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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第2章「見えない少女」
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少女・シュリーナ





「ジン、大丈夫?」

「うぅ…」

「情けないな。どうやら稽古はまだまだ必要のようだ」

「……この場合は許してくれ」


 鐘の音が酷く響いて、長く力を使えなかった――そう言いながら、ジンはゆっくりと起き上がった。

 彼の傍にいた女の子は、僕たちが近付くや否や、一歩下がって警戒するようにこちらを睨みつけてくる。


 水色の髪に、淡い緑色のドレス。

 話を聞くと、この子こそが先ほどの“人影”の正体らしい。僕は頷き、女の子へと歩み寄って声を掛けた。


「ねぇ、君」

「君じゃないわ!あたしはシュリーナ!シュリーナ・プルクフェルト! あの超有名なプルクフェルト家の娘なんだから!」

「「…プルクフェルト?」」


 僕と死神さんの声が同時に重なった。

 彼女は胸に手をトンと当て、声高らかに名乗りを上げる。

 きっとこの国の人間なら、その名を聞いた瞬間に目を見開いて驚くのだろう。だが生憎、僕たちはこの国に来たばかりで、彼女のことをまったく知らない。


 首を傾げ、頭に「?」を浮かべる僕たちを見て、シュリーナは目を丸くした。


「……え、まさかあんたたち、あたしを知らないの!?あの超有名なプルクフェルト家の娘で、しかも"超可愛い"と噂の三女のあたしを!?」

「超、可愛い…?」

「ごめん…あの、僕たち旅人でね。この国に来たばかりなんだ」


 そう言うと、シュリーナは両手を腰に当て、小さく舌打ちをした。

 この子、見た目は僕より小さいのに、態度は僕よりずっと大きいらしい。


「えっと…シュリーナ。君はどうして、さっき僕たちのことを見てたの?」

「あんたたちが調べてたからよ」

「は?」

「"見えない少女"。あんたたち、それを調べてたでしょ? ずっと見てたわ」

「君は、見えない少女のことを知ってるの?」

「ええ」

「もしよかったら、教えてくれないかな?見えない少女について」

「いいわよ、教えてあげても」

「本当か?」


 思いがけない展開だった。

 この女の子は、"見えない少女"について何か知っているという。僕は期待を込めて彼女を見つめた。


 ふふん、と口元を緩ませ、彼女は再び声高らかに言い放つ。


「"見えない少女"は、あたしよ!」

「「……ん?」」

「だから、見えない少女はあたしなの!」


 僕たちは顔を見合わせた。

 彼女の言葉の意味が、すぐには理解できない。


「え、まさか君が?」

「そうよ。良かったわね、見つかって」

「……………」


 呆気に取られた。

 まさか街で噂されていた"見えない少女"が、こんな幼い女の子だったなんて。


「……悪い、ちょっと疑問」

「何?」


 それまで黙っていたジンが、手を挙げて口を開いた。眠気と疲労に抗いながら、何か引っかかることを問いただす。


「お前が」

「お前じゃない、シュリーナ!」

「……シュリーナが、あの超有名なプルクフェルト家の娘なら、“見えない少女”って名前じゃなくて“見えないプルクフェルト家の娘”って名前の噂にならないか?居なくなったのがシュリーナだってわかってたら、すぐに知れ渡ってるはず。なんでこの街の奴らはシュリーナの名を口にしないんだ?」

「………………」


 ジンの言葉に、シュリーナは口をつぐむ。

 言われてみれば確かに。


 視線を落とした彼女は、両手をお腹の前でそっと組んだ。


「……それには、理由があるの」

「理由?」

「あんたたちに言っても信じてもらえなさそうだけど…言うしかないわよね」

「……………」


 シュリーナは大きく息を吸い込み、深呼吸を一つ。

 そして、ゆっくりと語り始めた。


 ――どうして自分が“見えない少女”と呼ばれているのか。

 ――どうして誰も、自分の姿を見ることができないのか。


 彼女の話を聞いたその瞬間、僕の鞄の中にある“呪い具現化装置”が、カタカタと小さく震えた。



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