好き
朝5時、たいようの匂いと僅かな草の匂いだけが私に夏を教えてくれる。私の散歩は簡単じゃない。ぶつかる、轢かれる、転ぶ、他の人に迷惑はかけたくないから時間を早めて、外だけと触れ合うのだ。スズメの声と白杖だけが鳴り響くこの時間が堪らなく好き。
「れーいか!」
「ん〜?その声は凛ちゃん?」
「正解!おはよう〜、零花この時間ってことは2限?」
「おはよう〜、そうだよ!凛ちゃんも2限?」
「凛1限だったんだよねぇ、」
「そっか〜、」
「残念だよ〜〜零花と授業受けたかったよ〜〜」
「私も受けたかった〜!あ、そろそろだから、もう行くね」
「またね〜、」
いつもの席、一番うしろの一番端は誰の邪魔にもならないから好き。
「あの、」
「!?は、はい!?」
「あ、びっくりさせてすみません。隣いいですか?」
「え、あ、だ、大丈夫ですよ、」
びっっっっくりした…。男の人かな?落ち着く声だな〜。
「では、これで講義を終わります。」
ピリリリリリリ、ピリリリリリリ
「もしもし、」
『もしもし〜?零花?』
「凛ちゃん!どうしたの?」
『講義終わったしょ?これからお昼食べに行かない?』
「え!行きた〜い!」
『じゃあ大学の外で待ってるね!』
「はーい!」
「れいかー!」
「凛ちゃん!待っててくれてありがと〜」
「良いってことよ……あれ?晴也?」
「晴也…?」
「凛だ。久しぶり。」
「久しぶり…あんたなんで零花の後付けてんの…?」
「ち、ちが、」
「そう言うと怪しいよ…、」
「?、??」
「あ、ごめんね零花。三谷晴也って言って私の昔からの友達。」
「あ、はじめまして…?ていうか、さっきの人ですよね」
「さっきの…?二人、知り合いなの?」
「知り合いっていうか…、さっきの講義で隣に…」
「…晴也〜わざとでしょ〜、」
「なんだよ、いいだろ」
「どういうこと?」
「えーっとねぇ…」
「これから飯なんでしょ、俺そろそろバイトだからどっか行って話せば?」
「ん、そーだね、」
「で、どういうことなの?」
「うーんとね、あいつのお姉さんが零花と一緒で盲目なの。」
「そうなの!?」
「それであいつ、同じような状況の人がいると過保護…っていうか、すぐ助けたり傍にいようとするの。その癖口数少ないから怖がられたりもするし、声かけるのも突然っていうか…」
「なるほど…たしかにそうかも…」
「まあ、悪いやつじゃないよ!」
「どんな人?」
「お姉さんのことは関係なく昔からおせっかいなんだよね〜。」
「そうなんだ…」
凛ちゃんはおせっかいって言ってたけど私は優しいと思った。
夜は見たことのない星と、見たことのない月が浮かんでてて私の知らない綺麗が溢れてる。
「あ、さっきの、」
「…?晴也君?」
「そうです、」
「なんで駅に?」
「最寄りなんで…」
「へぇ〜、一緒なんだ…」
「えと…」
「曽根零花です。」
「曽根さん…」
「零花でいいですよ」
「じゃあ俺も晴也でいいです。」
「…晴也って何歳?」
「20」
「え、1個上…ですね。」
「急に敬語、いいよ、タメで」
「…じゃあ名前だけ君つける。」
「仕方ないな、」
「来たよ、電車」
「あ、」
まって、もしかして今、帰宅ラッシュ…?
ドンッ
「あ、すみません、あっ、」
やばい…転ぶ…
「大丈夫?」
「!あ、ありがとう…………」
見えない、見えないけど、絶対に今、近い。
「大丈夫。俺にしか当たってないよ」
「よかった、」
「いつも電車?」
「う、うん。けど、いつもは帰宅ラッシュに被ってない…今日時間ズレたからかな…」
「…そう。」
「次は〜〇〇駅、〇〇駅〜。」
「あ、私ここで、降りる」
「え、俺も。」
「あれ。そうなの?」
「うん。あ、降りる人結構多そう、行くぞ」
え、待って待って待って?手…繋いでる…?これ、晴也君?違ったらまずいよね…?
「零花、手繋いでるから、今。」
「!ありがと、」
これはお姉さんがいるから、ただ見えないから、だけど。嬉しいな…
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、晴也君大丈夫だった?」
「まあ俺は、それより、送る」
「え、いや、いいよ!?」
「…まあ家知られんのも怖いか、」
「あ、そういうわけじゃないけど…あ、LINEやってる?」
「やってる」
「交換しよう!」
「いいけど、」
「…よし!」
「じゃあ帰るか」
「待って、白杖出す。」
「ん、」
「晴也君って、落ち着く声してるよね」
「え?言われたことない。」
「うそ!話しやすい声してるよ?」
「自分じゃ、わかんないものだな。」
「たしかに、そうだね、」
「さっきの講義…隣、座った理由聞きたい。凛ちゃんは困ってる人を見捨てられないおせっかいって言ってたの。けどね、私困ってなかったよ?」
「…前の人、めっちゃ零花のこと見てて、ちょっと雰囲気危なかったから、」
「え!?そうだったの…?怖いね、…」
「あと、」
「うん?」
「…単純に可愛かったから」
「…え、えええ!?初めてだよ、言われたの…」
「そうか?」
「そうだよ!!?」
晴也君、みんなに言ってるのかな…実はめちゃくちゃチャラいんじゃ…?
「あ、私の家ここだ」
「結局通り道だったな、」
「ほんとだね!またね。晴也君、」
「また、気をつけて。」
「そっちもねー!」
ふぅ…
「疲れた〜、ご飯ご飯…」
…………晴也君、明日も会えるかな…
「LINE、してみようかな。」
『晴也君、明日何限?』←(零花はキーボードで打ってるよ!)
『1限。なんかあった?』←(音声で読み上げてくれるよ!)
返信早…!
『そうなんだ!私も1限なんだよね。一緒に行かない?』
『まって、』
?
ピリリリリリリ、ピリリリリリリ
「え、え!?」
『もしもし?』
「もしもし…どうしたの…?」
『いや、打つの大変かなって、』
「!ありがとう…。えっと…」
『一緒に行ける。7:20に〇〇駅でいい?』
「大丈夫…、じゃあまた明日ね」
「また明日」
晴也君、ほんとに優しいな…。
朝の匂い、いつもと変わらない匂いだけど、いつもより甘い匂いがする。