もし本当にそのまま落ちてきていたら、確実に助からなかっただろう。


 俺は服に貼った札に触れ、術を発動させる。


 ――魔封術《風翼》。

 背中に風を纏わせ、翼を生やして飛行を可能にする補助系の術。


 慣れてないから正直不安だったが、死神と合わせて二人分どうにか発動成功。降り立った直後はふらついて吐きそうになったけど……まぁ、成功は成功だ。


[ピービー。オサルサン。オサルサン]

「……は?」


 見つけたピービーはその場でくるくる回転しながら、“オサルサン”を連呼していた。

 俺と死神は顔を見合わせ、同時に「?」を浮かべる。


「オサルサンって、なんだ?」

[オサルサン。オサルサン。コノチカク。オサルサン]


 そう言いながら、ピービーは光を放って一冊の書物を映し出した。びっしりと漢字が並び、その横に描かれているのは――猿の絵。


 ……ああ、“猿”だから“オサルサン”か。


「あー……で、これがどうした?」

[ピービー。オサルサン。ミタイ。ミタイ]

「見たいって……お前、それ目当てにわざわざ飛び降りたのか?」


 無謀すぎるだろ。


 俺は溜め息を吐き、ピービーの頭をぺちんと叩いた。

 こいつ、もし俺たちが来なかったらどうやって帰るつもりだったんだ。


「とりあえず、ピービーは見つかった。あとは戻るだけだ」

[オサルサン。ミツケル。ミタイ]

「まずは帰り道を確保してからだ。猿探しはその次」

「……その“オサルサン”とやら、本当にここにいるのか?」

[ピービー。ミタ。クウカンケンサク。オサルサン。ハッケン]

「……どうやら本当らしいな」


 ピービーが嘘を吐くとは思えない。つまり――この空間に“猿”が実在する。


 俺の生まれた国にしかいないとされる希少生物。滅多に姿を見られず、子どもの頃から「いつか見てみたい」と思っていた。

 だが同時に、気性が荒く警戒心も強い、とも教えられてきた。……そんなものと遭遇して、大丈夫なのか?


 そうして俺たちは帰還手段を探しつつ、猿の探索を始め――見つけたのが、冒頭の“猿”。


 ……猿っていうか、ゴリラだったけど。


[グアアアアアッ!]

「おい!“オサルサン”ってのは随分気性が荒いんだな!」

「いやだから、あれはゴリラだって!猿じゃねぇ!」

[オサルサン。ゴリラ。ゴリラ。オサルサン。オサルサン]


 咆哮とともに襲い来るゴリラ。俺たちは必死にかわしながら、どうやってこの状況を切り抜けるか頭を回す。


 まともにやり合えば、確実に死ぬ。

 ゴリラの怪力は人間の数百倍――子どもの頃に聞いた知識が、今になって現実味を帯びてのしかかってきた。


[ピービー。オサルサン。ミレタ。ウレシイ]

「感動はあとにしろ!」


 俺はピービーを抱き上げ、間一髪で攻撃を避ける。だが、猛攻は止まらない。体力は削られ、追い詰められていく。


 距離を取り、息を荒げながら考える。

 ――上に戻るには昇降機を使うしかない。だがゴリラが邪魔だ。倒すしかない。


「…………時間が足りねぇ」


 攻撃をかわすので手一杯。考える余裕すらない。

 小さく舌打ちをし、俺は眉をひそめた。




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