もふもふした朝に見た夢の続き~奇跡の起きないクリスマスのなんてことないもふもふなお話~
私たちが住む場所とよく似ていて、でも少しだけ違う世界の日本にある岩巻という港町。そこに町の人々に愛される、はとのやというスーパーマーケットがありました。
「えっほ、えっほ」
「ちー」
そこにはもふもふ君という名前のとてももふもふした働き者の店員さんがいました。見た目は巨大なハムスターかモルモットの様ですが、彼が一体何者なのかは誰にもわかりません。
町はもうすぐクリスマス。はとのやも特別な日のために特別な商品を用意し、大きなサンタの帽子を被ったもふもふ君も棚の一番高いところにある商品を補充しました。心なしか相棒のネズミ君もいつも以上に張り切っています。
「ちー」
「ありがとねー」
同じく普通のネズミと比べるととても大きいネズミ君も、せわしなく足元を動き回り商品が入ったダンボールを運びます。やっぱり彼もまた何者なのかは誰にもわかりませんでしたが、二人はとても働き者なので最初は不思議に思っていたお店の人もお客さんもあまり気にしなくなりました。
「いやあ、相変わらず早いね。もう終わったんだ」
「あざっす」
「ちー」
店長さんは頼んだ仕事をすぐに終わらせたもふもふ君たちを労います。彼らも褒められてちょっぴり嬉しそうでした。
「毎年この時期はクリスマスに年末年始とイベントが盛りだくさんだから大変だけど、敏腕パートタイマーのもふもふ君たちのおかげで大助かりだよ。当日もたくさんのお客さんが来るだろうからよろしく頼むよ!」
「うん、とくべつなひのたべものにこのおみせのたべものをえらんでくれるからね。ぼくたちにとってもとくべつなんだ。いつもよりもがんばるよー」
「ちー」
たくさんの人がお店で買ったご馳走を食べ、お店の食材で温かな料理を作る。その光景を思い浮かべたもふもふ君はとても幸せそうな笑みを浮かべます。
大変ではありますがそれ以上にやりがいがあります。家に帰ってもサンタさんが来る事はありませんし、プレゼントを交換する人もいませんが、彼はクリスマスが終われば自分たちへのご褒美に大好物のチーズケーキを食べようと考えていました。
「最初はこんなもふもふした人に仕事が出来るのかなあ、って思っていたけど今じゃはとのや岩巻店のエースかあ。やっぱり僕の目に狂いはなかったよ。うん、すぐに働き者だってわかったし、本当にね……」
もふもふ君たちを褒めていた店長さんは彼らがお店で働き始めた日々を思い出し、切なそうな顔になりました。
それは子供が風邪をひき、パートさんが面倒をみるため休んでしまった日の事でした。
『ごめんね、もふもふ君! 今日残業出来るかな?』
『いいよー』
『ちー』
店長さんがそう言うともふもふ君は二つ返事で快諾し、タイムカードをピッと押してから残業を始めました。
『あれ? 何でタイムカード押したの?』
『んー? ざんぎょうするときってタイムカードおしてからじゃないとだめなんだよね?』
『……………』
そしてまた別の日の事です。
『ごめん、また休みの人が出ちゃって! 休日だけど出れるかな? 連勤になっちゃうけど……』
『いいよー。よんじゅうはちれんきんまでならへいきだよ。まえのしょくばはそれをこえてろうどうきじゅんかんとくしょにおこられちゃったけど』
『……………』
そしてまた別の日の事です。
はとのやで働いて初めて振り込まれた給料の明細を見たもふもふ君は、その金額の多さにホクホクした笑顔になりました。
『わあ、こんなにたくさんもらえるんだー』
『ふふ、はとのやで働いて初めての給料だね。頑張ってくれたから色を付けておいたよ』
『うれしいなー、まえのしょくばはらいげつまでまってっていわれてせつやくしながらせいかつしてたんだけど、つぎのきゅうりょうびのまえくらいにかいしゃにいったらみんないなくなっちゃって。ちょきんがもうほとんどなかったからうれしいよー』
『……………』
そしてまた別の日の事です。
ある時どうして働くのかという話になり、パートの人たちがそれぞれの理由を楽しく話していると、もふもふ君はとてもきれいな瞳でこう答えました。
『ぼくにとってはたらくことはしあわせなことだからだよ。ぼくはいきるためにはたらいているんじゃないよ。はたらくためにいきているんだ。ぼくははたらいているんじゃない、はたらかせてもらっているんだよ』
『もふもふ君! お願いだからもうここでずっと働いて!』
『ちゃんと最低賃金は払うから! 昇給してあげるから!』
『ありがとー?』
パートのおばちゃんや店長さんたちは泣きながらもふもふ君に抱き着きました。彼はどうして泣いているのかよくわかりませんでしたが、優しい気持ちは伝わったのでとりあえず喜びました。
