表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第十三夜 死にたいのなら

少女は、今宵反旗を翻す。

 少女は、世界から嫌われていた。

 全ての不幸を被った。両親は幼くして不幸に巻き込み殺し、施設に送られても罵詈雑言を浴びる日々。守ってくれた大人も不幸に巻き込み、最後には全てが瓦礫の下に埋もれた。その罪悪感は、一体どれだけのものだったか。

 死を求めこの街にきても死ねなかった。


 望んでも死ねない。それを不幸と呼ばずしてなんと呼ぼうか。


 だが、だからこそ少女は全てを崩落させた。自分の価値観さえも、倫理観さえも、人生観さえも。全てを逆転させる。罪悪感は憎しみへと、自死の願いは、殺害へと。


「理解した。理解できましたよ。そう、私は、あまりにも受動的すぎた。死にたいのなら、自分で自分を“殺せる”ようになればいい。だからこそ、今こそ宣言するにふさわしいでしょう。今宵、私はあらゆる人間を殺せるように生長する」


 幸福を経ることでバランスを取るために起こる不幸。プラスの発生分を全て打ち消すだけのマイナス。チンチロ最高打点であるピンゾロを出した彼女の周りに降り注いだのは、災厄そのもの──隕石群だった。その場にいた者が全員空を仰ぐ。

『戒律』も『熾火』も、雲を突き破ってきた光の雨を見た。


「全員、殺します。私は死なないから、死は不平等ですが、不幸は平等に。私もあなた達も、みんな仲良く不幸になりましょう」


 全員が迎撃態勢。すでにそこまで迫っている隕石群だ。『熾火』はそのスピードで逃走を図るが、余波で大損害を被るのは確実。『戒律』に至っては重装備を身に着けている者が隕石に対して前へ前へ。死亡人数を減らすために犠牲を払う。先程までの優勢はどこへやら、誰も”銀髪の少女”は眼中になかった。

 隙を見て、そばに転がっていた拳銃を少女は拾い上げる。『戒律』の死体がもっていたものだろう。


「こいつ、まさか自害を──」


『戒律』の一人が止めようとするが、その予想とは反し、少女は『熾火』へ向かって銃弾を放つ。難なく弾かれるが、わずかに『熾火』の足がもつれた。


「ぬ、まさか、儂をこのまま殺す気か?」

「当たり前でしょう。もう遅いんですよ。あなた達は疫病神()に近づきすぎた。私が不幸を呼んだ以上、すでにあなた達はその渦中にいて、逃れることはできません」

「ふん、大口を──」


 言いかけたところで、『熾火』の先に巨大な看板が落下した。先程弾いた弾丸。それが──”運悪く”看板の支柱に直撃。『熾火』の逃走経路を塞ぐ。


「は──!?」

「言ったでしょう。私からは逃れられない。不幸は伝播し、すべてを巻き込む。覚悟はできましたか?」


 着弾。細かい隕石を含めれば、百に近い数の鋼鉄が地面を砕く。ビルにも直撃し、さらなる倒壊を促す。すでにボロボロだった交差点は原型を留めず、無数の光の筋に粉砕される。悲鳴すらもかき消し、動きは衝撃で封じ、視覚は揺れで使えなくする。光の雨は降り注ぐ。人を選ばず、場所を選ばず。

 これまでの不幸が比較にならないほどの破壊力で、あらゆる物体を砕き終わったところで音は止んだ。熱が立ち込め、雨が蒸発する。焼けるような地獄絵図の中──石の海と死体の山。その頂点に、少女は立っていた。千切れていた左腕も、各所の傷も死んだことで一度リセットされ、五体満足の彼女は二足で死体を踏む。


「ふふ、あははは……!」


 吹っ切れたように、額を抑えて笑っていた。あれだけ疎んでいた不幸さえ、今だけは愛おしく感じているかのように、恍惚とした表情で。雨と血の蒸発する場所で、彼女は高らかに宣言した。


「さぁ、誰か生き残っているのなら全ての殺人鬼に伝えてください。私の名は──『軋轢(あつれき)』。掲げるは”相容(あいい)れぬ殺意”。世界からも人からも自分の命からも嫌われた、誇るべき不和の象徴。来るもの全てを不幸にする、人間讃歌を嘲笑う殺人鬼。今宵、私は生まれ変わりました」


 ガラガラと、一箇所、瓦礫が音を立てて退かされた。少女は視界の端でそれが動いたのを咎めるように、鋭く視線を送る。『熾火』だった。その枯れ木のような老体が、いくつも傷を作り血を流し、それでも刀を地面に突き立て這い上がってきた。


「あら、生きていましたか。しぶとい」


 生存本能をたぎらせる、“燃え尽きぬ殺意”の『熾火』による全力の防御行動によってかろうじて致命傷は避けた。しかし、もう体力は残っていない。息を切らしながら、『熾火』は刀を握り込む。柄を破砕するような万力で、手の甲に血管を浮き上がらせながら突き立てた刀を引き抜いた。


「逃げたらどうですか。そもそも私は死なないんですよ? そんな相手に、まさか殺し合いを挑むと?

