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【修正中】線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第2章「見えない少女」
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見えない少女の噂





 “見えない少女”という噂は、この街ではよく知られていた。

 街の出入り口に立つ門番の話によれば、その少女は姿こそ見えないが声だけははっきりと聞こえるという。


 噂では、街の外れにある教会付近――そのさらに先の墓地辺りに現れるらしい。

 だがしかし、この街の外れに墓地は存在しない。あるのは、ただ無駄に広い湖だけだ。

 湖の中心には、錆びついた銅像が一つ。何年か前、ある金持ちが捨てたものらしく、特に怪しいところも見当たらない。

 結局のところ、この話はただの作り話なのかもしれない。


 “見えない少女”は、声は聞こえるが姿は見えない。

 この国の人々は、その不可解な噂に日夜翻弄されていた。


 本当に、この街に“見えない少女”と呼ばれる存在がいるのか──それは、誰にもわからなかった。


+


「はぁ……はぁ……っ!」


 シュリーナ・プルクフェルトは走っていた。

 暗い、暗い空間の中を、ただ必死に。


「はぁ……はぁ……!誰か!誰か助けて!」


 背後から、ヒタッ、ヒタッ……と、何かが床を踏みしめる音が聞こえる。

 その音は、じわりじわりと彼女に近づいてくる。


「はぁ……っ、きゃっ!」


 足元がもつれ、勢い余って地面に倒れ込んだ。

 最初は転んだだけだと思った。だが、ゆっくりと上体を起こし、振り返った瞬間――


 目の前に、男性の身体が横たわっていた。

 暗がりにもかかわらず、その輪郭ははっきりと見えた。顔は反対側を向いていて、表情はわからない。


 しかし、その体型と衣服――間違いなかった。

 それは彼女の父親だった。


 ぐったりと倒れた父の身体から、赤黒い血がどろりと流れ出す。

 その生温い液体が、ドレス越しに彼女の足を濡らしていく。


「お……父さま……」


 声が震えた。

 そして、背後から再び、ヒタッ、ヒタッ……と、あの音が迫る。


 その時、耳の奥に声が響いた。


『シュリーナはどこ?』

『シュリーナ様が居なくなった』

『家出をしたのか?』

『今頃、きっとどこかで泣いている』

『早く見つけなければ』


 それは、家族や使用人たちの声だった。

 必死に彼女を探している――はずなのに。


 ……けれど、どれだけ探そうとも、きっと彼らは彼女を見つけられない。


「……~~~~っ!」


 ヒタッ、ヒタッ……。音が耳をつんざくほど大きくなる。

 シュリーナは両手で耳を塞ぎ、頭を振った。


 誰か助けて――。

 誰か私を見つけて……。

 何度も、何度も心の中で叫ぶ。


 だが、その声は誰にも届かない。


 音の正体は、もうすぐそこまで来ていた。

 きっと、このままでは呑み込まれてしまう。



 この国には、彼女を救える者などいなかった。



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