「うん、本当にね、働き者だよもふもふ君は……」
「ありがとー。ぼくもこのおみせではたらけてしあわせだよー」
「ちー」
昔の事を思い出した店長さんは遠い目をしましたが、もふもふ君たちは相変わらずのほほんとした笑顔でした。
「それじゃあアサコちゃんのところにいってくるねー。しごとのイロハをおしえてくるよー」
「ああ、お願い。で、でも変な事は教えないでね? あくまでもこの職場のやり方だからね?」
「わかったー」
一仕事終えたもふもふ君はもう一つの大事な仕事へと向かいます。店長さんはもふもふ君の事を信頼していましたが、こればかりはとても心配でした。
もふもふ君はてちてちと歩き、レジに移動して新人のアサコちゃんの指導へと向かいます。
高校生のアサコちゃんは慣れない事ばかりで戸惑いながら、おぼつかない手つきでバーコードを読み取ります。
「はい、おちついてねー」
「ちー」
「は、はい」
多少時間はかかっているようですが研修中というネームプレートと、そしてもふもふ君たちの笑顔でお客さんはイライラするどころかとても微笑ましそうな顔になりました。
ただ、アサコちゃんはしきりにもふもふ君をチラチラと見ていました。もふもふ君はわからない事があって助けを求めているのかな、とも思いましたが、特に何も言われなかったので見守る事にしました。
ですが休憩時間になり、スタッフルームに移動したアサコちゃんは堪え切れずにもふもふ君に詰め寄りました。
「あの、今更だけどいい?」
「どしたのー? レジうちでわからないことあった?」
「ちー?」
「なんでこんなもふもふしたのが働いているの!? なんで皆さんもお客さんもそれを受け入れてるんですか!? 店長さんもなんでこんな人を雇おうと思ったんですか!?」
「なんでって言われてもなあ。もふもふ君はもふもふ君だし」
「もふもふだからねぇ」
「ぼくのもふもふはもとからだからしかたがないよー」
「ちー」
皆はすっかり慣れてもふもふ君がいる日常を当たり前の光景だと思うようになりましたが、アサコちゃんはまだこの状況が受け入れられない様でした。
「っていうか本当に今更だけどあなたは何者なの? そもそも人間なの?」
どこか怒った様子のアサコちゃんはとても簡単でとても難しい質問をしました。もふもふ君は首を傾げ、んー、と悩んでこう答えます。
「ぼくはなにものなのかな。ぼくにもわかんないや」
もふもふ君はもふもふしているので人と違う生き物であるという事はなんとなくわかっていましたが、彼自身も自分が何者なのかよくわかっていませんでした。
「まあいいや。それよりもふもふ君、新しい総菜を開発しようと思うんだけど、ちょっと皆で話し合いたいから今度アイデアを用意してくれるかい?」
「いいよー」
「ちー」
「えー……なんなの、もう」
マイペースな二人に全く相手にされなかったアサコちゃんは脱力してしまいます。自分もこのヘンテコな状況に慣れるしかないのだろうと、結局すっかり諦めてしまいました。
お仕事が終わり、新しい総菜のアイデアを出すという宿題を出されたもふもふ君はうんうんとうなりながらおうちへと帰っていきます。
「あたらしいそうざいかあ。どんなものがいいかなあ。チーズはつかうとして、うーん」
「ちー」
ネズミ君も一緒に考えますがこれといったアイデアは出てきません。ただ大好きなチーズを使う事はもう決まっている様です。
「じー」
「んー?」
しかしその時背後からふと視線を感じ、もふもふ君は後ろを振り向いてしまいます。けれどそこには誰もおらず、もふもふ君は何だったんだろうと思いながらも歩き続けました。
空は赤く染まり、ゆったりと流れる河川敷では緑色のペンギンの様な生き物が浮かんでいます。半魚人はあくびをしながらのんびり釣竿を垂らし、キノコの様な小さな生き物が子供たちと車のとんてんかんをして遊んでいました。バイクに乗った走り屋たちは今日もおまわりさんに怒られています。
いつも通りの平和な岩巻の光景です。なのでもふもふした人とちょっと大きなネズミが並んで歩いているくらいでは誰もどうとも思いません。
ただ海沿いのほうはずっと工事中でそれがちょっぴり寂しくはありました。きっと昔は素敵な景色が広がっていたんだろうなと、もふもふ君は見た事もない昔の町の姿に想いを馳せました。
そう、『あの日』の後に岩巻にやって来たもふもふ君は昔の岩巻を知らないはずでした。ですが朧気でしたが、なぜかその景色が想像出来てしまいました。
いつもの帰り道も何となくですが、ずっと前から知っていたような気もします。
その不思議な感覚はとても暖かくて、幸せで、もふもふしていました。
「ちゅるるー」
そんな事を考えながら歩いていると、橋の欄干の上でのんびりしている緑色のタコさんを発見しました。
