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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
幕間・1
22/106

暇潰し






「……私の“呪い子”が一つ、死んだ」



 某国――神華しんか城。

 かつては神威かむい城と呼ばれたその城の最上階、長い廊下の果てにある玉座の間。


 数十本の蝋燭が照らす王の椅子に、紫の髪の女――レアフィリス・スォールは頬杖をついて座っていた。

 視線の先では、銀色の鎧を纏った男が静かに跪いている。


「おぬしには、わかっておろう。"誰が"呪いを祓ったのか」


 低く問いかける声に、男は沈黙で応じた。


「あれは私の最後の暇潰しだった。あと数刻もすれば自我を持ち、宿主を喰らうはずだったのだ。それを……ほんの寸前で祓われてしまった」


 冷ややかな声音が玉座の間に落ちる。

 呪いを祓ったのは三人の男女。

 その中に、男がよく知る人物の顔があった。


 ジン・レスター。

 男の息子であり、同じく魔封術を得意とする青年。

 古より伝わるその術で、彼は仲間と共に呪いを断ち切ったのだ。


 男は奥歯を噛みしめる。まったく予想外の展開だった。


「……何故こんなことが起きたか、理由はわかっておる。我が兄の差し金だ」


 レアフィリスの眉間に皺が寄る。

 遠い昔、自分の元を去った兄。その命令で誰かが呪いを祓ったのだろう。

 宿主ごと葬ったのか――それとも、別の手段か。


 あの兄ならば、確実に呪いを解く方法を見つけ出していてもおかしくはない。

 そうでなければ、私の呪いが破られるはずがない。


「……まぁ、構わん。まだ残っておる」


 短く息を吐き、彼女は薄く笑った。


「どうするかは――貴様が決めろ。よいな?」

「……は」


 男はようやく口を開き、立ち上がると背を向けた。

 蝋燭の揺らめきに影が長く伸びる中、彼は静かに玉座の間を去っていった。


+



「……………」


 部屋を出た男の脳裏に浮かんだのは、自分の息子の顔だった。

 なぜ、あいつが呪いを祓うような真似をしているのか――その経緯はわからない。


 たまたま、そうなっただけなのか。

 それとも、呪いという存在を知ったうえでの行動なのか。


 できれば前者であってほしい。だが、もし後者ならば――それは、男にとって非常に都合が悪い。


「……………」


 懐から、一枚の札を取り出す。

 両面に魔法陣が刻まれた札。その図柄を見つめながら、男は眉間に皺を寄せた。


 もし、あいつが呪いを祓い、偶然にもこれを見つけてしまったら――。


 裏面に描かれた魔法陣は、空間封印の術式だ。

 空間封印の魔法陣が描かれているのは男が持つこの札のみ。それ故、男が持つこの札が何処かで見つかってしまった場合、わかる者が見れば一目でその札が男の物だとわかってしまう。


 あの女は「最後の暇潰し」と言っていた。

 つまり、あいつが祓ったのは、あの少女に宿っていた呪い。


 男は札を握りしめる。

 その呪いには、密かにこの札を仕込んであった。


 少女の住む街には墓地がある。

 そこには、男が隠した"ある物"が眠っていた。


 空間封印――それは、その名の通り特定の範囲を他者から完全に隠す術だ。

 特殊な力を持たぬ限り、術を見破ることも、解除することもできない。


 そんなことはありえない……と信じたい。

 だが、もしあいつが空間封印の存在を知り、"それ"を見つけてしまったら――。


 考えを振り払い、首を振る。

 いや、それは考えすぎだ。


「……………」


 再び息子――ジンの顔が脳裏に浮かぶ。

 もう何年も顔を合わせていない。

 しかも今は、少々関係がこじれており、会おうと思っても容易にはいかないだろう。


 札を懐に戻し、階段を降りる。

 深く息を吐きながら、男は思案を続けていた。



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