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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第1章「11日間の試練」
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神様は本当に居る?





「なんか悪いな。飯までご馳走になっちまって…」


 席を移し、改めて食事を始める。

 僕とクロの前には先ほど頼んだお肉料理とミルク。落ちてきた人の前には彩りの良いサラダと同じくミルクが並ぶ。


 灰色の髪をツンと立てたそのお兄さんは、どこか居心地悪そうに眉を寄せて口を開いた。

 僕は首を振り、気にしないと笑ってみせる。――もっとも、後でそれなりの「迷惑料」をきっちり頂くつもりではある。


「お兄さん、この国の人?」

「いいや、違う」

「…じゃあ、さっき怒鳴ってた人は?」

「さっき?……ああ、聞こえてたのか。できれば忘れてくれよ。あれは……えーと」


 お肉を切り分けながら耳を傾けるけど、どうにも言い淀む。触れてほしくない類の話らしい。


「あー、と……あ、それにしてもさ」


 あからさまに話題をすり替えたし。

 やはり深入りすべきではないと、僕はそれ以上聞くのを止めた。


 お兄さんは頬杖をつき、客席を一望する。この酒場は妙に回転率が悪い。単に居心地が良いのか、それとも常連客が新顔を遠ざけているのか。

 もし後者なら、この場所は少々危険だ。


「今回も、ここにいる全員が試練を受けてるんだよな」

「……十一日間の試練のことですか?」

「ああ。神様から与えられたどうのこうのってやつ。俺はもう慣れたけどさ、他の連中は今頃困惑してんじゃないか?」


 その言葉にミルクを口に含む。


「お兄さんは、今回で何回目ですか?」

「さぁな。いちいち数えてねぇよ」


 サラダにドレッシングを山のようにかけ、一口。案の定むせていた。

 僕はコップの中で揺れるミルクをぼんやり眺める。その白は、不思議と頭を冷やしてくれる。


「おぬしたち、ちょっといいかい?」


 そこで突如、声が割り込んだ。

 顔を上げると、そこには胸元まで顎髭を伸ばした白髪の老人。場違いなほど柔らかな笑みを浮かべ、ゆったりと髭を撫でている。


「知り合いか?」


 お兄さんが聞いてくる。もちろん、僕の交友関係に老人はいない。そもそも、知り合いと呼べる人物自体ほとんどいないのだ。


「おぬしたち、どうやらわしを探しているようじゃな」

「「は?」」


 言葉の意味が呑み込めず、僕たちは同時に声を上げた。


「……じいさん、俺らをよく見ろよ。探してるように見えるか?」

「ふむ……見えるのぉ。おぬしらの心には、わしの姿が確かにある。ゆえに、探しておるはずじゃ」

「わけがわからん」

「あの、人違いでは?」

「いや、人違いではない。わしは承知の上で声を掛けておるよ。ケアテイカー殿、ジン・レスター殿」

「!」

「!?」


 名前を呼ばれ、僕は思わず肩を震わせ、お兄さんは目を見開く。

 老人はその反応に満足げに頷いた。


「じいさん、何で俺の名前を…!」

「ほほほ。わしはなんでも知っておる。おぬしの名も、生まれも、先ほどの男とのやり取りもな」

「っ……」


 まさか、このお爺さんは……?

 いや、流石にそんなはず――。


「うーむ、まだ腑に落ちぬ顔じゃな。では問題じゃ。おぬしたちの試練は何じゃったかな?」

「え?」


 僕の試練は“神様に会う”こと。

 お兄さんのは?


「僕の試練は“神様に会う”です」

「……俺の試練は、“神様と管理人に会う”だ」

「えっ」

「なんで驚く?」


 お兄さんの言葉に目を丸くする。

 二つの答えに老人は頷き、更に問いを重ねた。


「では次じゃ。わしがなぜおぬしらの元へ来たのか、わかるか?」

「は? そんなもん知るか」

「! 待って、お兄さん!」

「あ? なんだよ?」


 予感がしてお兄さんを止める。

 老人は愉快そうに髭を撫でた。


「……まさか、お爺さん……?」

「ほほ、気付いたようじゃな」


 僕は小さく息を吐き、苦笑した。

 まさか、本当に酒場にいるなんて。


「……どうした?」


 お兄さんは未だ首を傾げている。

 その瞬間、クロがテーブルに飛び乗り、老人…お爺さんがゆっくりと名乗った。


「そうじゃよ、ケアテイカー殿。わしこそ、おぬしたちが探す神様じゃ」


 酒場は相変わらず騒がしい。

 その宣言に僕は頭を抱え、お兄さんは目を見開いて勢いよく立ち上がった。



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