もふもふ君は何の気なしにそのタコさんを見つめ、ある事を思いつきます。
「たこやきたべたいなあ。よーし、しんメニューはたこやきにしようか」
「ちゅるっ」
タコさんはそののほほんとした笑顔に何か恐ろしいものを感じ、慌てて川の中に逃げました。
「でもたこやきってどうやってつくるんだろう。まあなんとなくでいっか。たこやききはむかしふくびきでもらってしまいっぱなしのやつをつかえばいいよね。せっかくだからつくったものをみんなにもししょくしてもらおうかな」
「ちー」
もふもふ君は無事にアイデアをひねり出す事が出来て、満足げに帰り道を歩き続けました。これでもう今日はごはんを食べてお風呂に入って眠るだけです。
「じー」
「んー?」
「わっ!」
けれどまたしても視線を感じ、今度は素早く振り向くと少し後ろのほうで看板に隠れながら様子をうかがっているアサコちゃんを発見しました。彼女はとてもびっくりしていましたが、もふもふ君はなんだろうと思いアサコちゃんに近付きました。
「どうしたの、アサコちゃん。ぼくとおはなししたいの?」
「ちー?」
「え、えーと」
アサコちゃんはとてもおどおどしていましたが、しばらくして覚悟を決めた様な表情になり、怒った様にこう言いました。
「もふもふはなんで働いてるの? 理由もないのに」
「なんでって、そういうものだからかなあ」
「確かにあなたは仕事が出来るかもしれないけどそれはスーパーの中だけ。外に出ればただのもふもふなの。ずっと生きるために働いても死ぬだけなの。なんていうかその……すっごくムカつくの、能天気に笑いながら働いているあなたが」
「そうなのー?」
「……それじゃあね」
アサコちゃんは一方的にそう告げてズンズンと不機嫌そうに帰っていったので、もふもふ君は困ってしまいます。ネズミ君もちー、と寂しげに鳴いてしょんぼりとしてしまいました。
おうちに帰って売れ残ったスーパーの竜田揚げ弁当を食べながら、もふもふ君はアサコちゃんに言われた事をずっと考えていました。
「おいしいものがたべれて、たまにぜいたくをして、ネズミくんもいて、ぼくってべつにふこうじゃないよね」
「ちー」
「でもなんのためにいきているんだろう。なんのためにはたらいているんだろう。そんなことかんがえたこともないや。ぼくはなんのためにうまれたのかな。ぼくにはわかんないや」
自分は働くために生きている。けれどならどうして働いているのだろうと、もふもふ君はいくら悩んでもその答えを出す事が出来ませんでした。
ですが明日は新メニューを作らなければいけないので早起きしないといけません。もふもふ君は仕方がないのでお風呂に入って早めに眠る事にしました。
そしてもふもふ君は夢を見ました。
それは彼が何度も見てきた夢でした。
大きな建物の中にある真っ白な広い部屋で、自分と同じ顔をしたたくさんの子供が机の上にノートを広げて、神様の教えを聞くように無心で勉強しています。
起きて、勉強をして、眠って。
起きて、勉強をして、眠って。
まるでループ映像の様にずっと同じ事を繰り返していました。
ですがある時、その中の一人の女の子が外に飛び出して冒険に出かけました。
どうして冒険をしたいと思ったのかはわかりません。ただ、光り輝く海が見たいと――そう思ったのかもしれません。
道に迷った女の子は誰かに手を引かれ、導かれる様に海鹿劇場という不思議な建物に入ります。
そこにはたくさんの世界への扉がありました。
好奇心旺盛な女の子はそこからいろんな場所を冒険しました。煌びやかな大都会、白馬が駆け抜ける大草原、龍が泳ぐ秘境の山々、愉快な怪物がたくさんいる地底、果てしなく広がる銀河の世界。
それはとても、とても楽しくて幸せな記憶でした。
夢の世界は次第に霞になって消えていき、窓から差し込む朝の日差しと共にもふもふ君は目が覚めます。
今見た夢がとても幸せだった事は覚えていましたが、もうはっきりと思い出す事は出来ませんでした。
ただ一つだけ覚えている事は、自分が最初に訪れた建物の海鹿劇場という名前くらいでしょうか。
「ふわあ~、よいしょっと」
さあ、それよりも急いで皆に食べてもらうためにたこ焼きを作らなければいけません。布団の中はとても暖かくて気持ちよかったですが、すやすやと眠るネズミ君を起こさない様にもぞもぞと抜け出しました。
「へいおまちー」
「ちー」
もふもふ君はうろ覚えでしたが見よう見まねでたこ焼きを完成させ、はとのやに持っていきレンジで温めてから皆の前に出しました。
「あら、これって……あれよね」
「あれですね。チーズはかかってますけど」
「あれ? ぼくまちがえちゃった?」
