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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第2章「見えない少女」
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見えない少女・その後




 その後の僕たち。



 洞窟の奥へ進むと、吹き抜けてくる風がだんだん強くなり、やがて目の前が明るくなった。出口を抜けた先は――見覚えのある中庭だった。

 そう、ここはシュリーナの家だ。


 外へ出た瞬間、僕はようやく理解した。

 これじゃあ死神さんが「呪いは出てこなった」と言っても不思議じゃない。呪いは墓地からこの洞窟を通って、家の中に現れたんだ。


「…もう行ってしまわれるのですか?」


 振り返ったルナイゼルさんの声が、少しだけ寂しげに聞こえた。


「私たちにはやるべき事があるのでな。これ以上長居は出来ない」

「そうですか…。寂しくなりますね」


 あれから二日。

 僕たちは呪いが破壊していったプルクフェルト家の壁を修繕するため、この街に滞在していた。


 壁の修繕に二日も掛かった理由は、あの穴が予想以上に大きかったせいで時間がかかり、ほぼ休憩も取らず作業を続けたから。修繕技師なんて便利な人材はこの街にはいないから、全部自力でやるしかなかった。


「すみません。シュリーナはまだ眠っているのか、部屋から出てこないので…」

「いいですよ。疲れてますから」


 おかげで修繕スキルが無駄に上がった気がする。……いや、どこで使うんだこれ。

 壁直すなんて、生まれて初めてだよ。


+


 修繕を終え、僕たちはシュリーナの家をあとにし、街道を歩き始めた。

 次の国に行くには、まず「線」の上まで移動しなきゃならない。


 振り返れば、街はもう小さくなっていた。

 シュリーナにきちんと別れを告げられなかったのは残念だけど……まぁ、仕方ない。


「次は何処の国に行けばいいんだ?」

「ちょっと待って」


 ジンに促され、鞄から地図を取り出す。

 神様から聞いた目的地には忘れないよう印を付けておいた。だからすぐにわかる。


「国境を二つ越えた先、だね」

「国境を二つ? …遠くね?」

「なに、急げばすぐだ」


 地図をしまった瞬間、背後から名前を呼ぶ声が響いた。振り向けば、街の方からシュリーナがこちらへ全力で走ってくる。


 膝に手をついて、息を荒く整えながら、彼女は叫んだ。


「あ、あんたたち! あたしに何も言わずに出ていくってどういうつもり!?」

「シュリーナ、寝癖」

「えっ!?」


 起き抜けなのか、髪にくっきり寝癖が付いている。ジンが指差すと、シュリーナは目を見開き、慌てて押さえた。


「…で、何しにここに?」

「見送りに来たのよ!」

「見送りなんて別にいいのに」

「そういう訳にはいかないわ! あたしを助けてくれたのよ!? お礼も見送りもなしなんて有り得ない!」

「すまないな、シュリーナ。内緒で街を離れて」

「ホントよ! 反省しなさい!」


 腕を組んで唇を尖らせるシュリーナに、ジンは目線を合わせてしゃがみ込む。


「そうか。そんじゃ、お礼を聞こうじゃねぇの」

「!」

「ん? 言いに来たんだろ?」


 顔を赤らめ、視線を泳がせるシュリーナ。

 口を開けては閉じ、なかなか言葉が出てこない。


「ほら、たった五文字だぞ?」

「……~~っ」


 ジンのニヤついた顔を見て、僕は(この人、絶対楽しんでる)と確信した。


「…あ、ありがと…。おかげで元の生活に戻れたわ!」

「はい、よく出来ました」


 真っ赤な顔で叫んだ彼女の頭を、ジンは軽くポンと叩く。

 立ち上がったジンに、シュリーナは眉を下げながらぎゅっと抱きついた。その頭を静かに撫で、ジンはひとつ息を吐く。


「……また、会えるわよね?」

「さぁな。会えるかどうかはわかんねぇ」

「……あんた意地悪ね。こういう時は、嘘でも"また会いに来る"くらい言いなさい」

「ん?」


 首を傾げるジンに、シュリーナは溜め息をつき、一歩離れる。

 そして僕たちを順に見つめ、口元を柔らかく緩ませた。


「それじゃあ、これでお別れね!」


 ――さよならは言わないわ!


 そう言って笑う彼女につられ、僕たちも笑顔を返す。

 そして背を向け、歩き出した。


「ジン。おぬしはまだまだ乙女心というものがわかっておらんな」

「は?」

「そういえばジン、シュリーナといつの間にか仲良くなってたよね。何で?」

「ん?……ああ。俺さ、妹がいるんだよ。ちょうどあいつくらいの年の。それで、少しあいつの姿を妹と重ねちまって……つい」

「ふーん」


 ジンは眉を下げて、照れくさそうに笑った。

 妹さんがいたのか。それで、あんなに扱いに慣れていたんだね――納得。


「……これでは、シュリーナは浮かばれんな」

「「?」」


 死神さんのぽつりとした呟きに、僕とジンは顔を見合わせ、頭の中に「?」を浮かべた。


 その背中を、シュリーナは見えなくなるまで静かに見送っていた。



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