【単話】こんなバグまみれの乙女ゲームの悪役令嬢に転生ですか!?
流行りの悪役令嬢転生物を書いてみようと思ったら何故かこうなりました。
↓主人公視点も書きました↓
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「ーーヴィルラーナ・ドラクロア侯爵令嬢! ミーリア・シャルトル男爵令嬢に対し陰湿な嫌がらせなどの危害を加えた罪で、貴様との婚約を破棄し国外追放とする!」
ふと目が覚めたら突然の煌びやかな世界だ。こちらに向けられた照明がキツくて前が見づらいのだが。
私は責めるように告げられた言葉に対して口を開き、
「お言葉ですが、わたくしにそのような事実はございませんわ」
と反射的に答える。
本当に身に覚えがないのだ。週末に家で寝て、それで目が覚めたと思ったらこれだ。私は普通の会社員だったんだけど。もしかして寝ている間になんかあった? 今流行りの異世界転生的なことになってるの? てことは断罪のショックで前世を思い出しました的な展開だろうか。
ちなみに目覚めた時から『私』の記憶に追加されて『ヴィルラーナ侯爵令嬢』とやらの記憶がある。反射的に侯爵令嬢然とした受け答えができるのはそのおかげだ。
そちらの記憶でも嫌がらせなどは身に覚えがないという。ミーリアとやらがやらかしたことの尻拭いをしていただけらしい。てことはでっかい冤罪ふっかけられてるわ、これ。普通に酷い。
眩し過ぎる光に目が慣れてくると、目の前の壇上から、これまた煌びやかな服装のイケメンたちが数人揃ってこちらを睨みつけている。その中のリーダーっぽい人ーー王太子の腕の中には小柄で可憐な花のような儚さがある少女が涙目で守られている。ミーリアだ。
そして私に婚約破棄を突きつけてきたこの王太子は今の今まで私の婚約者だったということ。
つまりさっきまでは『婚約者がいるのに別の女にうつつを抜かしてた』ということでもある。浮気者だ。そんなやつやめときなよミーリア。碌でもない男だぞ。
ちらりと横目で会場を見渡すと全体的にヨーロッパのどこかのお城の中という感じだ。ここはおそらく大広間で、今は貴族のパーティーをしていますという雰囲気だ。語彙が足りず申し訳ない。
今までの情報から考察すると、『なんらかのパーティーにかこつけて大々的に悪女を(冤罪で)断罪し、国外追放。そして王太子は大好きな男爵令嬢と婚約して取り巻き共々仲良くハッピーエンド』という目論見だろう。悪趣味である。
ヴィルラーナ侯爵令嬢、可哀想に。こんな茶番に巻き込まれて地位も婚約者も奪われるのね……。
悪役令嬢(今は自分だが)の境遇に哀れみを感じていると、ふと違和感が過ぎる。
……うん? ヴィルラーナ? ヴィルラーナ・ドラクロア? いや待て待て、それってもしかしてーー。
侯爵令嬢らしく毅然とした姿で立っているが、頭の中では混乱している。大混乱だ。ちょっと待ってほしい。5分くらいでいいから。ちょっと手汗かいてきた。
そんな願いも届かず、私に対し目の前の彼らはここぞとばかりに追撃をする。
「今後に及んで嘘を吐くとは。証人も揃っている。観念するんだな!」
「……証人の方々が本当の事を仰っているとは限りませんわ。あなた方がそこにいらっしゃるご令嬢に懐柔されているのではなくて?」
「黙れ! 貴様が複数のご令嬢に嫌がらせをしていたという隍?焚縺ョ逶ョ謦???′縺?k縺ィ縺?≧縺ョ縺ォよくも何も知らぬフリをできるものだ!」
いや何つったよ今。
急に音声が乱れたわ。みんな聞き取れなかったのか会場に「?」がたくさん浮かんでいる幻覚が見える。王太子相手なので誰も聞き返せないが。てかなんかセリフ文字化けしてた? 多分文脈的に目撃者がいっぱいいるとかそういうのなんだろうけど。
しかしここで私は確信した。
やっぱりここは『バグが多すぎて腹筋が保たないせいでストーリーが頭に入ってこないwww』と各所で話題になったあの伝説の乙女ゲーム『魔法は永遠に恋の病』の世界だ。略してマジヤミ。
内容としてはよくある魔法学園ファンタジーからの世界を救う旅をしながら恋をするタイプのゲーム。
開発前から豪華キャスト、美麗なスチル、オープンワールドと大々的に発表したものの、発売されてみれば開発費不足でとんでもないバグを大量に隠し持った面白爆弾みたいなゲームになっていた。
王太子が微妙に宙に浮き続けるとかいう馬鹿みたいなバグから、当たり前のように突然の文字化け、戦闘で技を出す順番によっては急に相手の攻撃威力がカンストするという恐怖のバグまでもが至る所に存在している。
中盤で急に出てきた敵が65535ダメージを出してきてパーティーが一瞬で全滅し白目を剥いたことは忘れない。3時間セーブしてなかったんだぞ。
油断するとすぐバグるため、普通にバグを起こさずにクリアするのは至難の業(多分無理)と言われたゲームである。
ちなみにストーリーやスチルなどにはたっぷりと開発費がかけられたためそこの評判は良い。そこだけは。バグさえなければなぁと常々言われている。
そのマジヤミの世界、私は王太子ルートで主人公の恋敵として立ちはだかる悪役令嬢、ヴィルラーナ侯爵令嬢になったようだ。
余談だがこの『ヴィルラーナ侯爵令嬢』は終盤にボスとして戦うことになる。国外追放された恨みを晴らしに主人公たちの前に現れるのだ。そして普通に強いし、よくバグる。
ていうか断罪される前に思い出してよ! もっと前じゃないと見れないバグがあったのに!
