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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第3章「双神の巫女」
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双神の巫女・こぼれ話



『新たな仲間』



 宿屋のロビーに置かれた丸い木のテーブルを囲んで、僕たちは向かい合って座っていた。

 木の軋む音や、他の客たちの笑い声が遠くから聞こえる中で、目の前にいるクレイズさんに、僕は改めて言葉を告げる。


「これからよろしくお願いします、クレイズさん」

「ああ。よろしく」


 短く、けれど真剣な声音。彼の眼差しは、これまで背負ってきた重さを映しているように見えた。

 そんな空気を軽々と破るのは、いつものことながらピービーだった。


[クレイズ、クレイズ。マオウ、マオウ]

「……。こいつもついてくるのか?」


 クレイズさんが怪訝そうに眉を寄せると、ピービーは元気よく光を瞬かせながら弾む。


[ボクモナカマ。ボクモナカマ。ツイテク。ツイテク!]

「はい。…考える暇も与えてくれずに、いつの間にか」


 僕が苦笑交じりに肩をすくめると、ピービーは勢いを増して言葉を重ねてきた。


[ケアテイカーニツイテク。ギム。ギム。ジンタチニツイテク。ギム。ギム。クレイズツイテクル。ギム。ギム]

「そうか。……じゃあピービーにも、よろしく頼むな」


 クレイズさんが小さく息をつきながらも受け入れると、ピービーはぱっと光を弾けさせた。


[ヨロシク。ヨロシク。ピピピッ]


 弾んだ音と共に、宿屋のランプの灯りが反射してきらりと輝く。

 これでまた、新しい仲間が加わった。少し騒がしくなりそうだけれど……それも悪くない、と僕は思った。



+


『魔王の力』



 宿屋のランプが揺れ、木の壁にぼんやりと影を落としていた。

 テーブルを挟んで向かい合うクレイズさんの横顔を見ながら、ふと気になっていたことを口にする。


「そういえば、クレイズさん」

「ん?」

「巫女様の呪いはもう無くなってるわけですけど……魔王の力って、まだ残ってるんですか?」


 問いかけると、彼は一瞬だけ視線を落とし、そしてゆっくりと答えた。


「ああ。まだ残ってるよ。どうやらこの力はずっと残るものみたいだ。元凶である呪いが無くなったら消えると思ってたんだが……甘く見てたよ。一生消えない“傷痕”みたいになったままだった」


 淡々とした声色だったけど、どこか自嘲の響きが混じっているように聞こえた。

 その言葉に胸の奥がざわつき、僕は少し身を乗り出してしまう。


「……えと、それ、危険はないんですよね?……いつか、その力が原因でクレイズさんも呪われるんじゃ」

「? ……はは。その心配はないよ。この力に呪いのようなものは感じない。この先、俺が呪われるなんて事はないさ」


 軽く笑って答える彼を見て、肩の力が抜けた。

 どうやら本当に心配はいらないらしい。


「本当ですか?……はぁ、良かった〜」


 ほっと息を吐く僕を見て、クレイズさんは小さく口元を歪める。

 その表情は、一瞬だけ翳りを帯びていた。


「……まぁ、“呪いがない”なんてのは、自分がそう思ってるだけかもしれないけど」

「? 何か言いました?」

「いや。別に……」


 彼は視線を逸らし、声を濁した。

 ロビーに漂う温かい空気の中、その言葉だけが妙に冷たく響いて、胸の奥に小さな不安を残した。


+


『ピービーに興味津々』

※ジン視点



 宿屋のロビーは相変わらずざわついていた。客たちの笑い声と、食器のぶつかる乾いた音があちこちから聞こえてくる。

 その中で、ひときわ浮いている声があった。


[ピピピ]

「ねぇ、ピービー」

[ヌ゙?]


 ケアテイカーが目を輝かせて、ピービーに話しかけている。

 あ、なんか嫌な予感。


「僕、今すごく気になってるんだけどさ。ちょっと聞いていい?」

[イイヨ]

「! 本当! じゃあ聞くね! えっと、ちょっと待ってね! リストにまとめたんだ、ピービーに聞きたいこと!」

[ピピピ。ケアテイカーノシンパクジョウショウチュウ。ダイジョウブ?]