けれどたこ焼きを出した時の反応は少し予想とは違ったもので、もふもふ君はもしかして失敗したのかと思って不安になりました。
よくよく見るとそのたこ焼きは油をあまり使っていないので白っぽく、だんごの様に串に刺さっていて普通のたこ焼きとはなんとなく違う気がしてきました。ただ、お店の人たちはどこか懐かしむかのようにそれを食べていました。
「いいや、間違えていないよ。うん、見た目もそうだけどまんま昔食べたものと同じだね。秘伝のソースとかどうやって再現したのさ」
「むかしって?」
「もう二十年くらい前に閉店しちゃったけど、岩巻にこの白いたこ焼きを売っているお店があってね。お母さんがお土産に買って帰ってきてくれたのをよく食べていたわ」
パートの女の人は想い出と一緒にたこ焼きを幸せそうに食べ、どこか泣きそうになりながら味わっていました。
「でもどうして最近この町に来たもふもふ君がこのたこ焼きを知っていたんだい?」
「さー。たこやきのつくりかたがわからなかったから、むかしたべたのをうろおぼえでおもいだしながらつくったんだけど」
「そっか、ならもふもふ君も昔岩巻でこの白いたこ焼きを食べた事があるのかもね」
「ぼくがいわまきに? うーん、そうなのかなあ」
店長さんはそう推測しましたが、もふもふ君はイマイチピンと来ていない様子でした。何故なら彼にはかつてこの町を訪れた記憶が全くなかったからです。
しばらく考え、彼はふと今朝も見た夢を思い出し、その話をする事にしました。
「じつはぼく、よくまちにいってぼうけんするゆめをみるんだ。えーと、たしかあしかげきじょう? っていうたてものにはいってなんかいろいろぼうけんするの。それとかんけいがあるのかなあ」
「えっ」
「海鹿劇場って、あの海鹿劇場? アサコちゃんの所の」
もふもふ君が朧気に覚えていた夢の中に出てくる建物の名前を伝えると、アサコちゃんはとても驚いてしまいました。
「あしかげきじょうって?」
「昔岩巻にそういう映画館があったんだ。今はもう閉館……というか津波で流されちゃったけど」
「そっかあ、ならぼくはそこにいったことがあるのかな。そこにいけばむかしのこともおもいだせるのかな。ぼくがなにものなのかもわかるのかな」
どうやら夢の中に出てきた海鹿劇場は実在したらしく、もふもふ君はとてもワクワクしました。
そうと決まれば今日仕事が終わった後に行くしかありません。そこに行けば自分の昔の想い出に触れる事が出来るかもしれません。彼ははやる気持ちを抑えきれませんでした。
「そうだ、ならアサコちゃんが帰りにでも案内してあげなよ」
「え、私がですか? でも土台しかないですよ。それに……」
「んー?」
店長さんはアサコちゃんにそうお願いし、彼女は気まずそうにもふもふ君をちらりと見ます。ですが彼は昨日の事をまったく気にしていない様子でした。
「おねがーい」
「ちー」
「……わかりましたよ。ですけど本当にもう何もないですから行っても意味はないと思いますよ?」
「わーい」
アサコちゃんは迷いましたが、本当はもふもふ君に酷い事を言った事に対して罪悪感があったので、罪滅ぼしも兼ねてそのお願いを仕方なく聞く事にしました。
そして仕事が終わって空が茜色になった頃、もふもふ君たちは映画館があった場所を目指して歩き続けました。
歩くたびにふりふりと揺れるおしりの短いしっぽはとても愛嬌がありますが、アサコちゃんはブスッとしながらそれをじっと見つめていました。
「私の前を歩いていたら案内の意味ないじゃない」
「うん、なんとなくだけどこのみちをおぼえているきがするんだ」
もふもふ君はあまりこのあたりに来た事はありませんが、徐々に昔の事を思い出し始めました。
彼は白い少女の幻を追いかけ、迷う事無くてくてくと歩き続けます。
「っていうか少しは昨日の事気にしなさいよ。ずっと悪い事言ったかなあ、ってもやもやしてた私が馬鹿みたいじゃん」
「きのうのこと? アサコちゃんはなんかひどいこといったっけ」
「……本当、あなたって幸せなもふもふね」
「あざっす。だってもふもふしてるからね」
「ちー」
「褒めてないけど。だってもふもふしてるからってどういう意味?」
「しあわせはもふもふしているから、もふもふしていることはしあわせなんだよ」
「わけわからないって。これじゃあ謝る事も出来ないじゃん」
いつもと変わらずマイペースなもふもふ君にアサコちゃんは調子が狂わされてしまいます。そしてより一層心の中のもやもやは大きくなってしまいました。
「ストップ。もう通り過ぎたよ」
「え? えいがかんはどこにもないけど」
「ちー?」
何もないエリアをしばらく歩くとアサコちゃんはもふもふ君を止めました。しかし周囲はどこも工事中で一面土の地面が広がり、映画館どころか建物すらありませんでした。
