表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第3章「双神の巫女」
37/106

vs.勇者





 クレイズさんとアレスさんの剣が、火花を散らしながら激しくぶつかり合う。

 金属同士が擦れる耳障りな音が、戦場の空気をさらに張り詰めさせた。


 互いに一歩も引かず、剣圧で地面の砂利が弾け飛ぶ。息は荒く、額から流れる汗と血が混じり合い、視界が滲む。それでも二人は止まらない。


「シャルが死にそうなのに、お前は何とも思わないのか!」


 怒号と共に、クレイズさんの剣が力強く振り下ろされる。

 アレスさんはその刃を受け止め、眉一つ動かさずに吐き捨てた。


「そんなの…、知るか!」


 金属音が耳を打つ。アレスさんは攻撃の手を緩めるどころか、さらに踏み込んできた。

 その冷淡さに、クレイズさんの胸の奥が燃え上がる。怒りが理性を呑み込み、剣筋が荒々しさを増す。


「……っ、いい加減にしろ!」


 刹那、アレスさんの構えにわずかな緩みが生じた。

 クレイズさんはその瞬間を逃さず、踏み込み、剣先を鋭く突き出す。

 鈍い感触が手に伝わり、アレスさんの身体がびくりと震えた。

 剣は、腹部を深く貫く。


 血の匂いが、急に濃くなる──。



 腹部から流れ出る温かい感触に、アレスさんは息を呑んだ。

 視線を落とすと、自分の身体に深く突き立ったクレイズさんの剣が、脈打つように震えている。


「……く、は……」


 喉の奥から濁った息が漏れ、血が口端から伝う。

 それでも、アレスさんの瞳には怯えも後悔もなく、ただ薄く笑う影だけがあった。


「……アレス、なんでっ」


 クレイズさんは息を荒げたまま、握った剣から手を離せずにいた。

 胸の奥で何かが締め付けられる。怒りで突き動かされたはずなのに、今は妙な空虚感が全身を支配していた。


「なんで、手を抜いたんだ……!」


 アレスさんはふらつきながら、クレイズさんの肩を掴む。


「……これで、……いいんだ……」


 言葉の続きを口にする前に、膝が崩れ、クレイズさんの剣がゆっくりと引き抜かれた。


 地面に膝をつく音が響き、赤黒い染みが瞬く間に広がっていく。


「……アレス!」


 クレイズさんは慌てて腕を伸ばし、その身体を支える。

 クレイズさんはアレスさんの身体を地面に横たえ、その顔を一瞬だけ見下ろした。

 血に濡れた頬、わずかに動く唇──それ以上は、見ていられなかった。


「……シャル……」


 小さく名を呼び、クレイズさんは振り返る。


 遠く、瓦礫の向こうでうずくまるように倒れているシャーリーさんの姿が目に入った。

 シャーリーさんの近くには、クロとピービーが必死に寄り添っている。


 剣を引きずるように握ったまま、クレイズさんは全力で駆け出した。


「シャル!」


 シャーリーさんのもとへ近付くと、倒れた彼女の手がわずかに動いたのが見えて、クレイズさんは安堵の息を吐く。

 手を握れば、その肌はあまりに冷たく、彼女の呼吸はかすかすぎた。


「……しっかりしろ、シャル……!」


 震える手で彼女の肩を抱き起こすクレイズさんの声は、怒鳴るでもなく、泣くでもなく、ただ必死に呼びかける響きだけを持っていた。


「………、」

「シャル!」


 クレイズさんは震える手でシャーリーさんの頬を撫でた。

 その肌は、先ほどよりもさらに冷たく感じられる。


「……シャル。聞こえるか?」


 呼びかけると、シャーリーさんのまぶたがかすかに動いた。


「……くれ……いず……?」

「ああ、俺だ……もう大丈夫だ」

「……あれす、は?」


 呼吸も浅く、今にも消えてしまいそうなほどだ。


「……アレスも無事だ。アレスもシャルも大丈夫だから。…だから……っ!」


 シャーリーさんの手がクレイズさんの頬を撫でる。


「くれいず、…ないちゃ、だめだよ」

「シャル…っ、俺は……っ!」

「……ごめん、ね」

「! シャル?……シャル!!」


 シャーリーさんの手が力なく落ちる。

 必死に呼びかけても、その返事はもうなかった。


 やがて、シャーリーさんの胸の上下が止まり、全ての力が抜け落ちるように彼の腕の中で静かになる。


「…………」


 クレイズさんは声を出さなかった。

 ただただ彼女を抱き締め、震える指先で髪を撫でる。


 その瞳からは、何の抵抗もできないまま静かに涙がこぼれ落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