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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第3章「双神の巫女」
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再会 ※死神視点





 村は──跡形もなく消えた。


 ジンの魔封術がなければ、私もシャーリーも、あの巫女の術に巻き込まれてただでは済まなかっただろう。


 村から少し離れた場所にそびえる一本の大木。ジンは結界を張った反動で意識を失い、いまは私の背に負われている。背中越しに伝わる体温は確かだが、呼吸は浅い。


 大木の根元にたどり着き、私はジンをそっと地面に降ろす。

 後ろを黙ってついてきていたシャーリーが、周囲を確認して小さく息をついた。


「ここまで来れば…大丈夫だと思います」

「そうか。世話をかけるな、シャーリー」

「いえ…。助けていただいたのは私ですし…。あの…ジンさんは大丈夫でしょうか?」

「ああ、命に別状はない。力の使いすぎで気を失っているだけだ。少し休めば目を覚ます」

「…よかった…」


 胸を押さえて安堵するシャーリーの姿が、かすかに震えて見える。


 ──結界の魔封術、包月ほうげつ

 あれだけの破壊の力を、たった一つの結界で押しとどめた。

 ジンが結界を解いた直後、全身から力が抜けたように崩れ落ちたのも無理はない。


 私たちは落ち着ける場所を求め、この大木まで来た。黒猫もずっと私たちの足元を離れなかった。


「巫女は…いつからあんな状態なんだ?」

「わかりません…。あんな巫女様を見たのは、今日が初めてで…」

「…………」


 シャーリーの答えは短く、だが声の奥に混じる恐怖は隠しきれていなかった。

 私は立ち上がり、大木を見上げる。風が葉を揺らし、ざわり、と音が落ちてくる。その静けさが、さっきまでの惨状をかえって際立たせた。


 ふと、背後でかすかな動き。

 ジンが、ゆっくりとまぶたを開いた。


「ジンさん!大丈夫ですか?」

 と、シャーリーが駆け寄る。


「……シャーリーさん…っ」

「無理をするな。しばらくそこで休め」

「……二人とも、無事でよかった」

[にゃあ!]

「…ああ。お前も無事で何よりだ」


 黒猫は嬉しそうに鳴き、ジンの胸元に鼻先を押しつける。ジンはその頭をやさしく撫で、深く息を吐いた。


「村は…?」

「無くなった。跡形もなくな。…おぬしが居なければ、今頃私たちも同じ運命を辿っていた」

「…はは…」


 ジンの口元にかすかな笑み。

 本当に、よくやった。

 他の誰かの術では到底耐えられなかったはずだ。結界の中で生きていられたのは、ジンだったからこそだ。


 ──こいつの力は、私が見てきた魔封術の中でも群を抜いている。

 ケアテイカーは「精神力は常人より低い」と言っていたが…あの力を見ると、その言葉は信じがたい。


[……にゃ?]

「? どうしたの、猫ちゃん?」


 黒猫が首を上げ、きょろきょろと周囲を見回す。

 次の瞬間、茂みの向こうへ一目散に駆け出した。

 その直後──誰かの叫び声が届く。


 私は即座に視線を向け、警戒の色を浮かべる。

 茂みの向こうから、黒猫と誰かが現れた。黒猫はその人物の顔にしがみつき、前が見えているのか怪しい状態だ。


[にゃあ! にゃあにゃあにゃあ!]

「……クロ。離れて。歩きづらいから」

[ケアテイカー! クロ! カイネコ! クロ! クロ!]

「ずいぶんな勢いだったが…顔は平気か?」

「はい、なんとか…」


 現れたのはケアテイカー。

 その隣には見知らぬ男がいて、互いに何やら話しながらこちらに歩み寄ってくる。敵意は感じないが、私は無意識にジンとシャーリーの前に立った。


 二人が茂みを抜けたとき、男の足元には小さなうさぎがいた。

 それを見たシャーリーが、驚愕の色を浮かべて走り出す──。


「もふちゃん!」


 駆け寄りながら声を掛けると、うさぎはぴくりと耳を動かし、ぱっとシャーリーの元へ跳ねていった。


「もふ……?」


 うさぎが離れていく様子を目で追っていた男も、その動きをきっかけにこちらへ視線を向ける。そして、シャーリーの姿を認めた途端、目を大きく見開き、彼女がうさぎを抱き上げるのと同時に声を張り上げた。


「シャル…!?」

「?」


 シャル。

 どうやらシャーリーの呼び名らしい。男はその名を呼びながら、一歩、また一歩と彼女に近付いてくる。彼の肩にはぐったりとした別の男が担がれているが、今は問いただすのは後回しにした。


 男の声に反応したシャーリーは顔を上げ、その顔を見た瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれる。


「クレイズ…!?それに、…っ、アレス!」


 震える声で呼ばれた名前。クレイズがこの男、そしてアレスが担がれている者の名らしい。

 ケアテイカーは二人のやり取りを小首を傾げて眺め、視線をシャーリーとクレイズの間で行き来させている。腕の中の黒猫は、さっきまで顔に張り付いていた反動か、今はおとなしく抱えられていた。


 ……そのとき、ふと視界の端に映った。

 ケアテイカーの足元のあたりで揺れる、奇妙な丸い物体。


 ──あれは何だ?


 私が訝しげに眉を寄せた、そのときだった。


「! ジン!死神さん!」


 ようやくケアテイカーがこちらに気付き、ぱっと顔を上げて声を掛けてきた。



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