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キラふわO Lの萬屋さんは心の口が悪い  作者: 杉崎 朱


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11/11

11話:鷲掴み

 

 こんばんは、私は萬屋 聖子。華の24歳O Lは、只今会食が終わり店の前で挨拶の儀を行っております。


「いやぁ〜!麻田さんとこの会社のおかげで、うちの社員のスキルが上がったんで本当に感謝してるんですよ〜!発想力も良くなったし応用力もね!これは双方にとってとてもいい関係だ!これからもよろしく頼むよ!そしてお幸せにねぇ!こんな綺麗な奥さんもらったら浮気なんてしないね!むしろ奥さんが他の男に攫われちゃうんじゃないかって気が気でないね!そりゃぁ勤務時間ちゃんと納めたいってシステムの改良にも躍起になりますなぁ!!ははは!!」


 おい、大福オヤジその辺にしろ、隣のお前んとこの顔色見てみろ。顔色だけで私を地獄に突き落としそうだぞ。

 熊田さんの完璧なシナリオのおかげで、先方の社長の質問にもすらすら答えられた。そして、自然すぎる回答に女性は心を折られたらしい。


「では、今日はこの辺で・・・あ、こちら細やかですがどうぞ受け取って下さい」

 美井さんが先方に渡した。目の前の女性は心ここにあらず状態だ。相当ショックだったんだなぁ・・・でも恨むなら麻田部長を恨んでください。っていうか、私だって山崎さんと全然喋れてないんだから嫌な思いしてるのお前だけじゃないんだからなぁっ?!


 【呼んだタクシーに先方をぶち込んで発車させるまでが接待です】


 と、いう事でこのやりとりをしている間にも待たせているタクシー。ごめんね運転手さん。こういうの日常茶飯事で慣れてるだろうけどすみません。では、この目で人をヤれそうな女を何卒よろしくお願いいたします。と、まずは大福社長をタクシーに梱包し、続いて例の女性だ。


「本日はありがとうございました。麻田さん、また連絡しますね」

 意気消沈してるかと思いきやそんな言葉を言ってきた。いや、別に仕事だからまた連絡するのは百も承知だけどこの私に対して挑戦的な言い方が腹たつんだよ、含みがあるっつーか。

「私のこともぜひCCに入れて下さい!仲間はずれは寂しいですよ」

 でた!美井さんの必殺可愛イケメン攻撃!高身長なのにこの可愛らしいフェイスのおかげがぜんぜんイヤミに感じない所が逆にイヤミに感じるってなんかもうイヤミがゲシュタルト崩壊してるんだけど。


「もう!歳上をからかわないで頂戴!」

 言いながら超嬉しそうじゃねぇか。そんな最中、麻田部長が運転手に発車してと合図をしていた。相変わらず仕事出来るな。よし、最後はあの女の顔色を窺ってずっと青ざめてたもう一人の男性だ。美井さんがタクシーへ促したら乗車しないでこちらを振り返った。いや、待たせてんだから早く乗れって。



「あの・・・麻田さん本当にご結婚されるんですか?」

 


 疑われてる?



「はい、しますが・・・何かありましたか?」

 麻田部長が平然と嘘をつく。そして少その話題に触れるな的な圧もかけてる。怖いってイケオジ。

「・・・いえ、伊東さん、今日麻田さんとどうにかなるつもりだったんだと思うんです」

 伊東さん?誰?あ、さっきの女性か。


「っあ!・・・僕が言っちゃうのは良くないと思うんですけど。服もいつもと全然違うし、すごくオシャレしてたし・・・何より今日ここに来るまで楽しそうだったし・・・。今日、勝負するつもりだったんだとも思うんです・・!」


 ん?


「そうか。そんな予感がした」

「だったら!」

 そこで麻田部長が私の肩に手を乗せた。

「だからこそ、俺には婚約者がいる。どれだけアプローチされようが、伊東さんの事を見ることは無い。だからこそ、勝負に出る前に、彼女が傷つく前に俺の状況を知ってもらおうと思ったんだ」

「・・・そうでしたか。そうですよね。それだけ綺麗な方だったら、さすがの伊東さんも・・・」

 なんかムカついた。



「綺麗とかそういうの関係ないじゃ無いですか」

「・・・お前どうした?」

「萬屋さん?」

 目の前の先方の男性に腹が立った。


「さすがの伊東さんもって、なんですか?どういう意味ですか?」

「えっ・・・いやぁ、伊東さんはうちの会社では人気なんです。でも、その伊東さんでも流石に貴方には」

「すみません、綺麗とか関係ないんですよ。じゃあブスは一生結婚できないんですか?なら人類はもうとっくに終わってるんです。綺麗とか可愛いとかは人によって違うから結局顔じゃないんですよ。あと、貴方は伊東さんの事が好きなんですよね?」

「でぇえっ??!いやっ!あのっ?!僕はっ?!?!」

 信じられない程動揺してる。ちょっとウケる。だって服装が違うとか楽しみにしてたとかそれがわかるくらいには見てるって事だろ?


「・・・お前、そうだったのか・・」

「えっ!!じゃあ伊東さんが麻田さんにずっと気があるのを知ってて・・・」

「なんか言いたい事色々ありますけど、とりあえず自分が好きになった人に対して『さすがの伊東さんも』とか言わないでください。貴方は伊東さんが好きなんですよね?なんで好きな女性のことを一番って思えないんですか?それ、本当に好きなんですか?顔だけですか?」

「違います!僕は・・・!伊東さんが周囲からとやかく言われてても僕は伊東さんの味方をします!もちろん、伊東さんが悪いと思われる時だってあります!でも!彼女なりに頑張ってやってる姿が僕はすごく好きで・・!」

「じゃぁ、好きな人の事をちょっとでも悪くいうのはやめて下さい」

「・・・そうですよね・・・でも、俺なんか見た目も中身も麻田さんの足元にも及ばなくて・・・」

「麻田さん(見たいな色気ダダ漏れ製造機)は世界で一人でいいんです。ジェネリック麻田さんも不要です。貴方は貴方です。伊東さんは失恋で傷心中ですから、今がチャンスですよ」

「そんな人の心が弱っている時を付け狙うなんて・・!」

「違います。今日この場にいた貴方だけが知っていて、彼女が心を痛めている事を知ることが出来たたった一人選ばれた人間なんです。特権なんです。貴方以外に誰がこの状況をわかるのですか?話されたってあの時と同じ光景が目に浮かんだりあの空気を感じられることは無いんです」

「・・・なんか、励まして頂いて・・・ありがとうございます・・・」

 ちょっと泣きそうな顔をし男性。あれ言いすぎちゃったかな。でもなんか吹っ切れた感じもしてる。


「・・・お綺麗なだけじゃ無いんですね。麻田さんが入れ込むのも理解できます」

 ちょおコラ待て、入れ込むは過剰表現だろう。



 かなりタクシーを待たせた後、彼も帰っていった。


 ・・・ヤベェ、酔っ払っても無いのにちょっとイラッとしたから言っちゃったよ。これ麻田部長に怒られるかも、横向けないんだけど。


「お前・・・」


 麻田部長が私の後頭部を掌でガシッと鷲掴みした。


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