古今
「ありがとうございました」
木下は男に対して深々と礼をして感謝した。
「いや,こちらこそありがとう。この銅貨はこれまでにないほど状態がいい。君,これをどこで手に入れたんだ」
銅貨をまじまじと見ながら男が訊ねた。
「え,いや,父からもらいました」
「お父さんからか。君のお父さんは古銭をあつめているのかな」
古銭という言葉に木下は引っかかった。
「何を言っているんですか。これは古銭じゃないですよ」
えっと男は言葉を失った。確かに今持っているものは大正時代の古銭で間違いない。もし、彼女の言っていることが正しいなら大正時代の人となる。
「きみ、今の年号は何だ?」
「え、今は大正ですが」
横文字を右から左に読む、大金とまでは行かない金額に驚く。男の中で今までの彼女の不可解な行動がすべて腑に落ちた。
つまり彼女は何かがあって大正時代からタイムトラベルしてきたらしい。
「きみ、私はこういうものでね」
木下は男から渡された名刺を見る。
『ーー大学歴史教授
今川 勉』
そして木下はある文字に疑問を持った。
『生年月日 昭和』
「なんじゃこの昭和という年号は」
「君が生きていた時代の次の年号だよ。そして今はさらに二つ進んだ令和だよ。つまり君は未来に来ている」
木下は頭が真っ白になった。これからどうやって生活をしていくのだろう。どうしたら家に帰れるのか。親は今も心配している。
「きみ、住む場所はあるのかね」
木下の心を読んだように今川は尋ねた。
「・・・ありません」
「やっぱりか。それなら提案なんだが私の家に泊まっていくか?」
その言葉に木下は一瞬目を丸くして,数秒後に顔を赤くして焦りだした。
「そそそそんなこと,きゅきゅきゅうにいわれてももも」
「落ち着きたまえ!別に変なこともしないしする気もない!」
今川は両手をぶんぶんと振り必死に否定する。
「私は特に大正時代の研究をしている!外国の文化が入り産業も学問も発展し根付いた時代をより深く知ろうと思っていてねっ!」
今川はごまかすようにただ思っていることをめちゃくちゃに話した。焦る今川を冷静になった木下がぽかんと見つめる。今川は冷静になることがまだできず,機関車のようにそのままの勢いで話す。
「とにかく,君の話が聞きたいんだ!ほかの時代もそうだが昔のの資料は第二次世せ・・・」
第二次世界大戦でなくなった。そう言いかけて今川ははっと我に返った。この子はそのことを知らないし知ることもできない。いっても悪いことにはならないが何となくいうのをやめた。
深呼吸をして今川はゆっくりと話し出した。
「とにかく,君の話が聞きたいんだ。その代わり私は君の生活を助ける。どうだね」
今川の提案を木下は少し目をつぶって考え答えを出した。
「とても助かるのですが,あなたはそれでいいんですか」
「もちろんだとも。君が話をしてくれれば私の仕事の助けにもなる」
「それならありがたくお引け受けいたします」
木下は礼儀正しく深々と礼をした。
『時代とは言え,急にかしこまるとむずむずするな』
礼をした彼女を見ながら今川は思った。
こんにちは!春桜 結分です!
いろいろ忙しくいつの間にか2024年も最終日となりました。めちゃくちゃ暑い夏が終わりめちゃくちゃ寒い夏になりました。来年もまったくあげれないとは思いますがよろしくお願いします!
それでは,最後まで見ていただきありがとうございました!