8話:全員集合
「南波は一回痛い目見た方がいいと思うな」
「俺もそう思う」
イケメンNo.1とNo.3がNo.2を責めております。いいぞ!!もっとやれ!!
途中で休憩スペースに寄ってみんなでブレイクタイムだ。つっても、まだ10時半。始業して間もない。特に煮詰まってもない時間帯だけどね。
「へー!でもさ!そう言うのって事前に話すり合わせたりするんでしょ?婚約者役ならさ!」
「・・・萬屋さん嫌なら断っても良かったんじゃない?」
え・・・?山崎さんもしかして嫉妬して?!
「いやぁ、経理部長の頼みを断れる人いないでしょー、断ったら帰り道で使いの人に刺されそうだもんね」
「うちの部長なんだと思ってんのさ」
「そう言う人ーー、色気だけは本当にすごいよね!流石の俺も敵わないわーあれは年齢重ねないと出ないねー」
カコンッと飲み終わったコーヒーの空き缶を南波さんが優しくゴミ箱へ捨てた。
「じゃあ、詳細はまた熊田さんを通して連絡します。割と部長の個人的な問題に突き合わせてる感じがあるけど、一応先方に本当に臍曲げられてシステム使えなくなったら経理部かなりキツから・・・責任とか感じなくて良いから協力だけしてください」
「あ。はい。お役に立てるかはわからないですけど・・・私で良ければ」
見た目の破壊力では十分な威力を持っていると自覚はしているが、婚約者役をうまくこなせるかが難しい所。ほら、ハイエナ化した女の相手って大変そうじゃん。《いつ出会ったのか、キッカケはなんだったのか、どっちからアプローチしたのか》とかそういうの聞いてくるんでしょ?だからさっき話にも上がったけど事前に話詰めねぇと絶対こっちが詰められるわけだわ。
ぐぬぬ・・・こりゃ仕事より大変じゃねぇかすっとこどっこいって思ってたら美井さんが私の近くに寄ってきた。山崎さんと南波さんが先を歩いているから後ろの私たちは見えない。
「会食が終わったら、個別で俺からお礼させてね?」
「え?」
美井さんが耳元でコソっと私に言った。っつ!コラっ!可愛イケメン!テメェっ?!顔近ぁっ?!
「あーー!!拓也!!今度こそ本当に美井が聖子ちゃん口説いて」
「はいはい、司の言う事はもう信じません」
「あーー!!嘘じゃないってばーー!!??ほら後ろ見てって!!」
No.3、恐るべし破壊力っ!!!
・・・ーーー
「え?今日これからですか?」
「そうなの!事情は全部聞いたわっ!ごめんね?この頼みは勤務時間には入れられないんだけど・・・でも全部経理部長の奢りだからなんとかならないかしら〜?」
私と熊田さんのこの会話に周囲の女性社員の視線が一点に集中した。あれだ、《経理部長》に反応したっぽい。なんだよ、お前ら山崎さんの名前だけに反応するんじゃないんだな。誰でも良いのかよ!!
《全部経理部長の奢り》って所で仕事終わりのプライベートで出かけると察したらしい。仕事でもそれだけ察しよく働けってんだよ!!お前ら目が鋭すぎるんだよ、事務仕事じゃなくて刃物そのものに転職しろってくらい鋭いぞ。
「もちろん!そう言う緻密な計画が必要な仕事には、アドバイザーとして私も同行するからね!あの人と二人なんて息詰まっちゃうでしょ!」
熊田さんも同行?!これは熊田さんとタダ飯喰らいができるのかっ?!
「・・・美味しいお店が良いですっ!」
「決まりね〜!」
経理部長と私が二人きりではない、しかも熊田さんも一緒だと言うことに刃物たちは己に鞘をかぶせて大人しくなった。
「萬屋さんっ!よろしくお願いします!」
「今日の今日からで早速悪いな。経理部の今後が掛かってんだ」
会社のエントランスで待ち合わせをしたのだが、まさかの美井さんもいた!!まずい!!経理部長と美井さんがセットで今熊田さんはトイレに行っていて私だけ先に来てしまった!!定時だぞ?!経理部定時で帰れるんか・・?!あっ!だからそれを可能にしてるのがこの部長とそのシステムって事か!敏腕すげぇなぁ。
違う、違う、それも大事だけど気にするのはそれじゃない。熊田さんがいない今この二人と並ぶと・・・!!
「はぁ?なにあの光景?意味わかんないんですけど?」
「この間、山崎くんから美井くんに乗り換えたって話あれマジだったわけ?」
「なんで経理部長までいるの?まさか本当目的は経理部長?!」
「あれじゃない?!結婚報告を部長に報告とか?!」
「はぁ?!まじあの女調子乗ってんだけど?!」
熊 田 さ ん 早 く ! ! !
やばい、イライラが止まらないよ!なにこれちょっと会っただけでこんなに言われんの?!つか妄想がひどいにも程があるだろうが!その妄想や想像は新商品開発に活かせないもんかね?!
「・・・歩いただけでこれだけ人から羨ましがられるのか。こりゃ効果抜群だな」
経理部長が驚いている。ちょっと違う方向にだけど。
「ごめぇーーん!お待たせしましたー!」
熊田さんが可愛く転がるようにしてきてくれました。癒し。
ーーカコンッ
ししおどしが聞こえる料亭。美味しいものを食べたいとは言ったけど!羽振り良すぎないか?!
「さて!あの電話もらってから今日の仕事を全部リスケしてシナリオを書いてきたの!!部長の麻田くんと萬屋さんの履歴書を見させてもらったわぁ〜!あ、これは私の特権ね!出会いから二人の勤務時間体形を見て色んなイベントも書いてきたの!これなら完璧よぉー!」
そう言って熊田さんが出してきた紙資料は5mmと分厚く、私と部長の出会いから馴れ初めが書かれた連ドラ脚本家も顔負けのすごく自然だがドラマチックで、自分が経理部長にアタックしている側だったら『あぁ、これは自分が入り込む隙間がないな』と思わせる見事なものだった。
「お待たせいたしました。前菜で御座います。山菜の煮凝りと、トリュフソースの茶碗蒸しで御座います」
その日、とっても美味しいご飯を食べながら、どの仕事よりも仕事なめちゃくちゃに緻密な偽装婚約プログラムを頭に叩き込んだ。