 ……ほら、始まった。



「おっと。始まった」


 思わず口に出すと、横からクレイズが首を傾げてきた。


「ん? どうしたんだ、ジン」

「……あれだよ。あれ」

「……あれは、ケアテイカーとピービー?何してるんだ?」

「ケアテイカーの病気が始まったとこ」

「病気?」

「ああ。よく見ててみ」


 俺が顎で示すと、ケアテイカーはすでに勢いづいていた。


「じゃあ質問するね!……えっと、まずピービーって“エーアイ”ってやつだよね?歴史書で読んだんだ。“人工知能”っていうテクノロジーを搭載したロボットってやつ!僕、生のロボットなんて初めて見たから吃驚だよ!ねぇ、君は一体どこで作られたの?地図を出すのと呪いを検知するのと、他にどんな機能があるの?も、もしかして目からレーザーとか出せるの!?」

[ピ、ピピ……]


 質問が矢継ぎ早に飛ぶ。ピービーの目の光は不規則に点滅し始め、挙げ句の果てには――


「……お、おい、ピービーの頭から煙出てるぞ!?」


 クレイズが目を剥いた。

 俺は片手を上げて肩をすくめる。


「ケアテイカーの“知りたい病”が発症中。ああなったあいつはしばらく止まらないから厄介なんだ」

「そ、そうなんだ……」


 クレイズは苦笑して、困ったように頭を掻いた。

 だがケアテイカーは、そんな周囲の空気などお構いなしにさらに熱を上げる。


「あ!あとあと、これも聞いてみたいんだけど!」

[ピ、……ピー……]


 ピービーの返事は弱々しい。まるで機械なのに疲れているように見える。

 俺は椅子の背にもたれて腕を組み、ため息をひとつ落とした。


 ――やれやれ、またしばらく騒がしくなりそうだ。



+


『ウロチョロしないで』

※クレイズ視点



 宿屋のロビー。

 木製の椅子に腰を下ろし、束の間の休息を味わっていたところに、ジンがこちらへ歩み寄ってきた。

 真剣な顔をしている。


「クレイズ、ちょっと相談」

「なんだ?」


 視線を向けると、ジンは懐から一枚の札を取り出した。それは、彼が普段武器代わりに扱っているものだ。


「あのうさぎ、もふの事なんだけどさ」

「もふの?」

「あいつ、目を離すとすぐどっか行くだろ?その度に歩き回って探してたんじゃ、この先ツラいだろうからさ。この札、貼ろうと思って」

「? それ、お前が普段武器にしてるヤツだよな?……貼るって?」


 眉をひそめると、ジンは札をひらひらさせて見せながら、さらりと言う。


「あいつの背中にさ。ペタッと。そんで行動制限の術を掛けるんだ。そうすれば遠くに行く心配もないし、わざわざ探しに行く手間も掛からない」

「行動制限って……それ、そんな事も出来るのか!?」


 思わず声が上ずった。札の使い道をそこまで考えたことがなかったからだ。ジンは当たり前のように頷く。


「ああ。……まぁ、本来なら動物に使っちゃいけないんだけど、この場合は仕方なしって事で。……で、その許可を貰いに来たんだけど」

「……ま、まぁ、それは別に構わないが……」


 もふを縛ることに少し抵抗はあった。だが、確かに放っておけばすぐに姿を消して、こちらが慌てるのが常だ。安全のためと思えば納得できる。


「本当か?……よっしゃ。飼い主の許可ゲット!……あとは、もふが何処にいるかだな。あっ、クレイズもよかったら一緒に探してくれよ。行動制限術のやり方見せてやるから!」

「お、おお……」


 ジンの瞳が、まるで少年のように輝いていた。

 札を使うことに、ここまで楽しそうな顔をするやつだったのか。と、ちょっと引いた。



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