双神の巫女・その後
その後。
それからの僕たち。
あれから三日が経った。僕たちはクレイズさんを含め、森を離れて街に滞在し、今後のことについて何度も話し合った。
巫女様の呪いは倒した。倒した……と言っていいのかは、正直まだ自信がない。今回は、素直に喜べる結末じゃなかった。
巫女様とアレスさん、そしてシャーリーさんの亡骸は、その場で火葬された。
炎が薪を食らい、パチパチと音を立てる。誰も一言も発さず、ただその音と、時折吹く風が衣服を揺らす気配だけが辺りを支配していた。
「頼む。俺も一緒に連れてってくれないか?」
「…いいんですか?」
「アレスもシャルも、呪いなんてものがあったから死んだ。……俺も、その犠牲で魔王なんていう宿命を背負うことになった。俺は呪いが憎い。だからお前らに付いていって、呪いを祓うのを手伝いたいんだ」
[クレイズ、ナカマ、ナカマ! ツイテクル、ツイテクル!]
「なんでお前が決めてんだよ」
「いいんじゃないか?協力者は多いに越したことはない」
「……それじゃあ、これからよろしくお願いします。クレイズさん」
「ありがとう。よろしく頼む。あと、こいつもな」
街での三日間の話し合いの末、クレイズさんが僕たちと共に旅をすることになった。白いうさぎ――もふちゃんも一緒に。
クレイズさんの服装は、最初に会った時とはすっかり変わっていた。黒を基調とした軽装に、前髪と後頭部には髪留めが二本ずつ。腰にはチェーンが巻き付けられていて……正直、ちょっとチャラい。
そして今、僕たちは宿屋のロビーのテーブルを囲み、地図を広げて次の目的地を確認していた。
地図の上では、ピービーがコロコロと転がっている。
[ツギハココ。ツギハココ]
「どれどれ…?」
ピービーが淡い光を照射し、次の目的地を示す。光が当たった国は、ここから三つの国境を越えたさらに先――またも遠い場所だった。僕は無意識に小さくため息を漏らす。
ふと、地図の反対側に座るジンの表情が目に入った。彼は光の当たる国をじっと見つめ、眉をひそめている。気になって声をかけた。
「ジン、どうしたの?」
「ん、…あ、ああ。なんでもねぇよ」
気にするな、と彼は言った。
――そう言われると、逆に気になるんだけど。
[ココ、ジンノウマレコキョウ。ウマレコキョウ]
「なっ…!?」
ピービーの言葉に、ジンは思わず手を伸ばし、ピービーを持ち上げた。
その表情は、「なんで知ってるんだ」と問いただしたいという思いがありありと浮かんでいた。
ジンの生まれ故郷…?
「ほぉ、おぬしの生まれ故郷か。少しだけ興味があるな」
「興味持たんでいい」
腕を組み、興味津々の死神さんにそっけなく返すジン。僕は地図を折りたたみ、鞄にしまった。
次の目的地はジンの生まれた国――しかし、彼の様子は明らかにどこかおかしい。僕の頭の中には“?”が浮かんだままだ。
するとピービーが再び光を放ち、今度は地図の上に複雑な記号をいくつも浮かび上がらせた。
「……なにこれ?」
「? なんだ? 記号?」
クレイズさんが首を傾げる。
[コレキゴウチガウ。カンジ。カンジ]
「かん、じ…?」
[ムカシノコトバ。ヒガシノクニニソンザイシテイタゲンゴ]
「何?」
死神さんが眉をひそめる。
昔の言葉――東の国に存在していた言語?
僕と死神さん、クレイズさんは顔を見合わせた。ジンの方を見ると、彼は再びピービーを持ち上げて問いかける。
「おい、何でお前これ持ってんだ?」
「…ジン?」
[ピービーノデータベース。ナンデモアル。スベテノジンルイノデータアル。スベテノコトバシッテル。スベテノショモツ。アル]
……なんだって?
それは、かなり興味深い。
「ジン、この記号、知ってるのか?」
クレイズさんが問いかける。
ジンは渋々といった様子で頷いた。
「……これは“漢字”って言って、俺の生まれた国――つまり、今から行く国に古くから伝わる文字だ。それと、今ピービーが浮かばせてるのは《魔封術の書》。俺の家に代々伝わってる本の内容だよ」
そう言いながら、ジンは頭をがしがしと掻いた。
浮かび上がる漢字を一瞥すると、懐から札を取り出す。
そして――
ためらいなくピービーを縛りつけた。
「ったく、余計なもん出してんじゃねぇぞ、機械野郎!」
[! キュウナシュウリョウ、キケン!キケン!]
「うるせぇ、黙れ!」
札が貼られた瞬間、光に浮かんでいた漢字は霧のように消え失せた。
突然の封印にピービーはバタバタと抗議の光を揺らし、ジンを睨む(ように見えた)。
ジンは眉をひそめ、舌打ちをひとつ。深く息を吐く。
[ジン、オコリンボウ。オコリンボウ]
[……お前、もうちょっと人の気持ちってもんを考えろよ]
肩の上からクロが呆れた声を落とす。
僕はそのやり取りを見ながら、眉を下げてピービーを抱き上げた。温かい金属の感触が手に伝わる。
――なるほど。
これから向かう国も、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
ジンの生まれ故郷だというし、到着したら色々と話を聞いてやろう。たとえ本人が渋い顔をしていても。
[ヒトノキモチ。ヒトノキモチ。……ジンモ、ピービーノキモチ、カンガエル。カンガエル]
「知るかよ。……しばらくそれ、解かねぇからな」
ジンはそっぽを向きながら言い放ったが、その目にはどこか、わずかな迷いが浮かんでいた。




