少女・シュリーナ
「ジン、大丈夫?」
「うぅ…」
「情けないな。どうやら稽古はまだまだ必要のようだ」
「……この場合は許してくれ」
鐘の音が酷く響いて、長く力を使えなかった――そう言いながら、ジンはゆっくりと起き上がった。
彼の傍にいた女の子は、僕たちが近付くや否や、一歩下がって警戒するようにこちらを睨みつけてくる。
水色の髪に、淡い緑色のドレス。
話を聞くと、この子こそが先ほどの“人影”の正体らしい。僕は頷き、女の子へと歩み寄って声を掛けた。
「ねぇ、君」
「君じゃないわ!あたしはシュリーナ!シュリーナ・プルクフェルト! あの超有名なプルクフェルト家の娘なんだから!」
「「…プルクフェルト?」」
僕と死神さんの声が同時に重なった。
彼女は胸に手をトンと当て、声高らかに名乗りを上げる。
きっとこの国の人間なら、その名を聞いた瞬間に目を見開いて驚くのだろう。だが生憎、僕たちはこの国に来たばかりで、彼女のことをまったく知らない。
首を傾げ、頭に「?」を浮かべる僕たちを見て、シュリーナは目を丸くした。
「……え、まさかあんたたち、あたしを知らないの!?あの超有名なプルクフェルト家の娘で、しかも"超可愛い"と噂の三女のあたしを!?」
「超、可愛い…?」
「ごめん…あの、僕たち旅人でね。この国に来たばかりなんだ」
そう言うと、シュリーナは両手を腰に当て、小さく舌打ちをした。
この子、見た目は僕より小さいのに、態度は僕よりずっと大きいらしい。
「えっと…シュリーナ。君はどうして、さっき僕たちのことを見てたの?」
「あんたたちが調べてたからよ」
「は?」
「"見えない少女"。あんたたち、それを調べてたでしょ? ずっと見てたわ」
「君は、見えない少女のことを知ってるの?」
「ええ」
「もしよかったら、教えてくれないかな?見えない少女について」
「いいわよ、教えてあげても」
「本当か?」
思いがけない展開だった。
この女の子は、"見えない少女"について何か知っているという。僕は期待を込めて彼女を見つめた。
ふふん、と口元を緩ませ、彼女は再び声高らかに言い放つ。
「"見えない少女"は、あたしよ!」
「「……ん?」」
「だから、見えない少女はあたしなの!」
僕たちは顔を見合わせた。
彼女の言葉の意味が、すぐには理解できない。
「え、まさか君が?」
「そうよ。良かったわね、見つかって」
「……………」
呆気に取られた。
まさか街で噂されていた"見えない少女"が、こんな幼い女の子だったなんて。
「……悪い、ちょっと疑問」
「何?」
それまで黙っていたジンが、手を挙げて口を開いた。眠気と疲労に抗いながら、何か引っかかることを問いただす。
「お前が」
「お前じゃない、シュリーナ!」
「……シュリーナが、あの超有名なプルクフェルト家の娘なら、“見えない少女”って名前じゃなくて“見えないプルクフェルト家の娘”って名前の噂にならないか?居なくなったのがシュリーナだってわかってたら、すぐに知れ渡ってるはず。なんでこの街の奴らはシュリーナの名を口にしないんだ?」
「………………」
ジンの言葉に、シュリーナは口をつぐむ。
言われてみれば確かに。
視線を落とした彼女は、両手をお腹の前でそっと組んだ。
「……それには、理由があるの」
「理由?」
「あんたたちに言っても信じてもらえなさそうだけど…言うしかないわよね」
「……………」
シュリーナは大きく息を吸い込み、深呼吸を一つ。
そして、ゆっくりと語り始めた。
――どうして自分が“見えない少女”と呼ばれているのか。
――どうして誰も、自分の姿を見ることができないのか。
彼女の話を聞いたその瞬間、僕の鞄の中にある“呪い具現化装置”が、カタカタと小さく震えた。




