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静かな日常と呼び出し

 格納庫に戻ってきたヴァリアント・ネイヴを、整備班の面々が取り囲んでいた。誰もが一様に目を見開いて、機体の状態を確認している。


「うおっ、見ろよこれ……」


整備士のひとりが目を丸くする。


「本当に出撃したのか……? 表面、焼け跡も擦過痕もほとんどねぇ」


「熱の歪みも最低限。動作ストレスも驚くほど少ない……こりゃ整備泣かせってより、整備要らずだな」


「……やっぱ新型は化け物か」


 工具を持ったまま、若い整備士がぽつりと漏らす。リオはタラップを降りながら苦笑した。


「本当に出たよ。敵は全部、こいつが吹き飛ばした」


 班長らしき整備士が機体の側面を叩く。


「それにしたって凄すぎだろ。初陣で目立った傷がないなんて前代未聞だぞ。なあニヴェル、お前も何かしたのか?」


 二ヴェルは整備班の視線を受けても表情ひとつ変えず、静かに答えた。


「支援はした。でも、操縦は……彼」


「そっか。いやぁ、すげぇコンビだな」


 整備班は感心したように何度も頷きながら、ヴァリアント・ネイヴの脚部にスキャナを当てていく。リオはスーツの襟元を緩めながら伸びをした。


「じゃあ、整備は任せた。俺たちはちょっと飯行ってくるよ」


「おう、気をつけてな! 飯抜いてたら死ぬぞー!」


 格納庫を出て、食堂棟へと向かう通路は午後の光に照らされていた。天井の明かりより柔らかくて、リオは思わず足取りを緩める。


 以前なら、出撃の後はいつも一人だった。無言で整備班の視線をかわし、黙って食堂で何かを腹に入れて、さっさと部屋に戻っていた。戦場の緊張が抜けないまま、誰とも言葉を交わさずに過ごす時間が、あたりまえだった。


 ――だけど、今は隣に彼女がいる。


 寡黙で表情も乏しくて、まだ何を考えているのかわからないことばかり。でも、確かに自分の隣にいて、一緒に飯を食べに行ってくれる人間がいるという事実が、妙に胸を落ち着かせてくれる。

 それが、たった数日前までなかったことだと思うと、不思議な感じだった。


 食堂はざわついていたが、戦場の喧騒とは違う、どこか緩んだ空気が流れていた。トレイを手にした兵士たちが笑い合い、料理の匂いが漂っている。


「何食べる?」


「……パスタ、あれば」


「お、いいね。じゃあ俺もそれにしよう」


 二人は並んで列に並び、クリームパスタとパン、スープを受け取って窓際のテーブルに着いた。外には演習場が見えるが、今は無人だった。

 リオはフォークを回しながら、隣の二ヴェルを見た。


「なあ、改めてだけど。今日の連携、悪くなかったよな」


「……うん」


「もしかして、ちょっとは俺のこと見直した?」


 彼女はフォークを止め、こちらをじっと見てから一言。


「……うるさい」


「またそれだよ……いや、でも返事してくれるようになっただけ、成長ってことで」


 二ヴェルは口元をほんのわずかに動かした。リオにはそれが、笑いのようにも見えた。


「なぁ、ニヴェルはさ。あの機体、どう思う?」


「……反応速度が高い。情報伝達も早い。操作系も洗練されてる。戦闘において……最上級」


「やっぱそう思う? 俺もさ、戦ってる最中、なんか身体の一部になった気がしたんだよね」


 二人の間にしばし静寂が流れる。だが、その沈黙は気まずさではなく、心地よいものだった。

 こんなふうに人と食事をするのは、いつ以来だろう。リオはふとそんなことを考えた。

 以前は戦友と飯を食っても、すぐに解散、あとは孤独な時間が流れるだけだった。  けれど今、目の前にいる彼女との時間は、なんとなく、日常に色を加えていた。


 ――そこへ、端末が震えた。


 リオが確認すると、司令部からの呼び出しだった。


「おっと、飯の後かと思ってたのに……」


「……行く」


 二ヴェルはトレイを下げ、無言で立ち上がる。リオも慌てて後を追った。

 司令室に通されると、そこには冷ややかな空気が漂っていた。司令官の男は無言で二人を見つめ、やがて重々しい口調で切り出した。


「よく戻ったな。初戦の成果は報告で受け取っている」


「ありがとうございます」


「……だが、それ以上に重要なのは――次だ」


 司令官はモニターに映し出された映像を指した。荒野、そして見覚えのない機体。


「これは?」


「次にお前たちが対峙するべき敵だ。先の交戦記録から、敵側にも新型が投入されている可能性が高い」


 画面に映る機体は、重厚で、異様な形状をしていた。


「敵の正体は未確認。だが……貴様らの機体――ヴァリアント・ネイヴに、対抗策として投入された可能性がある」


 リオと二ヴェルが顔を見合わせる。軽い緊張が、背筋に伝っていく。


「準備を整えておけ。次は、ただの試験戦闘では済まない」


 司令官はそう告げ、視線を外した。

 部屋を出た二人の間に、また沈黙が落ちる。


「……やっぱり、楽はさせてもらえないか」


「うん」


「けど、俺たちなら……いけるよな?」


 二ヴェルは一瞬迷うように目を伏せたが、やがて小さく頷いた。


「……うん」


 その言葉だけで、リオは胸の中の不安が少し和らぐのを感じた。


「じゃあ、次も……よろしく頼むよ、相棒」


 二ヴェルはリオを一瞥し、小さく呟いた。


「……うるさい」


 だけどその口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。


今回は戦闘描写無しです。

物語のを書くのは難しいものですね。

特に心理描写がね…伝わってるといいなぁ。

明日第4話投稿できるはず。

応援よろしくお願いします。

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