「貴様は……」

「『軋轢』です」

「……『軋轢』、貴様は、“死ぬべき人間”じゃ。ごく稀にいる、生きてはならない人間。生きていても、あらゆる害悪しか産むことのない真の悪人」

「『軋轢』の名にふさわしいのでは?」

「いいだろう。それだけ対立を望むのなら、今ここで決着をつけてくれようか」


 凄んで見せる『熾火』を見下しながら、『軋轢』はサイコロを取り出した。チャラチャラと振って、また最弱の役である一二三を出し続ける。抱える膨大な不幸をそれで相殺している。


「あなたの取り柄は──”燃え尽きぬ殺意”の本質は、生存本能でしょう。あの蠱毒の時代を生き抜いてきた老いぼれ。こと生き残るということに関して、最強の老人。鍛え上げられた逃げ足は、あなたに無類の速度を与えた。練り上げられた生存本能は、危機が迫ればすぐさまあなたに警鐘を鳴らす」


 サイコロを握り込んだ。投げれば、また隕石群を降らすことさえ可能だ。それが、今の彼女にはできてしまう。街への被害も、人命も考えない。疫病神として、『軋轢』として生まれ変わってしまった彼女の目には、全てが等しく映る。漆黒の殺意を宿すその目には、たとえ”燃え尽きぬ殺意”を宿していない人間でも本能が警鐘を鳴らすだろう。


「──まさか、あなたの生存本能は、そこまで鈍ってしまったんですか?」


 黙り込む『熾火』を静かに見つめ、『軋轢』はまたサイコロを振る。出目は一二三。


「ま、安心してくださいよ。逃げたいのなら逃げればいい。私は追う気はありませんよ」

「その保証がどこにある」

「あなたが『軋轢』の名を伝えなかったら、私が七人目として名乗りを挙げたことを知る人間がいなくなるでしょう。それに……」


 ちらと、『軋轢』は遠方に目をやる。彼女の視線を追うことを『熾火』はしなかったが、彼の”殺意”が警鐘を鳴らしているのはわかった。

 ──『茫漠』が迫ってきている。それだけではない。『茫漠』に続いて、『戒律』や”長身の男”も。

 

「彼らが到着したら、いよいよ逃げられなくなるのでは? ここは、まもなく戦場になりますからね」

「……外道が。次あったら、必ずその首刎ねてやる」

「首を洗ってお待ちしておりますよ。気が済むまで刎ねてどうぞ。それでも私は死ねないでしょうが」


 彼女が薄く笑みを浮かべると、すぐに『熾火』は姿を消した。その俊足で、足場の悪い瓦礫を伝って逃げたのだ。


「ふむ……案外、厄介かもしれませんね。不死身ではないでしょうが、彼も彼で”死なない殺人鬼”ですから。殺しておけばよかったでしょうか」


 少女は、今宵人を捨てた。その心は死を渇望する者から、他者すら巻き添えにしてでも自分を殺すという覚悟へ。その覚悟は、鬼気迫り、やがて鬼へと。


「さて、次は『戒律』を根絶やしにしましょう」


 彼女の心に迷いはない。世界に嫌われた彼女は、今反旗を翻す。死にたいのなら、自分を殺せるようになるその時まで。

「死にたい」より、「殺してやる!」ってメンタルのほうが強気で大事って話もありますよね。それの究極版です。


ちなみに、『軋轢』の不幸はゲームのMPみたいに考えてもらうとわかりやすいです。普段はMPが勝手に溜まって暴走するから、サイコロでMPを消費して暴走を抑える。

チンチロで強い役を出すとMPが超膨大になって大暴走……ってな感じです。


それと次話に関してですが、これまた目処が立っていません。というのも、リアルが一月末まで忙しいこと、さらにコンテスト応募用の”ガチ”作品のプロットを鋭意制作中ですので、そちらに時間を割くことになりそうだからです。

息抜き程度にこちらも執筆いたしますが、一ヶ月後に投稿とかなるかもですね。


もし面白いと思っていただけたのなら、感想やお気に入り、評価いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