3話:ゴリラの好敵手
「他部署との交流会で、飲み会に参加してもらいたいのよ〜?だめかしら?」
皆さんご機嫌麗しゅう、私、萬屋 聖子と申します。現在、テディベア上司の熊田さんから言われた飲み会を断るところです。
「はい!だめです!行きません!」
「でも、萬屋さんが来ないと他部署の男性社員の参加率が下がるから出て欲しいって言われてるのよ〜!これ聞いてもだめ?」
「はい!だめです!」
「山崎くんいるわよっ?!」
「・・・っだめです!」
「今一瞬悩んだわね?!山崎くんよ!彼もいるの!!」
ダメよ聖子。山崎さんと大勢の飲み会の場を共にしたって毛ほどもプラスなんかねぇっつーんだよ!!そもそも山崎さんの部署ってことはこの間のNo.2もいるんじゃねぇか!!飲み会で山崎さんの前で私の悪いところ(そんなものないけど)を露呈させようとか思ってる他の女性社員とNo.2の双方の良い餌食になるだけ!!No.2が私で遊ぼうとしてる気がする今!そう易々と飲み会なんて地獄に自ら向いてたまるかってんだよ!!
「新入社員に参加してもらってはいかがでしょうか?まだ入って浅いですから、他部署の方の顔を覚えるべきだと思いますよ?」
「そうかしら〜?うーん、夕方まで考えて頂戴っ!じゃぁ私会議行ってくるわねっ!」
自分が行きたくない+新人も自分の会社の中くらいちゃんと渡り歩けるようにならないとこっちの仕事がいつまで経っても減らねぇんだよさっさと顔覚えてこいや。という意味も込めて僭越ながらも提案させてもらいました。あぁ、でも山崎さんのところに行くのは私の仕事であり義務であり使命なのでそれだけは私が全う致しますが新人はさっさと山崎さん以外の方の顔と名前をちゃんと覚えてください。
「あんだけよいしょされてまだ行かないんかね、まだ誉められ足りないんでしょうかね?自称カワイイ子ちゃんは」
「キャハハっ!!聞こえるって!!」
「熊田さんも言い過ぎだって、あいつ一人だけで男性の出席率がそんなに下がってたまるかよ」
「アイツいた方がウチらのテンション下がってその場の空気余計悪くなるデショ」
・・・聞こえてんだよ御心のブスどもが!!!!!
こいつら同性の文句言う事を仕事と勘違いしてんじゃなかろうか?口より手を動かせってんだよ、オメェたちが毎月月末に打ち込み終わらないで定時に帰った後、その尻拭いを熊田さんが毎回やっててそれをスルーできない私も手伝ってんだよ!!今月のお前らの給料1割を熊田さんに入れるぞこのバカどもが。
今でもこの状況に腹を立てないわけではない。しかし、この会社に入った当初に比べたらまだ心のコントロールがなんとかなっている方だ。これでもだ。言っておく、私は思ったことを否定しない。口に出すかどうかは流石に考えるが、どれほど汚い醜い感情だろうが、思ったことは事実だ。絶対にそれを
『こんなこと思っちゃいけない!』とか『そう言う考えすると心が汚れる!』『こう言う思考の女なんか相手にしてもらえなくなっちゃう!』なんて毛ほども思いません。
聞こえてんだよバーカと訴えるように、しっかりと文句を言ってた女性陣の目を順番に見てやった。相手も相手でちょっとバツが悪そうにしながらも、ふんっ!とそっぽを向くようにする奴やニヤニヤする奴などそれぞれ。えぇ、御好きにしたらいいわ。交流会と言う名の社内合コンみたいなもんでしょうどうせ。私は行かないからあなたたちどうぞ社内規定もないのに好きで勝手に良いと思ってるその仕事が命みたいな服装で出席すれば良いだろうがぁっ!!!
そう思い、私は今日もお気に入りのスカートの裾をふわりと翻して遠くの自分の席に戻った。現在13時19分。御昼休みは外のカフェにおしゃれなパスタを食べに行った。あと半分。猛スピードで仕事を片付けて一分たりとも残業してやるもんか。
デスクに着いたら可愛いケースと可愛いストラップが付いた、いちいち可愛い私の携帯電話の画面を点けた。アプリでメッセージを飛ばす。メッセージは・・・
【18:00 いつもの居酒屋集合。今日バカみたいに飲むからな。絶対遅んなよな】
・・・ーーー
「っかぁあああーーー!!!マジ仕事終わりの一杯最高!!!」
ッダン!!とアニメの様に飲み終わったグラスを勢いよく机に置いた。
「・・・聖子さぁ・・・。普通そこはビールじゃね?流石に?」
「芋の水割りだって良いだろうがよ?!」
「芋焼酎とかは落ち着いてちびちび飲むのがうまいんだろうが。一気したいならビールとかサワーで良いだろうがよ」
「じゃぁ次芋のソーダ割ー」
目の前で飲むこの女は私の好敵手。そう、ライバルである。前の会社の同僚だ。この女と前に大層喧嘩をした。喧嘩をしたというか・・・一方的に私が絡んだというか。そう、つまり、今日の会社の女みたいな事を私もコイツにやってたのである。ちょっと違うけど、でも似てる。
簡単に言うと、可愛くなりたかった私は、学生時代からゴリラ扱いをされて中々本来の希望・・・つまり今の私のようなキラキラふわふわで可愛いものを纏うことができなかったときに目の前のこの女にいわば八つ当たりをしていたのだ。
私はずっとゴリラ扱い。会社に入ってもゴリラ扱い。ゴリラがダメって言ってるんじゃないの。私はリスとかハムスターとかモルモットとかトイプードルみたいな感じに扱って欲しかった。でも、なれなかった。なれなかったんじゃない、自分からなる事を諦めて捨てたんだ。捨てざるを得ない状況だと感じたからだ。
「だって、誰かがやらなくちゃいけないんだから仕方なく私が引き受けた結果のゴリラなんだよ!!」
「また昔話〜?飽きたー、せめて今日の新鮮な愚痴にしてよ、また昔のアンタみたいな女に文句言われたんでしょ?こんなに口が悪い女って知らないで文句言ってて・・・あとが怖いわー」
「バレるかよ、今日だってこうやって遠い店でわざわざ個室にしてんだから。ちゃんとその辺は完璧だから!!」
・・・ーーー
「拓也ー、お前今日会社の飲み会蹴ってよかったのか?なんか可愛い子がいる部署との飲み会だったんだろ?」
「あぁ、大丈夫。御目当ての子は参加しないみたいだったから」
「へー、お前がそれだけ言うってすんげぇ可愛いんだろうな。あ!そうそう!隣の子の会話超激しいけどさ!さっき部屋入る時顔見たら二人ともめちゃくちゃ顔可愛いんだよ!!」
「別に顔だけが気になってるわけじゃないよ。可愛さの中にちゃんとなんか・・・こう、意志が強いっていうか芯がちゃんとしてる感じがして。しっかり者って感じが滲み出てるからさ・・・言葉遣いはこんなに激しくないけど、でも隣の人みたいな感じ。良い悪いじゃなくて、自分を持ってるっていう」
「・・・拓也の趣味ってそういう感じだったっけ?」