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第六十七話 クーデター(1)

 史実では、1930年から1935年頃まで農産物の価格下落や凶作が続き、後に“昭和農業恐慌”と呼ばれる事態が発生する。


 今世でも、前年の1931年、記録的な冷夏によって凶作が発生した。化学肥料の普及と保温折衷苗代によって、史実よりもかなり被害は小さかったが、それでも東北では、食糧不足と言ってよいほどの窮状であった。これに対し、政府はリチャード・インベストメントから米を買い入れ、困窮地域への配給を行い、欠食児童や女子の身売りを相当防ぐことが出来た。


 高城蒼龍は、農村の経済発展と救済を行って、五・一五事件の暴発を防ごうとしていたのだ。


1932年5月1日


「高城大尉。陸軍と海軍に不穏な動きがあります。陸軍では皇道派、海軍では艦隊派の一部が頻繁に密会を重ねています。どうやら血盟団と関係のあった士官と、北一輝きた いっきに影響を受けたシンパであると思われます」


 ルルイエ機関の士官が報告をしてくる。


 北一輝とは、二・二六事件の理論的な中心人物となった国家社会主義者である。三井や安田といった財閥に対して、恫喝じみた“改善要望”を次々に出して、現金を強請り取るなどし、豪華な生活を送っていた。戦後の街宣右翼や総会屋の、先がけの様な男であった。


「これは、想像以上に大規模なクーデター計画かもな」


 報告書からは、五・一五事件の規模では無く、二・二六事件ほどのクーデターを計画しているように読み取れる。


 史実に比べて、格段に農村部の生活は向上している。しかし、21世紀の日本でも相対的貧困家庭があったように、昭和初期の日本では全ての人々を救うことは出来ない。悪徳な金貸しに騙されて、娘を人身売買同然に連れて行かれたり、農地を担保に取り上げられたりと、常に弱い立場の人間が割を食う。特に高等教育が普及していないこの時代ではなおさらだ。


 国内の貧困が、解消できていないにもかかわらず、政府はロシアに対して食料の援助を行い、清帝国へも農業技術の協力や円借款を通じて、開発援助をする。さらに、韓国併合から20年、半島の開発のために日本の税金から相当な金額を投資した。それにも関わらず、やっと経済発展をしてきた朝鮮半島を手放すなど、正気の沙汰とは思えないと考える者がいる。


 これは全て、外国勢力や財閥に買収された君側の奸の仕業に違いない。天皇陛下に正確な情報を伝えず、陛下を私物化して私腹を肥やそうとしている。国民の血を搾り取ることによって。だから我々が立たなければならない。君側の奸から陛下をお助けして、天皇親政の日本を作るのだ。陸軍海軍の若手士官達は、使命感に燃えて、その時のために準備を行う。


「陛下、報告がございます」


 高城蒼龍は参内し、陛下にクーデターの情報を奏上する。


「これだけ農村対策をしたにも関わらず、クーデターを防ぐことは出来ないのか・・・」


 天皇は、悔しそうに下唇を噛む。


「はい、陛下。農村の暮らしは、以前に比べれば格段に向上しました。しかし、依然貧富の差はあります。また、人身売買を厳しく取り締まってはおりますが、それでも、親に売られる娘の事例は後を絶ちません。人間は、相対的な格差には敏感になってしまうものです。さらに、そこに聞き心地の良い、英雄願望を叶えることが出来るような煽動者が現れると、一部の人間は使命感を勘違いし、決起してしまうことがあります」


 第二次世界大戦以降でも、ギリシャやアルゼンチン、タイなどでクーデターが発生している。餓死者が出るほど困窮していた訳でも無い。様々な要因はあるが、相対的な格差による不満を利用したと言うことに於いては一致する。20世紀初頭に於いては、どの国であれクーデターの危険をはらんでいるのだ。


「高城、なんとか未然に防ぐことはできないだろうか?」


 高城は、事前に検討してきた案を奏上する。


「はい、陛下。先般の“十月事件”では、クーデターの実行前に計画が露見し検挙されましたが、実行前と言うことで謹慎処分が下っただけです。そして、このクーデターを計画した軍人を英雄視する向きもございます。事前に摘発することも可能ですが、それでは、火種を完全に消すことは出来ないと考えます」


「すると、実際に行動に出た後に鎮圧すると言うことか。しかし、それでは帝都に於いて武力衝突が発生し、軍や臣民に死傷者がでるやもしれぬ。それは避けたい」


「はい、陛下。まずは、クーデターの計画を調査致します。そして、襲撃目標を確認し、また、実行の期日も調べます。反乱軍は、おそらく赤坂・麻布の連隊を使うと思います。目標と期日が判れば、それに応じて、宇宙軍と近衛師団にて反乱軍の進路をふさぎ、鎮圧したいと考えます。できる限り武力衝突は避けたいと思いますが、今は、“手術”が必要な時なのかもしれません」


 天皇は高城の言った“手術”の意味を正確に理解する。


「そうか。しかし、無理はするな。“手術”が困難だと判断すれば、事前摘発にするように強く言っておくぞ。高城よ。間違っても自身が先頭に立ち、死地に赴くような事が無いように、くれぐれも注意をするのだぞ」


 高城蒼龍は、すぐにルルイエ機関を動かし、東京市内の各駐屯地や、陸軍海軍のキーマン、北一輝、血盟団関係者の自宅に盗聴器を仕掛けた。


 盗聴器は、最近宇宙軍によって開発された、超小型マイクロフォントランスミッターを使用した。マイクはチタン酸バリウムを使用した超々小型タイプだ。そして、トランスミッターにはIC(集積回路)を使っている。形と大きさは、当時の家庭用電線を固定する“碍子”そのものだった。


 この時代には、軍の施設はもちろん、一般家庭にも電気が普及していた。そこで秘密裏に侵入し、室内配線を固定している碍子を盗聴器に取り替えたのだ。


 そして、盗聴器から200m程度離れた場所で、24時間受信し会話を記録する。


 盗聴を開始してから一週間、計画の詳細が判明してきた。


第六十七話を読んで頂いてありがとうございます。

やっぱり暴発するんですね・・・・


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


おもしろくない!と思ったら「★☆☆☆☆」でも結構です!改善していきます!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃおもろい。
[気になる点] 北一輝キター [一言] 彼は国家社会主義者だけど、その中身は男女平等、民主主義(天皇制否定)者で、彼の書いた「日本改造法案大綱」が皇道派で一人歩きした側面もあるんですけどね。
[良い点] クーデターを計画していても事前逮捕じゃ謹慎処分なのか、、、 しかも英雄視されかねないとは、愚かな。 軍の内部に影響力を残し害を残し続けるのなら除去もやむなしですな。 特に北一輝とか、関係し…
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