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【修正中】線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第2章「見えない少女」
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呪いの襲撃





「この度は、娘を助けていただきありがとうございます」


 テーブル越しに、シュリーナの父親さんが深く頭を下げた。両隣にはシュリーナとルナイゼルさん。二人も同じく頭を下げる。

 母親さんはキッチンに移動していて、この場にはいない。


 部屋の中にも、高級そうな物がずらりと並んでいた。

 座っている椅子やテーブルも、おそらく高級品。…なんだか落ち着かない。


「私はシュレード・プルクフェルトと申します。お名前を伺っても?」

「あ、はい。彼はジン・レスター。僕は――」


 名乗ると、シュレードさんは首を傾げた。


「ん? レスター?…もしかしてジン殿は、あのレスターさんのご子息か?」

「?」


 ジンを見ると、少しだけ目を見開いている。


「…おや、…父さんを知ってるんですか?」

「おお、やはり。昔、世話になってね。私がこうしているのは、レスターさんのおかげなんだ。…その後、お元気で?」

「……いえ。もう何年も会ってません。たぶん元気にしてると思います」


 ジンはわずかに眉をひそめた。

 その様子に気づいたのか、シュレードさんも話を切る。

 そこへ母親さんが戻ってきた。手には高級そうなトレイ。

 その上にはティーカップが二つ。


「宜しかったらどうぞ」


 カップを置き、母親さんは微笑んだ。


「彼女は妻のルクリアだ」

「あたしのお母様の紅茶は美味しいのよ!」


 ふふん、と胸を張るシュリーナ。

 飲まない選択肢はないので、僕はカップを手に取った。


 ――確かに美味しい。クセになりそうな味だ。やっぱり貴族が飲むものは格が違う。地球食の好きなものリストに書き足しておこう。


 その時、ジンがふと扉の方を見た。

 ルナイゼルさんが声を掛けると、ジンは立ち上がり、扉へ近づく。


「ジン?」

「……ケアテイカー。シュリーナたちを部屋の隅へ」

「え?」


 微かな気配が扉の向こうから漂ってくる。

 言われた通り、僕はシュリーナたちを隅へ移動させた。

 ジンは札を取り出し、扉に貼る。


包月(ほうげつ)


 札が光を放ち、床全体に魔法陣が浮かぶ。

 それを見たシュレードさんがつぶやいた。


「これは…魔封術? 君も魔封術師なのだな」


 魔封術師――。

 魔封術というものは神様から説明されて知っていたけれど、魔封術師というのは初めて聞いた。

 なるほど。魔封術を操るから魔封術師か。


「……そこに居てください」


 ジンはもう一枚札を取り出す。

 ゆっくり扉を開けると、そこには具現化した呪いの姿。

 シュリーナたちが息をのむ。


 僕も右手に風を纏い、構えた。


 ――なぜ呪いがここに?

 死神さん、見張ってるんじゃなかったの?


『!!!』

「!」


 呪いはヘドロ状の身体から何本もの腕を生やし、結界を破ろうと激しく動かす。

 見えない壁が衝撃で大きく波打ち、その様子を確認しながら、ジンは後方へと距離を取り、札を手のひらに乗せるように持ち替え、両足に力を込めた。


『——』

光刃(こうじん)波動(はどう)!」


 唱えた瞬間、札から光があふれ出す。球体だった光は、やがて先端の尖った刃へと形を変え、シュルシュルと音を立てながら巨大化していく。

 呪いの身体を貫くに十分な大きさになったところで、ジンはその刃を勢いよく投げ放った。


『ッ!!』


 光の刃が呪いの身体を深々と突き刺す。

 悲鳴をあげる間もなく、呪いは背後の壁を粉砕し、刃を突き刺したまま外へ逃げ去った。


 呪いの気配が遠のくと、シュリーナが駆け寄ってくる。ジンはその場に蹲って胸を押さえた。


「ジン! …大丈夫?」

「ああ。…急所は外したみたいだ」


 ジンは舌打ちしながら、呪いが去った方角を鋭く見やる。僕も同じく視線を向けた。


「何処に逃げたんだろう?」

「さぁな。ったく、死神は何やってんだ?」


 確かに、死神さんの動きが気になる。

 呪いを追うより、まずは墓地で合流するべきだろう。


「ジン、墓地に行こう」

「それが最善だな」


 ジンは頷き、札を懐から取り出す。その数はまだまだあるようだ。


「シュリーナたちはここに居ろ。この中なら多少は安全だ」

「………ジンたちは?」

「僕たちは墓地で死神さんと合流して、呪いの対策を考えるよ」

「……………」


 シュリーナは服の端を握りしめ、肩を震わせる。

 ジンはそっと彼女の頭に手を置いた。


「大丈夫だ。呪いは必ず俺たちがなんとかする」

「だから、ここで待ってて。倒したら必ず戻ってくるから」

「……うん」


 いつになくおとなしいシュリーナ。

 不安でいっぱいなのだろう。


 僕はそんな彼女に微笑みかけ、呪いが破壊した壁穴から外へ出る。ジンも彼女の頭を軽く叩き、僕の後に続いた。



 ——残された室内。


「……………」

[にゃあ]

「! …あんた、一緒に行かないの?」

[にゃあ]

「…そう。行っても足手まといだものね。あたしと同じで」

[にゃ!?]

「ふふ、大丈夫。馬鹿な真似はしないわ。あたしはそんな愚かな女じゃないもの」


 そう言って、シュリーナはクロを抱き上げ、小さな頭を撫でながら壁穴の向こうをじっと見つめ続けた。



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