vs.レアフィリス ※ジン視点
眩しいほどの光が砕け、紫の奔流がうねりを上げて迫ってくる。
俺は封術を放ち必死に受け止めるが、衝撃に腕が痺れ、足が床を滑った。
「ジン!下がれ!」
クレイズの声。
下がれはしない。
レアフィリスの視線が、俺に向いていることが分かっていたからだ。
「っ、…!」
彼女の射抜くような視線が、俺を捉えてはなさない。
紫の髪を揺らし、純白の衣を纏った彼女――レアフィリスは、微笑んでいるように見えた。
だがその瞳は、深い淵のような闇。そこに宿っているのは憎悪でも怒りでもない。
札を構える俺を囲むように、仲間たちが壁を作る。
ケアテイカーの結界、クレイズと死神の一撃、そして親父の術式――皆が俺を守るように前に立ち、何度も彼女の攻撃をはじいていく。
それでも、心臓を鷲掴みにされたような感覚が離れなかった。
狙われている。
どれほど防がれても、彼女は俺を狙うのを辞めない。
――その時だった。
(……ジン……)
「…!」
耳に届いたのは、聞き覚えのある声。
振り返ると誰もいない。仲間たちは必死に戦っている。なのに、確かに俺の頭の中に声が響いた。
(……ジン。箱を手に、世界を滅ぼせ)
次の瞬間、その声は幾つもの声色に変わった。
親父の声。母さんの声。仲間たちの声。ケアテイカーの声。クレイズの声。死神の声。そして、ティタニアの声。
ありとあらゆる声が混ざり合い、同じ言葉を繰り返す。
(箱を手に世界を滅ぼせ。世界を滅ぼせ。世界を滅ぼせ――)
「やめろ!」
思わず頭を押さえ、膝をついた。
視界が揺れ、手にしていた札が床に落ちる。
「ジン!どうした!」
クレイズの声が届いたはずなのに、俺の耳にはまるで水の底から響くようにくぐもってしか聞こえなかった。
ーー駄目だ。このままだと……っ!
「っ、」
呻き声を漏らした瞬間、目の前に影が差した。
レアフィリス。
俺の隙を逃さず、腕を掲げ、紫の光を収束させている。
その刹那――
「やめるんじゃ!レアフィリス!」
じいさんが彼女の前に立ちはだかり、眩い光を解き放った。
レアフィリスの動きが僅かに硬直する。兄の力に、ほんの一瞬、抑え込まれたのだ。
「な…っ!」
「ケアテイカー殿!装置を!」
「っ、わかってます!」
ケアテイカーが駆け出す。
彼の手には呪い具現化装置が握られていた。
それがレアフィリスの胸元に触れた瞬間、紫の瘴気が箱に吸い込まれていく。
だが――
「わっ!?」
箱は突如として強烈な光を弾き返し、ケアテイカーの手から吹き飛ばされた。
床を転がった箱は、煙を上げて震え、動かなくなる。
「……やはり効かぬか!」
じいさんが呟く。
その瞬間、全員が理解した。レアフィリスから呪いを取り除くことはできない。
「だから言ったでしょ。もう遅い、と」
レアフィリスの身体が再び動き出す。
紫の魔力が膨張し、俺たちに襲いかかる。
反撃に転じようとした刹那――死神が叫んだ。
「神!もう一度、そいつの動きを封じろ!」
飛び上がり、槍を構える。
それを見たじいさんは全身を光で覆い、レアフィリスの動きを再び封じた。
「くっ、!」
レアフィリスの声は、微かに揺れていた。
「レアフィリス……答えろ……!なぜ、なぜ、おぬしは呪いに身を委ねたんじゃ!」
じいさんの声は必死だった。
妹に届くはずもないと知りながら、それでも彼は叫ばずにいられなかった。
「っ、言うはずがないでしょ、あんたなんかに…っ。呪いが、呪いだけが、ひとりぼっちだった私を満たしてくれたの。お兄様の言葉じゃなくて、呪いの声が、私を救ってくれたの!」
「何を、言って……」
「だから私は呪いを愛する!呪いと共に生きる!それを邪魔する者は絶対に殺す!殺し尽くす!!たとえそれが家族でも!お兄様でも!!世界でも!!」
言葉が交錯する。
その隙を突き、死神が疾駆する。
「……神!どけ!!」
死神の刃が、彼女の胸を貫く。
紫の光が弾け、広間全体が震えた。
+
戦いは、まだ終わりではない。
俺の頭の中では、なおも声が響き続けていた。
(……箱を手に世界を滅ぼせ。世界を滅ぼせ。世界を滅ぼせ……)
「やめろ……っ!」
俺は頭を抱え、床に膝をついた。
声は止まらない。心を削るように繰り返され、息ができないほど胸を圧迫してくる。
その時、倒れ伏したレアフィリスの胸元から黒い箱が浮かび上がり、それはまるで意志を持つように宙を進み、真っ直ぐに猛スピードで俺の方へと飛んできた。
「ジン……!」
誰かが俺の名を叫ぶ。
抵抗する間もなく、その箱は俺の胸に触れ、一瞬で身体の中へと溶け込んだ。
「っ――あああああああッ!」
刹那、全身を灼けるような熱が走る。
血管のひとつひとつを焼かれるようで、息が詰まる。
視界が赤く染まり、仲間たちの叫ぶ声が遠ざかっていく。
世界を滅ぼせ。
世界を滅ぼせ。
声はさらに強く響き渡り、俺の意識をかき乱す。
耐えきれず、俺はその場に崩れ落ちた。
最後に見えたのは、仲間たちの顔――。
そして、意識は闇に沈んだ。