「だから津波で流されてもうないって言ったでしょ」
「そうだったねー」
「ちー」
もふもふ君は聞いていた話を思い出しました。辛うじて土台の様なものはありましたが、映画館だという事を思い起こさせるものは影も形もありません。薄々わかってはいましたが、もふもふ君たちはちょっぴりがっかりしてしまいました。
「あんないしてくれてありがとうね。ぼくがもしここにきたことがあるなら、そのときのぼくがなにをみてなにをかんじたのかしりたかったんだ。だからべつにえいがかんがなかったとしてもいいんだよ」
「そっか。それでそれが何なのか分かったの?」
「ううん。わかんなかった」
「そう。なんかごめん」
「いいよ、ぼくはまんぞくしたから。ありがとね、アサコちゃん」
「ちー」
その切なそうな横顔にアサコちゃんもまた悲しそうになってしまいます。ですがもふもふ君は自分のために彼女が悲しそうな顔をしてくれるだけで十分幸せでした。
「ないなあ。どこにあるんだろう」
「ん?」
何もないのでもう帰ろうかな、と思っているとキノコに似た不思議な生き物、マタンゴさんが現れました。
どうやらこの子も自分たちと同じ様に何かを探しているようです。なにか困っている様なのでもふもふ君は声をかける事にしました。
「どうしたのー?」
「うん、すこしまえにともだちといっしょにえいがをみようってやくそくしたんだ。このあたりにえいがかんがあったんだけど、どこにもなくて」
「あなたも海鹿劇場を探しているの? でもごめんなさい、今はもう無くなっちゃったんだ」
「そっかー。たのしみにしてたんだけどなあ」
アサコちゃんがそう伝えるとマタンゴさんはとても残念がってしまいます。もしかしたら約束したお友達ももういないのかもしれません。
けれど自分たちにはどうしようもなく、皆悲しそうな顔になってしまいました。
「おや、アサコちゃん。珍しいね、こっちに来るなんて」
「おじいちゃん?」
ですが途方に暮れていると一人のおじいちゃんが現れました。どうやら彼はアサコちゃんのおじいちゃんの様です。
「わあ、ひさしぶりー。げんきにしてた?」
「おお、もしかしてあの時のキノコ君かい?」
そして先ほどまで暗い顔をしていたマタンゴさんはおじいちゃんの顔を見て大喜びします。お友達とはアサコちゃんのおじいちゃんだったみたいです。
「え、おじいちゃんそのキノコと知り合いなの?」
「ああ、昔海鹿劇場の近くで出会ってね。興味深そうに劇場を見ていたから映画を見せてあげたんだ」
「ともだちにあえてよかったねー」
「ちー」
「うん、とってもうれしいなあ」
マタンゴさんが離れ離れになった友達と再会出来て、もふもふ君とネズミ君も自分の事の様に喜びました。
「それでえいがはいつみせてくれるの? おこづかいためてきたんだ!」
けれどマタンゴさんが嬉しそうにそう尋ねると、おじいちゃんは申し訳なさそうな顔になってしまいました。
「ごめんね、もう映画館は無くなっちゃったから映画を見る事は出来ないんだ。約束を守れなくてごめんね」
「そっかー……」
おじいちゃんがそう伝えるとマタンゴさんはまたしょんぼりしてしまいます。ですがこればかりはどうにも出来ませんでした。
その姿を見てもふもふ君も落ち込んでしまいましたが、すぐにある事を閃きました。
「あ、そうだ。ならぼくたちでえいがをじょうえいすればいいんじゃないかなあ。ねえおじいちゃん、えいしゃきとかはあるの?」
「え? 壊れたものを修理して、スクリーンと暗い場所さえあればなんとかなるとは思うけど」
「ならぼくにえいしゃきをかしてほしいな。きっとなおせるから」
「わあ、いいの? えいがみれるんだ!」
「ちー!」
もしかしたら映画が見れるかもしれない。マタンゴさんは差し込んだ希望の光に大喜びしました。
「そうかそうか。ならちょっと電話して市民会館を貸してもらおう。スクリーンと場所はなんとかなる。フィルムも用意するのは問題ないはずだ」
「いいの、おじいちゃん」
「ああ、こんなに映画を見る事を楽しみにしてくれていたんだ。それに友達との約束は護らないといけないだろう?」
「そう、おじいちゃんがいいなら別にいいけど」
おじいちゃんもその提案にとても前向きで、もう一度映画を上映出来る日が訪れた事に胸を弾ませている様でした。アサコちゃんは少しだけ乗り気ではなさそうでしたが、別に止める事でもないと思い見守る事にしました。
壊れた映写機を手に入れたもふもふ君は会場となる市民会館で修理をしていました。上映に関わってはいないとはいえ、アサコちゃんもやっぱり気になったのかその様子を観察しています。
「直せそう?」
「うん、これくらいならなんとか。だいたいのパーツはそろってるし、なかったらつくればいいだけだし」
