未来での再会 ※ジン視点
「……えと、本当にここなのか?」
[ここ。ここ。ここに居る。シオン。ここに居る!]
三ヶ月後。
俺は金属の球体ロボット・PBに導かれて、郊外にひっそりと残された古びた研究施設の前に立っていた。
ここへ来た理由はひとつだけ。
手帳に書かれていた“シオン・アースビー”という名前。その人物がこの施設にいるという噂を、近くの街で耳にしたからだ。
「なんか……今にも崩れそうな建物なんだけど」
[行く!行く!シオン会う!シオン会う!]
「お、おい、PB!」
俺の足元でPBがぴょんぴょん飛び跳ね、コロコロと転がるようにして施設の中へと先走っていく。慌ててその後を追った。
PBと出会ったのは二ヶ月前のこと。
手帳の記録によると、彼は街外れのゴミ置き場に捨てられていたらしい。
嬉しそうに声をかけてきたそいつを無視する気にはなれなくて、俺は壊れかけのその金属球を持ち帰って修理した。以来、懐かれてしまい、仕方なく行動を共にしている。
正直、うるさいところ以外は悪くない。
地図代わりにもなるし、退屈しないし。
……まぁ、多少の我慢は必要だけど。
「……中も中でヤベェな」
懐中電灯必須の暗闇。
昼の真っ只中だというのに、施設の内部は太陽の光ひとつ届かない。
PBが周囲をライトで照らし、きょろきょろと首を動かす。外から見た以上に、ここは広い施設だった。
「……!」
胸がざわつく。
“箱”が、何かに反応している……?
「PB、行くぞ」
[! 待ってー]
それを確かめるためには、奥まで行くしかない。
+
「なぁ、シオンってどんな奴なんだ?」
[手帳に書いてあるよ]
「まぁそうなんだけどさ。手帳には名前と“線の上の冒険者”って肩書きしかなくて、人となりは何も書かれてない。どんな奴なのかさっぱりだ」
年下、ということだけは書いてあった。
あとは謎だらけ。せめて、事前にもう少し知っておきたいと思っただけなのだが――
[……シオンは人間じゃないよ]
「……は?」
[シオン。シオン・アースビー。人間じゃない。人間じゃない]
PBは振り向き、ぴょんぴょん飛び跳ねる。ライトが明滅して、目にちらちらと光がかかる。
「人間じゃないって……えっ、まさか魔物なのか!?」
もしそうなら、会った瞬間に食われたりしないだろうか、と嫌な想像が頭をよぎる。
[? シオン、人間じゃない。でも、魔物でもない]
「ん?どういう意味だ」
[シオン、人間でも魔物でもない。魂の生者。魂の生者]
「魂の、生者……?」
[魂の生者は魂だけの存在。シオンは昔、とっくに死んでた。でもBが……シオンの母親が、死を受け入れられず魂だけを抜き取り、器に定着させた。それが、魂の生者]
「……………」
魂を抜き取って、定着……。
B、という名前は手帳にあった。
マシーナリーという国の研究員、だったか。
+
[ピー。ピー]
「…………、」
“箱”の反応がどんどん大きくなる。
施設の奥。ひときわ重そうな扉があった。壊れているのは同じだが、材質が違うのか他よりも硬そうだ。
「お邪魔しまーす……」
歪んだ隙間から中へ滑り込み、周囲を見渡す。
何もない。
[ジン、こっち。こっち]
PBの転がる先に小さな部屋があった。中央に、長年放置されたカプセルが鎮座している。埃だらけで中は見えない。
[ジン、ジン、ここ、ここ]
「?」
PBがカプセルの上部で跳ねる。
そこに赤いボタンがあった。
「これを押せばいいのか?」
[ボタン、押す、押す]
恐る恐る押す。
プシューという音と共に蓋が開き、白い煙が足元を伝って広がった。煙が晴れたとき、そこには一人の少年が横たわっていた。
「! おい、PB!」
PBがカプセルの縁に飛び乗り、少年の胸にごろんと落ちる。
[シオン。シオン]
その名を呼び続ける。
やがて少年はゆっくりと目を開け、PBを見た。
「………ピービー?」
かすれた声。
ゆっくりと起き上がり、少年は周囲を見渡す。
「………ジン?」
「!」
名前を呼ばれた。
手帳の記述通り、彼は俺を知っているらしい。
「えと、ここは……どこ?」
……こいつが、シオン・アースビー。
[にゃあ]
「クロ!」
ひょこっとカプセルの中から黒猫が顔を出す。
シオンがその名を呼んだ。
クロ。どうやらこの猫は、彼の飼い猫のようだった。
+
「うーん、」
廃墟と化した村で、俺は瓦礫の上に座り手帳を開いていた。
PBが隣で地図を投影している。これからどこへ向かうか相談していると、シオンが近づいてきて、声をかけた。
「……ねぇ、何読んでるの?」
興味深そうに手帳を覗き込む。
「手帳だよ」
「手帳?」
「ああ。シオンを見つけたのも、この手帳があったからなんだ」
旅に出る前から持っている分厚い革の手帳。付箋だらけで、文字がびっしり詰まっている。俺の字のはずだが、いつどこで書いたのか覚えていない。
「……見せてもらってもいい?」
「ああ、どうぞ」
ありがとう、と言ってシオンはそれを受け取った。
ページをめくり、興味深そうに見つめるその横顔を、俺はしばらく無言で見ていた。
――胸の奥で、箱が微かに脈打つ。
シオンと出会ったことで、何かが再び動き出そうとしている……そんな感覚があった。




