少年たちの旅路 【終】
ジンから手帳を受け取る。
ページを捲っていくと、ジンの言っていた通り色々な事が書かれていた。地名とか人の名前とか、今まで自分がやってきた事とか。人の名前が書かれているページには、僕の名前もあった。
「うーん……」
顎に手を添えて考える。
手帳を持っているのは別に珍しくない。けれど、どうしてこんなにたくさん書き留めておく必要があるのだろう。手帳に書かれているのは、見た感じわざわざ残さなくても覚えていられるような事ばかりだ。
「…………ん」
そのままページを捲り続ける。
手帳の最後のページ。そこには手紙が一枚、テープで貼り付けられていた。
"シオン・アースビーのみ読むべし!"と大きく書かれている。
僕はそれを丁寧に剥がし、首を傾げた。
「ジン。これ何?」
「ん? ……それ、手紙か?」
「最後のページに貼り付いてたんだけど……」
「…………知らないけど」
「読んでもいい?」
「あー、うん。勝手にどうぞ」
許可は貰ったので、手紙の中身を読んでみる。
自分で貼り付けたのに知らないって、どういう事なんだろう。
そこには、慌てて書いたのか殴り書きの文章がびっしりと並んでいた。
+
"シオン・アースビーへ。
お前が今これを読んでいるって事は、俺は無事にお前に会えたって事だな。良かった。
時間がないから単刀直入に言う。今、お前の目の前に居る俺は、もうお前の知ってる俺じゃない。いや、俺本人なのは間違いないんだが、そこに居る俺はたぶんお前を知らない……というか覚えていないだろう。
レアフィリスから出てきた"箱"があっただろ。あれのせいで俺はああなってしまった。意識を失ったあと、俺はあの箱に半ば強制的に願いを言わされた。願いを言わなければ地球をこのまま滅ぼすって脅されてな。箱に脅されるなんて人生初だったから、すげぇ吃驚したよ。
それで、仕方なく願ったんだ。母さんたちが滅ぼそうとしていたこの地球を、元に戻してくれって。
そうしたら箱は代償として俺の記憶をよこせと言ってきた。願いを叶えるためにはその願いに沿った相応の対価が必要だ。
地球が再生していく度に、箱は俺の記憶を一部持っていく。永遠に死ぬ事はなく、最終的に地球が元の姿に戻った時には、お前は自分の名前すらも覚えていないだろうって言われた。
それで、何も覚えてないのは嫌だなと思って、俺は手帳に書き残す事にしたんだ。今まで自分がやってきた事や、出会ってきた人の事を。もし忘れてしまっても、残しておけば思い出せるかもしれないだろ。
そうやって俺は、地球が元に戻っていくのを何年も何年も見続けてる。
箱に言われた通り、死ぬ事は出来なかった。何度も試したけど無理だった。だからもう吹っ切れた。こうなったら最後まで見届けてやろうって。地球が完全に元の姿になるまで、地球から呪いがすべて無くなるまで、あとどれだけ時間が掛かるかわからないけど、ここまできたらとことん付き合ってやろうじゃないかって。
長くなっちまったな。悪い。これを書いてる最中でも記憶は少しずつ消えていってる。たぶん明日には、この手紙をお前宛に書いた事すら覚えてないだろう。それでもいい。この手紙を残せたってだけでも収穫だ。
この手紙を読んで、お前がどう思うかはわからない。けど、気に病む事はない。これは俺が決めた事だし、後悔はしていない。強制的にやらされたってのが唯一ムカつくけど。
それじゃ、この辺で終わりにする。
今の俺によろしくな。
ジン・レスター"
+
「…………ジン」
手紙を読み終えて、僕は眉を下げた。
記憶が奪われ続けているって……。
「……? シオン?」
「!」
「どうした? 顔真っ青だぞ。……手紙、何が書いてあったんだ?」
「あ、えと……な、なんでも。ただ、久しぶりー、とか色々」
「…………そっか」
手紙の事を聞かれて、慌てて誤魔化す。かなり怪しまれたけど、どうにかやり過ごせた。
「……………」
そうか。だからあの時、ジンの様子がちょっとおかしかったんだ。
「……ジン!」
「ん?」
「僕、これからはどんな事があっても絶対にジンから離れないからね!」
「! ……お、おう」
眉をひそめて、決意表明。
そんな僕を見て、ジンは何が何だかわからないといった顔をしていた。
+
「それで、これからどうするの?」
数分後。
僕は手帳をジンに返して、これからの予定を聞いた。
聞いてみると、この旅はほとんど行き当たりばったりで自由気ままにやっているらしい。目的があれば優先するけど、なければふらふらと歩き回る。
それが、新しい発見につながるんだとか。
「当面、これといって目的なんてないんだよなぁ……」
「ここから近いのは、この"エルシア"って街だけど」
「……もう日も暮れるし、今日はそこで休むか」
ジンが手帳を閉じ、腰のポシェットにしまって立ち上がる。
[ジン。ジン。お腹空いた。空いた]
[にゃあ]
ぴょんぴょんとPBがジンの足元で飛び跳ね、クロが僕の足元で鳴く。
「!」
その時、僕のお腹も鳴った。
起きたばかりだから、すごくお腹が減っている。
「PBは腹なんて減らないだろ」
[シオンの代弁。代弁]
[にゃあ]
「ジン。僕、ホットドッグ食べたい」
「ホットドッグ? え、そんなのでいいのか?」
「うん。旅の必需品だからね。ホットドッグは世界を救うんだよ」
「……よくわからん」
[にゃあ]
ホットドッグは世界を救うんだよ。これは本当。嘘じゃない。誰も信じてくれないけど。
「それじゃあ! ホットドッグ目指してゴー!」
[ゴー!]
「あ、ちょ、急に走ると転ぶって!」
[にゃあ]
僕はその場から走り出し、廃墟の村を離れていく。
そのあとをPBがコロコロとついてきて、ジンとクロも少し遅れて歩いてくる。
ここから、僕たちの新しい旅が始まる。どんな事が待ち受けているのかはわからない。
目的のない旅なんて、凄く久しぶりだ。
「クロ。これから楽しみだね」
[………やれやれ]
僕たちが今いるのは、"箱"だった世界から元に戻りつつある地球の上。
見渡す大地はまだ傷だらけで、壊れた街や森が点々と残っている。けれど、その隙間から芽吹いた新しい緑は、確かに未来を示していた。
僕たちは、まだまだ成長途中の冒険者だ。
これから先、どんな困難が待ち受けていても、ジンと、クロと、PBと一緒ならきっと乗り越えられる。
この旅の終わりは、きっと地球が完全に元に戻ったその時。
それまで僕たちの冒険は続いていく。
――未来へ。
まだ見ぬ明日へ。
僕たちは歩き続ける。