「もふもふのくせに器用なんだね」
「あざっす」
「ちー」
もふもふ君は様々な工具を使って手際よく映写機を修理しています。一体今どのような事をしているのかはアサコちゃんにはわかりませんでしたが、取りあえず直す事自体に問題はないようです。
「ねえ、こんな事をして意味があるの。時間の無駄じゃないの。映画館が復活する事はもうないのに」
「いみがあるかないかっていわれたら、そんなにいみはないんだろうね。まあいきものはみんないつかしぬし、じんるいもいつかはほろぶから、いきていることもそんなにいみはないんだけどね。ちきゅうからひとがいなくなるのがいちねんごなのか、いちまんねんごなのか、いちおくねんごなのかはわからないけど」
その言葉にアサコちゃんは思わずムッとしてしまい、もふもふ君に尋ねました。
「ならどうしてもふもふは生きてるの? 生きてて楽しいの? 働いて死ぬだけの人生に意味はあるの?」
「いちまんねんごのせかいからみたらきっといみはないんだろうね。でもやっぱりどんなじんせいでもいみのないじんせいなんてないんじゃないかな。ぜんぶをてにいれてもみたされないひとはいるし、なにもてにいれなくてもみたされているひとはいるよ。けっきょくはじぶんでそのこたえをみつけるしかないんだろうね。ぼくはまだなんでいきているのかわかんないけど、そのこたえあわせはじんせいがおわるときにできるとおもっているよ。だからそれまでのんびりこたえをさがすつもりだよ。そのときになったらじんせいでいちばんにっこりわらえるようにね」
「……………」
もふもふ君はのんびりとした声でそう答え、アサコちゃんは黙り込んでしまいました。
カチャカチャと金属がぶつかる音だけが、薄暗い会場に響き渡ります。
「アサコちゃんはいきててたのしくないの?」
「……そうだね、楽しくないかな」
そしてアサコちゃんは、寂しげに本当の気持ちを話し始めました。
「私は普通の家で、普通に勉強が出来て、普通の大学に行けるって思ってたんだ。だけど『あの日』にその辺りの事情が変わっちゃってね。家族は誰も死んでいないし、家も少し壊れたけど無事だった。だけど大学への進学は諦めなくちゃいけなくなった。もちろんアルバイトをするとか奨学金とかそういうのを使えばいいだけかもしれないけど、正直まだ大人になりたくなかったから大学に行きたかっただけでさ、苦労してまで行きたくはないんだよね。もちろん自分よりも不幸な人はたくさんいるし、その人たちからすれば恵まれていて、でも普通の人からは腫れ物に触る感じで……中途半端に不幸になったんだよ。自分たちのほうが大変だ、そのくらい努力すればどうにかなるって誰にも理解されなくてさ……自分がバイトに明け暮れている間も楽しそうにしている友達を見るのが辛くて、いつの間にか仲が良かった子とも疎遠になっちゃったんだ」
それはこの町ではありふれた話でした。ですが今ならどうしてアサコちゃんが家から離れたはとのやでアルバイトをする事に決めたのか、もふもふ君はなんとなくわかってしまいました。
「だけど私は社会に復讐をする映画の悪役みたいになる事も出来ない。這い上がる勇気も道を踏み外す度胸もないし、小説みたいに全てを放り出して異世界転生する事も出来ない。このまま誰にも共感されず、見向きもされずに、ひっそりと生きているだけの息苦しい毎日をきっと死ぬまで送るんだろうなって思ってた。でもそんな時にもふもふが現れたの。私よりも惨めなはずなのに幸せに生きていて、なんか無性に腹が立ったんだ。もちろんこの嫉妬みたいな感情がお門違いっていうのはわかってるんだけどさ……」
「そっかあ」
アサコちゃんがどうして自分にいつも喧嘩腰だったのか、もふもふ君はその理由を知れて少しだけスッキリしました。彼女はただもふもふ君が羨ましかっただけだった様です。
「ぼくはかみさまじゃないし、ヒーローでもないし、いせかいのぼうけんにつれていくこともできないし、にんげんですらないただのもふもふしたなにかだから、きっとアサコちゃんのなやみをかいけつすることはできないとおもう。でもね、アサコちゃんはかなしかったんだねって、つらかったんだねってわかってあげて、ほんのすこしだけアサコちゃんをもふもふしてあげられるもふもふにはなりたいな」
「なにそれ。変なもふもふだね」
もふもふ君は優しくそう語りかけ、ようやく話を聞いてもらった事でアサコちゃんは静かに泣きだしてしまいました。
「さーて、しゅうりかんりょー」
そしてもふもふ君は映写機をあっという間に直してしまいました。これでもう後は本番の上映会を待つだけです。
「えいが、アサコちゃんもみにきてくれるとうれしいな。それでもふもふになってくれるとぼくもうれしいな。ぼくからのちょっとはやいクリスマスプレゼントだよ」
