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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第1章「11日間の試練」
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出会い





「神様?…それなら酒場に行けば会えるよ」

「え?」



 翌日。さっそく神様を捜すべく宿屋から街へと出た。

 当然ながら、そう易々とは見つからないだろう。何せ相手は神様だ。

 そう腹を括っていたのだけど、通りを歩き始めてほんの数分後、武器屋の店主さんからあっさりと神様の所在を聞かされてしまった。




「はい、猫ちゃんにはミルクね」

[にゃあ]


 ──というわけで、早速足を運びました酒場。

 どうにも展開が駆け足すぎて、心が追いつかない。


 確かに「神様に会う」という試練は、これで一応は果たせるだろう。

 しかし、あまりにも呆気なく辿り着いてしまったせいで、胸の奥に妙な不満が残る。


[ん、食べないのか?]


 木製のお皿に注がれたミルクを、ごくごくと喉を鳴らして飲むクロ。

 僕の前にもミルクが注がれたコップが置かれ、その隣には香ばしいお肉を盛ったお皿が二枚。

 はぁ。と、ひとつため息を漏らし、頬杖をつく。

 周囲は笑い声と談笑で満ちていて、お酒と香辛料の匂いが鼻をくすぐった。


「ねぇ、クロ」

[ん?]

「僕たち、騙されたんじゃない?」

[は?]

「どう考えても、こんなところに神様がいるとは思えないよ。これって、あの店主さんがついた嘘なんじゃ」

[…考えすぎじゃないの?あの人が嘘を吐くとは思えないけど]

「そうかな」


 確かに、話を聞いた時の店主さんは真剣そのもので、クロの言う通り嘘を吐いているとは思えない。

 冷静に考えれば、あの人がわざわざ僕らに嘘を吐く理由はないのだ。


 ……それでも、今の僕はこの状況に納得しきれず、疑念を捨てられなかった。


「………、」


 むすっと眉を寄せながらお肉にかぶりつく。

 味は悪くないけど、気分が乗らないせいか凄く味気なく感じる。

 それでも注文した以上、残すつもりはない。空腹は思考を鈍らせるからね。


「てめぇ、殺されてぇのか!?」


 その時、甲高い怒号が真上から降ってきた。騒がしい店内でも、その声だけは鮮明に響く。

 視線を上げると、二階席の手すり越しに何やら揉めている気配があった。

 一階席は旅人用、二階席は地元民用。つまり、あれは住人同士の争い。喧嘩かな。


「[!?]」


 怒声はさらに大きくなり、次の瞬間、人影が宙を舞った。

 投げ飛ばされたのだと気づいた時には、その人影は僕らの食卓めがけて落下し、お腹からテーブルに激突。

 お皿もお肉も木製のテーブルも、一瞬で崩れて無残な姿となる。驚いたクロが、ぱっと僕の胸元に飛びついた。


「あー、僕のご飯が…」


 お皿の上で静かに命を落とした肉片を見て、無意識に声が()れる。

 二階からは、落ちてきた人を投げ飛ばしたらしい男の人が手すりをがっしりと掴んで怒鳴り散らしていた。


「てめぇ!もう二度と俺の前に現れんじゃねぇぞ!次は本当にぶっ殺すからな!」


 凄まじい剣幕。あれほどまでに怒りを買う理由は何なのか。


「イ、テテ…っ。うわ、なんだこれ汚ぇ!?」


 落ちてきた男の人は呻きながら起き上がり、自分の服の汚れに顔をしかめた。

 こちらとしては"ご飯が無くなってどうしてくれるんだ"と言いたいけど、どう見ても関わらない方が身のため。

 だけど不運にも距離が近すぎた。彼の視線が僕らを捉える。嫌な予感しかしない。


「ん。…え、は!?まさかこれお前のやつだった!?」


 彼は慌てて立ち上がり、後ずさる。

 時すでに遅し。僕の食事は見るも無残だ。

 腕の中のクロも牙を剥き、シャーッと威嚇している。どうやら彼のミルクも犠牲になったらしい。


「わ、悪い!お詫びに弁償…って、駄目だ!今の俺には金がねぇ…っ!」


 騒ぎを聞きつけ、女性の店員さんが慌ただしく駆け寄ってくる。

 申し訳ないと頭を下げると、「よくあることだから気にしないで」と笑った。

 どうやらこの店では、こうした乱闘は日常茶飯事らしい。


「あ、そうだ!お前、怪我はないか!?」

「え?」


 店員さんの邪魔にならぬよう避けていた男の人が、急にこちらへ歩み寄り、慌てた様子で問いかけてくる。

 いや、僕たちの心配をするよりもまずは自分の心配をしてください。二階から落下したのだから。


「僕たちは大丈夫です。…貴方は?凄い音してましたけど」

「ん?ああ、俺は平気だ。昔から身体だけは頑丈だから」

「…そうですか」


 男の人はニカッと笑う。

 しかし彼の接近でクロの警戒心はさらに高まり、腕を突き出して激しく振り回した。


「? あー、ごめんな。お前のご飯も台無しにしちまって」

[俺のミルク弁償しろコラ!食べ物の恨みは恐ろしいんだぞコラ!]

「……なんかシャーシャー言ってる。…こいつ怒ってんの?」

[ミルクー!ミルクー!!]

「クロ、落ち着いて」


 クロの声は彼には届かない。

 クロの言葉が聞こえるのは、この世界で僕だけ。与えられた力、と言えば聞こえはいいが、実のところ理由は僕にもわからない。

 ……いずれ、答えが見つかるのだろうか。

 クロの頭を撫でながら眉を下げる。

 この調子では、しばらくは機嫌も戻らないだろう。


「大丈夫です。クロはいつも怒ってますから」

[あ!?]

「そうなのか?…なら、いいのか」

[よくねぇよ!…~~っ!あと数センチ腕が足りない!]


 もし彼にクロの声が聞こえていたら、今ごろ取っ組み合いになっていたかもしれない。


 ……ぐぅ、と僕のお腹が鳴った。

 これはもう一度、注文し直すしかない。




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