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第六十一話 ブラックサーズデイ(1)

1929年9月初頭


 NYダウは当時の最高値を記録する。アメリカは繁栄を謳歌しており、株価も景気も永遠に上昇して行くと、皆が信じていた。



「リチャード・インベストメントから、また売り注文だ。先月からリチャードは売り越してるな」


 ある証券会社のディーラールームで、社員達が会話する。


「細かく買いも入れてるが、8月からは明らかに売りが多い。そうとう警戒してるようだな」


 当時は、ごく一部に株式市場の過熱を警戒する意見もあったが、過去10年間上がり続けていた株が突然下落に転じるなど、ほとんどの人は予測できなかった。


 リチャード・インベストメントが売りを入れると、それにつられて売り注文が入るため一時的に株価が下がる。しかし、市場はそれを“買い時”と判断し“押し目買い”を入れるため、すぐに株価が戻るということを繰り返していた。


 リチャード・インベストメントからの売りは徐々に増えていく。そして、NYダウもまるでリチャードの売りと連動しているかのように徐々に下げていった。


1929年9月下旬


 イギリスが公定歩合の引き上げを実施する。


 これにより、アメリカからイギリスへの資本の移動が発生し、株価の下落に拍車がかかる。


1929年10月前半


 最高値を記録した9月初旬から一ヶ月ちょっとで、株価は17%下落していた。だれもが漠然とした不安を抱き始める。しかし、少しでも儲けたい、損失を減らしたい多くの投資家は損切りができず、リバウンドを信じてじっと耐えていた。


「リチャード・インベストメントから大量買い注文だ!ほとんどの銘柄に買いが入ってるぞ!」


 ウォール街は一気に活況を取り戻した。リチャード・インベストメントが全面買いを入れたと言うことは、まだまだ株は上昇するのだ。耐えていた我々が正しかった。皆がそう考え安堵した。


 NYダウは、一週間で9月3日からの下げ幅の半分を取り戻した。しかも、急激な上昇。この急上昇で、売りを仕込んでいたいくらかの投資家が破産した。


 市場が一応の安堵を取り戻したころ、ついに運命の日がやってくる。


1929年10月24日(木)


「リチャード・インベストメントから大量の売り注文だと?どういうことだ?現物のほとんどと、それに空売りだと?」


※「空売り」とは、実際には持っていない株を売ったことにして、後に買い戻したことにする取引のこと。株価の下降局面で利益を出すことが出来る。しかし、実際の経済状態以上に、株価を押し下げてしまうことがあるので、各国は規制をかけることがある。実際に、アメリカはこの大暴落の後に、「空売り」に関する規制を実施した。


 朝の取引開始から、リチャードは大量の売り注文を出した。売り注文によって株価は下落するが、買い時と判断した投資家達が買う。出来高はふくれあがっていたが、価格だけを見れば、表面的には均衡を保った取引のように思えた。


 しかし、10時25分、ついに買い注文に陰りが見える。


 大手では、ゼネラルモーターズの株価が大幅な下落を見せる。それにつられるように、次々に下落をはじめ、11時頃には売り一色となった。


「やばい、やばいぞ!ポジションを整理だ!全部売れ!」


 ウォール街は阿鼻叫喚のるつぼと化す。


 そして、十二賢者が動き出す。


「まずいな。ここまで売り一色になるとは」


 この日の大暴落は、人類が初めて経験する、資本主義の進化によってもたらされたカタストロフィだ。だれも、それに対応できるものなど居ない。


「ブルーチップ(優良株)を買い支えするぞ。身銭を切るのは口惜しいが、仕方あるまい。ロックフェラーとロスチャイルドにも協力させろ。今は内輪もめをしているときではない」


 そして昼過ぎに、USスチールをはじめ、いくつかの優良株が値上がりを見せる。それを見て、市場は少しの安堵を得た。


「そうだよな。そうするしか無いよなぁ、十二賢者達よ。身銭を切って悔しいだろう。しかし、これからが本当の勝負だ!」


 ウォール街にある雑居ビルの一室で、池田はほくそ笑む。証券取引所に忍ばせたエージェントから、主要銘柄のリアルタイム情報が届いている。


「USスチール株とゼネラルモーターズ株に売り注文だ!限界まで行け!怯むな!」


 そして池田は、少しでもリバウンドを見せた優良株に対し、集中的に売りを浴びせる。ここで引くわけにはいかない。十二賢者と池田の、まさに経済的な生死をかけた戦いが行われていた。


10月25日(金)


 朝から細かい値動きを繰り返しているが、誰もが一見落ち着きを見せたと思った。昨日のような暴落は起きていない。そして、この日は2ドル上昇して取引を終了した。


10月26日(土)


 この日の取引も、均衡を保ち、細かい値動きをしながら2ドル下げて終わった。


 市場は安定を取り戻したかに見えたが、水面下ではすさまじい攻防が繰り広げられていた。


 株価こそそれほど変化は無かったが、出来高はすさまじい値に達していた。全面的に売るリチャード・インベストメントと、全面的に買う十二賢者。ほんの1セントの値動きで、すさまじい損失か利益が発生する。お互い、どちらかが倒れるまで引くことは出来ない。もはや、後戻りは出来ないのだ。


 当時のフーヴァー大統領は「わが国の基本的事業、すなわち商品の生産と分配は、健全かつ繁栄した基礎の上にある」と発表し、投資家に慌てないように促した。また、アナリスト達は、「24日の暴落は落ち着きを見せた。企業活動に悪い影響を与えることはないだろう」と分析し、新聞もそのコラムを載せた。


 製造業界からも、懸念を払拭する声明が出される。


 USスチールのファレル社長は悲観論を批判して「稼働率、価格、在庫など、全ての面で鉄鋼業が健全であることは、疑いようが無い」と発表し、事態の沈静化を図った。


 ブラックサーズデイの事が全米の新聞に掲載されたのは、27日(日)の事だった。この当時ラジオはあったが、情報のほとんどは新聞によってもたらされていた。どうしても情報に時間差が発生してしまうのだ。


 そして、この時間差がさらなる悲劇を生む。


第六十一話を読んで頂いてありがとうございます。

十二賢者との戦いはどうなるのか?


タイトルを「ブラックサーズデイ」に変更しました。大暴落と世界恐慌は別物ということで。


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


おもしろくない!と思ったら「★☆☆☆☆」でも結構です!改善していきます!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 経済について詳しくないのですが世界恐慌は第一次世界大戦で傷ついたヨーロッパに復興物資を大量に売りつけて、復興してきたら大量に物資を売りつけられなくなり投資家達が資金回収の目処が立たなくなった…
[一言] う〜ん。経済とか全くわからないんですが、転がして得た多額の資金を何処へ、何に使うかの方が気になりますね。 そしてその損した分を取り戻そうと白人種以外を搾取するのが欧米のやり方。しかも今、アメ…
[良い点] 史実にプラスして未来知識の持ち主が準備に準備を重ねて空売りの準備をしてトドメを刺そうとするとは最高ですなぁ、、、 どうなるのか楽しみてす。 [気になる点] 十二賢者さん達も、まさか底があれ…
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