「ちー!」
「あはは、随分ともふもふしたサンタクロースだね。だからもふもふって何なのさ」
アサコちゃんは涙を拭って、ニコニコと笑う心優しいもふもふしたサンタさんからそのプレゼントを受け取る事に決めました。
そのささやかなプレゼントは彼女が今まで受け取った物の中で、一番の宝物になりました。
そしてもふもふ君やおじいちゃん、多くの人の協力で海鹿劇場は一日限りの復活を果たします。
今はもう無くなった海鹿劇場が再び映画を上映すると聞き、市民会館にはたくさんの市民の人が集まりました。
「わたわたっ、ええと、上映時間は、えーと、いつからだっけ!」
アサコちゃんも受付を担当する事になり慣れない仕事にあたふたと大忙しです。けれど彼女はいつもよりずっと生き生きとした様子で働いてました。
「さんふんごだよー」
「ちー」
「だそうです!」
「おお、ギリギリ間に合ったのか。じゃあ行って来るよ」
もふもふ君が助け舟を出すと最後のお客さんが入場しました。椅子は百席ほどしか用意出来ませんでしたが、後ろのほうで立ち見をしている人もいます。
「まだかなー、まだかなー」
前のほうの特等席にはもちろん今回の上映会の切っ掛けになったマタンゴさんが座っていました。背の低い彼はそのままでは見づらいので、アサコちゃんのおじいちゃんの膝の上に座っています。
「結構人来たね。もともとお客さんを呼んだのはついでだけど、海鹿劇場はこんなにたくさんの人に愛されてたんだ」
「うれしい?」
「それなりにね」
もふもふ君がそう尋ねると、アサコちゃんは照れくさそうに笑いました。
さあ、準備は万端、いよいよ上映開始です。
その映画はマタンゴさんが見るはずだった少し昔のアニメの映画でした。
映写機の傍にいるもふもふ君も動作を確認しつつアサコちゃんと一緒に映画を見ていましたが、スクリーンに映し出される映像を見てもふもふ君は途中である事に気が付きました。
「あれ? おなじだ」
「どうしたの?」
何かトラブルがあったのかとアサコちゃんは不安げに小声で尋ねますが、どうやら違っていた様です。
そこに映し出されていた映像は、もふもふ君が夢で見ていた光景とまるで同じでした。
煌びやかな大都会、白馬が駆け抜ける大草原、龍が泳ぐ秘境の山々、愉快な怪物がたくさんいる地底、果てしなく広がる銀河の世界。
アニメの主人公はスクリーンの中で仲間たちと共に涙あり、笑いありの大冒険を繰り広げていたのです。
「そっか、ぼくは」
そしてもふもふ君は思い出しました。
あの日、独りぼっちでおなかを空かせてひもじい思いをしていた時、誰かが白くてふわふわした美味しいものを食べさせてくれた事を。
誰かによくわからない建物に連れていかれ、広くてひんやりとした真っ暗な部屋で不安な気持ちになった事を。
誰かに怖がらなくていいよと手を握られ、スクリーンに映し出された光に顔が照らされて驚き、その景色に目が釘付けになった事を。
自分にはそれが何なのか、それを表現する言葉もわからないまま、初めて見る不思議な世界の大冒険に瞳を宝石の様に輝かせ、とてもワクワクして感動していた事を。
上映会が無事に終わり、マタンゴさんやおじいちゃん、町の人々はみんな笑顔になって帰っていきました。
もふもふ君達も後片付けを終え、夢から覚めた様に何もなくなった市民会館は寂しくなりました。
全てが終わった頃、夕暮れ時にもふもふ君たちは何の気なしに防潮堤沿いの道を歩いていました。
「アサコちゃんはどうだった? えいがおもしろかった?」
「そうだね。往年の名作だけあってよく出来てはいたかな。なんか懐かしかったよ。ただ昔は泣いた記憶があるけど、私はもうあれを見て感動はしても泣く事は出来ないんだろうね」
「そっかー」
アサコちゃんは正直に感想を伝えました。いろんな事を知った彼女の心の中からは純粋な気持ちは失われ、子供の心を無くしてしまったと知った彼女はそれがどうしようもなく寂しそうでした。
「もふもふはさ、その……どうなの? 自分の想い出の答えが見つかって。映画の中のお話だったって知って」
アサコちゃんもまた全てを知ってしまいました。もふもふ君の幼い頃の大冒険の想い出がただの作り物だったという事に。彼女は大切な友達が悲しんでいないか、それが気がかりでした。
「ぼくはそらのあおさもうみのひろさもしらなかった。なにもしらなかったぼくにとってはほんとうのだいぼうけんだったんだ。だけどだれとぼうけんしたのかも、どうしてぼうけんしようとしたのかも、もうおもいだせないのがさびしいかな。とてもしあわせだったことはおぼえているんだけどね」