バグがーー。
えっ、いや待ってバグが存在するってことはこの王太子、浮いてるの?
「おい、何か言ったらどうなんだ!」
先程から黙り込んだ私を責める元婚約者の王太子の足元をそっと見ると、確かに3センチくらい地面から浮いているように見える。
マジでバグってやがる(歓喜)!
逆になんで今までコレに気がつかなかった!?
ヴィルラーナの記憶を辿ると今まで「この人、足音しないわね」みたいなことを彼女は思っていたようだ。
答え:浮いているため
前世でそんな国民的キャラいたような。
ということは、もしかしてあんなバグやこんなバグを再現できるかも!? どうしよう好奇心が抑えられない……!
実は前世? では結構なゲーマーだったのだ。このゲームもやりこんでおり、面白バグを再現しては動画にまとめてアップするということを趣味でしていた。動画チャンネルの再生数、登録者数もそこそこ多く、自慢ではないが結構人気があったのだ。そう、(色々と)やりこんでいたのである。
ヤバい。興奮でめっちゃ手汗出てきた。
あれもこれもリアルで体験できるということ!?
……いや、冷静になれ、脳内。ゲームでバグを起こしまくった張本人は主人公であるミーリアだ。これは果たして悪役令嬢であるヴィルラーナでも再現できるだろうか。
……気になる。今すぐ確かめたい。
だが今、断罪イベント中だ。
壇上から「なんか言え」コールが聞こえる。
いや、逆にもう断罪シーンだし、この後は悪役令嬢の断罪が終わって王太子たちはハッピー! でいいのでは。なんなら国外でしか見られないバグも沢山あるからもう国外追放もウェルカムだ。オープンワールドバンザイ。
ヴィルラーナは多分強いから国外でも逞しく生きていけるだろう。いざとなったらバグらせる。
ーー考えはまとまった。やることは1つ。この場所で起こるバグの再現を確認すること。
「そんなに、そんなにわたくしの言葉が信用できませんか」
しおらしい表情で悲しみによろめいたフリをして左足から3歩後ろに下がる。足元を見て床のタイルの模様に沿ってそのまま1歩右に出て。よし、多分この位置だ。ここでバレない程度に軽くジャンプする。ーーどうだ!
そっと着地をし、壇上を仰ぎ見る。
すると王太子の横に立っていた宰相の息子の纏っていた衣服が突如、
フワフワのウサギの着ぐるみになった。
全身を包む着ぐるみだが、何故か顔だけは顔出しパネルのように出ている。素敵なメガネが(デザイン的に)浮いている。
よっしゃ大成功! うまくいった!
てことは主人公じゃなくてもバグを起こせるってことね!
心の中でガッツポーズをする。
顔は真顔だが。
「なっ!? はぁ?」
「お前、服、えっ!?」
「えっ? ウサギ!?」
違和感に気がついた宰相息子(以下、フワフワウサギ)が声を上げ、壇上を含め会場内は騒然となる。そりゃそうだ。
ちなみにこのフワフワウサギの着ぐるみはイベント装備で防御力、魔法防御力共に優れた一級品の装備である。ただ見た目があまりにも可愛らしく、何故か出ている顔がちょっとシュールであるが。
このバグは所定位置でジャンプすると宰相の息子の装備が強制的にフワフワウサギになるという、ただそれだけのものだ。特に危険性はない。
もう一つ、騎士団長の息子が装備無し(パンイチ)になる似たようなバグもあったが、流石にそれはリアルだとかわいそうな気がするのでやめておいた。
ゲームでは断罪イベント中に何故か動き回れる(これもバグ)主人公ミーリアを操作して起こすバグだが、どうやらこの世界では実行者は誰でもいいようだ。
ちなみにゲーム内ではこのバグが起こっても何事もなかったかのように歩き回るミーリアと立ち尽くすフワフワウサギを無視してそのまま断罪シーンが続けられていた。
誰一人として突如出現したフワフワキュートな着ぐるみ男を気にしないという、それはそれでプレイヤーのシュールな笑いを誘った迷シーンだったけどリアルではそうはいかないか。
このバグの通称は『笑ってはいけない令嬢断罪』である。
……今の私は『ヴィルラーナ侯爵令嬢』なので表向きはこの状況でも冷静さを保てている。淑女教育に感謝だ。脳内は大興奮だが。
うーん。リアルで見るバグは違うな。何よりも画質が良い。
私がバグの再現に(真顔のまま)満足していると、壇上の人々はアレコレ言いながらそそくさと下がっていってしまった。断罪、途中だったけどいいのだろうか。会場はざわざわしつつも皆はなあなあで談笑を始める。
……なんか断罪、有耶無耶になったし、バグも見られて満足したから私は帰ろう。じゃあね。
どさくさに紛れて会場を後にした私は後日、
要約すると「一応、断罪しとくね」という感じのとても曖昧な国王の命令で婚約破棄と国外追放になった。
あまりにも曖昧過ぎて、両親も「一応家から出てってもらうけど、しばらくしたら帰ってきてもいいからね?」みたいなことを言っていた。いいんだ、それで。
他にも面白バグが沢山あるし、せっかくだから旅でもしながら色々試してみようかな。国内でのバグはしばらくお預けだけど、今後の楽しみにしておこう。
風の噂で聞いたところでは、フワフワウサギはちょっと落ち込んでいたが5日ほどで立ち直ったそうな。
それとしばらくフワフワなウサギ柄のアイテムが貴族間でちょっと流行ったとか。
ーーその後、実は転生者だったミーリアに追いかけ回されたり、面白バグの再現をしてたら世界を救ったりしたけど、それはまた別のお話。