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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第3章「双神の巫女」
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vs.巫女の呪い・1 ※死神視点





 村の中心。赤黒い空の下、巫女は宙に浮かび、禍々しい瘴気を全身から噴き上げていた。

 私とジンは対峙する形で立つ。黒猫は、シャーリーと共に離れた場所に避難していた。

 具現化装置がない以上、巫女の身体から呪いは取り出せない。このまま一時退散という事も出来るが、簡単には逃がしてはくれない状況だ。


 ──私たちだけで、やれるのか。

 ──いや、やるしかない。か。


「……ジン、あの結界は壊せるか?」

「どうだろうな。やってみる」


 返事と同時に、ジンは札を取り出し、瞬時に投げ放った。札は巫女の背後で、黒煙のような符術の刃を展開する。

 私もそれに合わせて槍を顕現させ、足場を蹴った。


 ──一撃で仕留める。


 槍の刃先が巫女へ届く刹那、巫女の瞳がこちらを捉えた。

 赤い閃光。次の瞬間、衝撃波のような力が爆ぜ、私の身体は空中で弾き飛ばされる。


「……ッ!」


 地面を数度転がってから立ち上がる。骨まで響く衝撃。


「死神!」


 ジンの声に振り向くと、彼は既に別の札を構えていた。


「援護を頼む!」

「任せろ!」


 私は再び槍を握り直し、地を蹴る。ジンの札が巫女の周囲で光の輪となって展開し、視界を覆い隠した。

 その一瞬、私は巫女の背後に回り込み、槍を振り下ろす──だが。


「甘いわ」


 巫女の声が耳元で響く。

 背後を取ったはずが、次の瞬間には首筋に爪先が触れていた。いつの間にか、彼女は私の真後ろに移動している。

 そこから放たれた衝撃で、視界が一瞬白く弾けた。


 気付けば地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に抜ける。


「……なんなんだ、この力は…っ」


 これが呪いの力か。低く吐き捨て、私は槍を支えに立ち上がった。巫女を見ると、愉快そうに笑っている。


「ふふ。力の差は歴然ね。でも、よくやっているわ」


 その言葉と共に、赤黒い鎖が地面から無数に伸び、私とジンを絡め取ろうと迫る。

 私は槍で鎖を切り払い、ジンは光の壁を展開するが、鎖はまるで意思を持つ蛇のように回り込み、足を狙ってくる。


「っ、まずい!」


 ジンの足首に一本が絡みついた瞬間、私は躊躇なく槍を投げた。刃が鎖を断ち切り、彼は辛うじて飛び退く。


「悪い!」

「礼はあとだ、来るぞ!」


 巫女が片手を上げた。

 空がさらに濃く、禍々しく染まる。次の瞬間、私たちの足元から鋭い黒い杭が幾重にも突き上がり、避ける暇も与えず全方位から襲いかかる──。


 力が、あまりにも隔絶している。

 このままでは、押し潰される。


 黒い杭の嵐をかろうじて切り抜けた瞬間、巫女はふっと動きを止めた。

 まるで、十分に遊んだ後のように。


「もういいわ。……十分に遊んだでしょう?そろそろとっておきのを見せてあげる」


 その声に、背筋が氷のように冷たくなる。

 巫女は両手をゆっくり広げ、空の瘴気が渦を巻きながら一点へと集束していく。

 空が裂け、赤黒い光の柱が形を成す。周囲の空気が歪み、耳が軋む音が響く。


「……ッ、あれは!」


 瞬時に理解した。私の槍も、ジンの札も、この規模には到底届かない。


 しかし──


「死神、こっちに来い!」


 ジンが短く叫ぶ。


「クロとシャーリーさんもこっちに!早く!」

「は、はい!」

[にゃあ!]


 声を張り上げてクロとシャーリーも呼び寄せ、彼はその札を地面に貼り付け、呪文をとなえる。


「結界・《包月(ほうげつ)》!」


 瞬間、私たちの周囲に半透明の半球が展開される。空気が重くなり、音が外界から遮断された。


 直後、巫女の掌から放たれた光の柱が村を呑み込んだ。

 地面が砕け、家々は跡形もなく粉砕され、熱と衝撃が一斉に押し寄せる。

 結界の外側はただの光と瓦礫の奔流──まるで世界の終わりを、薄い膜一枚隔てて見ているようだった。


 視界の全てが赤黒く染まり、轟音が骨を揺らす。

 だが結界は破れない。ジンの額から汗が滴り落ち、唇がわずかに震えている。


「…っ、…頼む…!保ってくれ!」


 やがて、光が収まり、轟音も遠ざかる。

 結界が消えると、そこには……瓦礫も、家も、人影すらも、何一つ残っていなかった。

 ただ、焦げた大地と、ゆらめく熱気だけが広がっている。


 巫女はその光景を見下ろし、満足げに微笑んだ。

 そして、ふっと空気と共に掻き消えるように姿を消した。


「っ、」

「ジン!」

[にゃあ!]


 結界が消えると、力を使い果たしたジンが意識を失くし、ドサリと倒れる。

 残されたのは、私たち三人と黒猫だけ。


 村は──もう、どこにもなかった。



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