もふもふ君は自分の横を走り抜ける小さな女の子と誰かに優しい眼差しを向けます。けれどそれは幻で、世界に溶けて見えなくなってしまいました。
「うれしかったきもちも、かなしかったきもちも、いつかはわすれちゃうものなんだ。ひとはおもいでをわすれられるからいきていけるけど、それはしあわせなことだけどかなしいことでもあるんだろうね」
大きな堤防は岩巻の海を覆い隠していました。もう昔の海を見る事は誰にも出来ないのでしょう。
「ぼくたちはきっとうちゅうのかたすみにあるちっぽけなちきゅうからでることもなく、うまれたいみをしることもなくしんでいくんだろうね。だけどわからないだけで、きっといみはあるんだとおもうよ。もしせかいがおわるときになってわからないままでも、なにもかもがきえさってしまってもきっとね」
もふもふ君はそう言って堤防をよいしょ、とよじ登ります。ネズミ君も何がしたいのかはわかりませんでしたが、ひとまずついて行く事にしました。
「ほら、アサコちゃんもこっちにおいで」
「え、うん」
もふもふ君はアサコちゃんにそう促し、彼女は訳も分からず言われるがまま彼のもとに向かい、もふもふ君の手を掴んで堤防をよじ登りました。
「わあ……!」
そこには黄金の太陽に照らされ金色に光り輝く海が広がっていました。煌めく海はどこまでも無限に広がり、世界は光で満ち溢れていました。
そしてアサコちゃんは初めて気が付きました。自分が見ようとしなかっただけで、すぐそばにこんなにも美しい景色があった事に。
「結局さ、もふもふは自分が何者なのか分かった?」
「ぼくはなにものなのかな。ぼくにはわかんないや。でもうみがとてもきれいだからどうでもいいや」
「ちー」
もふもふ君とアサコちゃん、そしてネズミ君は微笑みながら一緒に海を眺め続けました。
それは世界が終わる瞬間の様でもあり、眩くて幸せなひと時でした。
クリスマスが終わり、年が明け、もふもふ君はお仕事がお休みの日にアサコちゃんの家の前にいました。
「よいしょっと」
「いやあ、助かったよ。年寄りには結構しんどくてね」
「手伝ってくれてありがとうね、もふもふ。ネズミ君も」
「あざっす」
「ちー」
大きなワゴン車には映写機や上映に使う機材が乗せられています。おじいちゃんとアサコちゃんはお手伝いをしてくれたもふもふ君達に感謝しました。
「でもなんでえいしゃきをくるまにのせたの? またどこかでじょうえいかいをするの?」
「うん、この前の奴でおじいちゃんがなんかやる気になって、私も成り行きで手伝う事になって。ちょっと福島で出張上映会をする事になったんだ」
「おー、すごいね」
「本当にありがとう。君のおかげでまだまだ余生が楽しめそうだ」
「ちなみに県外に出るのは初めてだったりするよ。修学旅行とかは毎回いろいろあって行けなかったし」
「そっかー、はじめてのぼうけんなんだね」
「ちー!」
「あはは、そうだね。大冒険だよ。ちょっと勇気出しちゃった」
「すっかりもふもふになったね、アサコちゃん」
「うん、もふもふになっちゃった」
アサコちゃんは舌を出して笑い、もふもふ君とネズミ君も友達の新たな門出を祝福します。どうやら彼女もまたあの上映会に思う所があった様でした。
「そうそう、季節外れだけどはいこれ、クリスマスプレゼント」
「え、なにこれ?」
「ただのケーキだけどね。どれにしようか悩んだけど定番のボストンパイと、チーズとイチゴのミルフィーユも二つ買っておいたよ。二人ともチーズ好きだよね」
「わあ、ありがとー。とってもうれしいよー」
「ちー!」
アサコちゃんは恥ずかしそうにケーキの入った箱を渡しました。もふもふ君たちは思いがけないサンタさんからのクリスマスプレゼントに大喜びです。
「アサコちゃん、すまないがそろそろ」
「じゃあね、もうすぐ出発しないといけないから」
「いってらっしゃい、アサコちゃん。がんばってね」
「ちー」
「うん、それじゃあ人生をもふもふしに行ってくるね!」
そして笑顔のアサコちゃん達を乗せた車は走り出し、もふもふ君とネズミ君は車が見えなくなるまでずっと手を振っていました。
そして今日も変わらない毎日が始まります。
その日、もふもふ君はいつもの夢を見る事はありませんでした。けれどそれはとても清々しい朝でした。
それはきっとアサコちゃんが代わりに夢の続きを見てくれたからなのでしょう。勇気を出して新しい世界に一歩踏み出した彼女はこれからたくさんの人と出会い、たくさんの冒険をするに違いありません。
彼はいつもの様に朝ごはんを食べて、いつもの様にお仕事に出かけ、いつもの様にはとのやのエプロンに着替えました。
「それじゃあきょうもいちにち、もふもふがんばるよー!」
「ちー!」
さあ、お仕事の始まりです。もふもふ君たちは早速笑顔でお客さんを出迎える事にしました。