第4話 ランバード隊長
輸送船による河下りを成功させた僕たちは、ニューヤクの都に、たどり着いた。
船を降りた僕たちは、徒歩で師団本部へ向かう。その途中、ケリーは僕に向かって、
「あなた、撃墜されてから、人が変わったようね。以前は傲慢な自信家だったのに、何だか謙虚になって」
「そ、そうかい」
「まあ、今の方が全然、良いと思うけど」
そういえば、僕が転生した彼は、いったい、どんな男だったのだろう。
彼の記憶は、大まかには脳に残っていて、バードバトラーの操縦や生活には不自由しないのだが、細部については、あやふやだった。
このニューヤクの都は、連合軍の有力者の一人、レギ・ザの居城があり、城下町が栄えていて、華やかだ。
そして、師団本部は僕の目から見ると、まるでベルサイユ宮殿のような建物で、多くの将兵が行き交っている。
司令部に出頭すると、所属する部隊が全滅した僕は、結局、師団本部直轄の第一飛行隊に編入されることになった。
第一飛行隊の隊長は、歴戦の英雄ランバードだ。僕とランバードは旧知の仲で、
「久しぶりだな。前線基地での戦いは、激しかったのか?」
「ええ、それはもう。バードバトラーが二十四機も撃墜されて」
「やはり、帝国軍の、あいつか?」
「はい。赤鳶というエースパイロットは尋常では、ありません。嵐の直前に奇襲をかけてくるし」
「その嵐の中を、お前は飛んだらしいな」
「最新機種のバードバトラーの性能のお陰ですよ」
そんな話をしながらも、
「飯でも食おう」
と、ランバードが言いだし、僕とケリーを連れて、町のレストランへと向かった。
実は、ランバードとケリーは恋人同士の仲だ。
そしてレストランに着くと、ランバードは席に座るなり、
「オヤジ、まずは美味い酒だ。後は出来るものを3人分」
と、まだ昼間なのに酒を注文し、そこへケリーが、
「あの少年にも」
カウンター席に一人で座る、十六歳くらいの少年に視線を向けた。
「なんだケリー、あんな少年と飲みたいのか?」
そう言いながら、ランバードは席を立ち、その少年の傍らに歩み寄る。
「小僧、俺の彼女が、お前に奢りたいと言っているのだが」
「そ、そんな、急に、そんなこと言われても困ります」
オドオドとする、その少年が言い終わらないうちに、
ランバードは軍刀を抜いて、
ズバァン!
一刀両断に叩き斬った。斬られた少年は、
バタン。
声もなく、椅子から転げ落ち、絶命したようだ。
「な、なんだ!」
「きゃあーっ!」
騒然となる店内。
「ラ、ランバード隊長、急に、何をするのですか!」
驚く僕に、ランバードは冷静な声で、
「この少年は帝国軍のスパイだ。そうだろう、ケリー?」
「そうよ。私は、スパイ・ファイルの人相書きを全部、覚えているの」
昼間は、そんな物騒な事があったが、夜は僕一人で、バーに足を運んだ。この店は、師団長の娘のジェニファーが営んでいる。
僕の顔を見ると、ジェニファーは、
「あら、久しぶりね。まだ生きていたの?」
と、僕の一番好きな酒をカウンターに出す。
「今度、ここの部隊に配属されてね」
「よく、パパが、それを許したわね」
実は僕と彼女は、付き合ったり別れたりを、くり返している仲だった。