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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第3章「双神の巫女」
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ケアテイカーは何処に? ※死神視点





[にゃあ]

「…………、駄目だ。全然わかんねぇ」


 ケアテイカーと別れたあと、私は村の中を歩いていた。通りを抜け、井戸の脇を過ぎたところで、シャーリーと鉢合わせる。

 軽く挨拶を交わすと、彼女は「ちょうど良かった」と私を誘い、巫女の家へと向かうことになった。


 巫女の家の前では、ジンがしゃがみ込み、ケアテイカーの飼っている黒猫と向き合っている。

 猫の足元の地面には、何やら細かい線で描かれた魔法陣。ジンはそれを睨みつけながら、何度も首をかしげていた。


「何をしている?」

[にゃあ!]


 黒猫は私の姿を見るやいなや、魔法陣から離れて飛び付いてきた。しっかりと抱き止めると、その小さな顔には焦りのようなものが浮かんでいる。


「…どうかしたのか?」

「それが、さっぱりわかんねぇんだ」


 ジンは立ち上がり、ため息交じりに答える。


 黒猫は私の腕から飛び降り、巫女の家の木製の扉をカリカリと爪で引っ掻いた。ジンと視線を交わすが、どちらも「?」が頭に浮かぶばかりだ。


「…そういえば、ケアテイカーはどうした?」

「さぁな。それもさっぱり。巫女様のことを聞き回ってたら、あいつが慌てた様子で走ってきて、そのまま引っ張られてここに来た」

「……………」


 腕を組み、思案する。

 魔法陣について尋ねると、ジンはばつの悪そうな顔をした。

 黒猫の言葉を理解するため、知識と想像を総動員して試みた結果がこれらしい。……結果は見ての通り失敗だが。


「猫ちゃん、そんなにカリカリしたら駄目だよ」

[にゃあ!]


 シャーリーが近付き、扉を開けた瞬間、黒猫は素早く家の中へ駆け込んだ。私とジンも後に続く。


 奥の部屋では、巫女が一人で腰掛けていた。私たちに気付くと、穏やかに微笑む。


「あら、シャーリー。おかえりなさい」

「ただいま戻りました、巫女様」

[にゃあ!]

「あら、お客さんも一緒なのね。何か私にご用かしら?」


 黒猫は巫女に向かって低く唸り、毛を逆立てている。

 ジンが抱き上げるが、猫は暴れ続けた。部屋の中を見回すと、巫女を囲むように置かれた蝋燭と、天井から吊るされた石が目に入る。それ以外に怪しい物はない。


[にゃああ!]

「っ、おい、どうしたんだよ? 暴れんなって!」

「随分と元気な黒猫ちゃんね。……誰かを探しているのかしら?」

[にゃあ!]


 巫女はゆっくりと近付き、黒猫の頭を撫でようとした。

 しかし、黒猫は牙を剥き出しにし、鋭い爪で彼女の手を引っ掻く。赤い線が走り、血が滴る。


「あ、おい…!」

「ふふ。本当に元気な黒猫ちゃんだこと。……先ほど来た飼い主さんとそっくり」

「? ケアテイカーがここに?」


 私が問い返すと、巫女は頷き、少し楽しげに語る。


「あの子、とっても賢い子なのね。話していて面白かったわ」

「ケアテイカーはそのあとは?」

「話をしたあと、すぐに帰っていったわ。……戻っていないの?」

[にゃあ!]


 巫女が首を傾げる中、黒猫はなおも威嚇を続ける。

 その様子に、胸の奥に小さな違和感が芽生えた。ジンもまた、眉をひそめて黒猫を見ている。


 黒猫が一匹だけでここにいること自体、おかしい。

 こいつはいつも、ケアテイカーの肩か鞄の上が定位置だ。


 ……なぜ、一匹なんだ?

 ……ケアテイカーは、どこへ行った?


「…………」


 巫女に悟られぬよう、私は視線をゆっくりと部屋の隅々まで巡らせた。

 黒猫がいまだに巫女への威嚇を解かないのは──単なる呪いの気配だけではない。

 他にも、何か理由がある。


 ふと、巫女の足元に転がる小さな石が目に留まった。

 二つに割れ、欠片が床に散らばっている。


「巫女。その足元の石は何だ」

「石?……ああ、これのことね」


 巫女はしゃがみ込み、石を拾い上げる。

 割れたそれを見つめ、眉を下げた。


「あらあら、残念。壊れてしまったのね」

「巫女様、それは?」


 シャーリーが問いかける。

 その瞬間、巫女はふっと口元を緩めると、石をそのまま口へ放り込んだ。

 ガリ、ガリ……と、嫌な音が響く。


 あまりの行動に私も、ジンも、息を呑んだ。


「! 巫女様!?何を──」

「何をって……ゴミを片付けただけよ?ほら、綺麗になったわ」

「……マジか」


 ジンが呆れとも困惑ともつかぬ声を漏らす。

 私は眉をひそめ、背後に槍を顕現させた。


「巫女。一つ聞きたい」

「……何かしら?」

「ケアテイカーと話をした、と言ったな。何を話した」

「何をって……ただの世間話よ?」


 巫女の両目が、じわりと赤く染まり始める。

 その変化に、シャーリーの肩が小さく震えた。

 ジンは懐から札を取り出し、私と同じく警戒を強める。


「……巫女。もう一つ聞く」

「もう、質問が多いわね」

「……ケアテイカーをどこへやった」


 声を低く落とすと、巫女は一瞬だけ無表情になり、鋭い視線を私へ突き刺した。

 しかしすぐに、口の端を吊り上げる。


「あの子なら、もうこの村にはいないわ」

「!」

「あの子は今、魔王の城にいるの」


 魔王の城──?

 聞き覚えのない地名に、私の中で警戒が跳ね上がる。


「あの子はね、私に向かって攻撃してきたのよ。だから私は自分を守っただけ。……正当防衛よ」

「巫女様、どうしてそんなことを……」


 シャーリーの前に出て、私は槍の穂先を巫女へ向けた。


「巫女。魔王の城とやらはどこにある」

「……さあ。どこだったかしら?」

「しらばっくれるな。今ここで吐けば何もしない」

「……吐かなかったら?」

「力づくで吐かせる。……口が残っていれば、の話だがな」


 私の言葉に、巫女は目を細める。

 そして、くすくすと笑い声を漏らした。


「何がおかしい」

「ふふ……ごめんなさい。あなたたちがあまりに真剣だから、つい」


 次の瞬間、巫女の身体を赤黒い結界が覆い、宙へ持ち上げる。

 天井が破れ、吊るされていた装飾品が床に散らばった。


 巫女はそのまま、村の上空へと飛び去っていく。

 私は小さく舌打ちをした。


「巫女様……」


 シャーリーが天井の穴を見上げ、肩を落とす。

 その場に崩れ込む彼女に歩み寄り、私は膝をついた。


「シャーリー、よく聞け。あの巫女は呪われている」

「……のろ、い……?」

「ああ。今から私たちは、その呪いを払いに行く。おぬしはここで待て」

「……巫女様は、助かるのですか?」

「ああ。必ず助ける。……信じて待て」


 口元をわずかに緩める。

 だが心の奥では、冷たい疑念がくすぶっていた。

 巫女の身体から呪いを抜くには、神から授かった具現化装置が必要──それを持っているのは、今ここにいないケアテイカー。

 装置がなければ、あの巫女の呪いは祓えない……。


「お願いします……!巫女様を……助けて……!」


 シャーリーの懇願に頷き、私は立ち上がる。

 外へ出ると、空はすでに赤黒く染まっていた。



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