龍のたまごを手に入れた暗黒に選ばれし少年の暗鬱たる夢想詩
「なろうラジオ大賞5」参加作品です。
コメディーです。
「……くっくっ。
ついに手に入れたぞ。世界は俺のものだ!」
少年は光なき暗黒で不気味に笑う。
その手には小さく真白な卵。
「お前が俺を……いや、俺がお前を選んだのだ。
暗黒たる俺が暗黒龍たるお前を選ぶ。
何と皮肉な運命か」
一人語る少年は笑う。
「名を与えよう。
お前の名は暗黒龍ジェイドスターだ。
闇の精霊の寵愛を受けた、実にお前らしい名だろう?」
それに応えるように卵がカタカタと動いたように見えた。
「ふっ、嬉しいか。
俺に従え。さすれば世界は俺たちのものだ」
光のない空間で少年は笑う。
パンドラが開くのを今か今かと待ちわびるように。
「これまでに手に入れた卵は粗悪な軟弱者ばかりだった。神に奪われたものも多かった。
だが、お前ならば神に見つからずに生まれるだろう。
我が魔力で今こそ!
闇の究極暗黒龍……」
「サトシ!」
「!」
その時、暗黒に染まりし……もといカーテンを閉めきった部屋のドアが開けられた。
「まーた冷蔵庫の卵勝手に持ち出したでしょ!」
それは少年にとって神にも等しい存在だった。
「おのれ! また俺から暗黒龍の卵を奪うつもりか!」
少年は母親に抵抗して卵を抱える。
「いやそれ、スーパーで安売りしてた無精卵だから。孵らんから。痛むだけだから」
冷静で冷徹な神は少年に現実という雷の矛を振り下ろす。
「イヤだイヤだ!
暗黒龍を育てるんだ! ジェイドスターを孵すんだ!」
「はいはい。ジェイドスターは美味しい夕飯にしてあげるから」
「神はいつだって無慈悲だ!」
少年は天に祈るようなポーズを見せた。スーパーで安売りされていた暗黒龍の卵を手に。
「……今夜はオムライスの予定だったけど、あんただけチキンライスでいいかね」
「さらばだジェイドスター! 永遠に!」
少年は暗黒龍の卵をすぐさま献上した。
「よろしい。暗黒龍はあんたの糧になるさ」
卵を受け取った母親は「やれやれ。早いとこ抜け出してほしいもんだよ」と呟きながら、中学二年生の息子の部屋から出ていった。
「そうか。俺が暗黒龍を取り込み、その力を得よと。そういうことなのだな、神よ」
母の嘆きとは裏腹に、少年は順調にその道を突き進む。
「ふははははは! ジェイドスターよ! 我が血肉となり、ともに世を統べようではないか!
ふは、げほげほっ! ふははっげほぉっ!」
慣れない笑い方で生唾が喉に詰まりながら、それでも少年は笑うのだった。
彼がそれを黒歴史だと気付くのがいつになるのか、それはジェイドスターにも分からない……。