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第五十七話 清帝国樹立(2)

「なぜだ!こんな憲法が認められるか!これではまるで共和制ではないか!」


 川島芳子からもたらされた清帝国憲法草案を見て、愛新覚羅溥儀は怒鳴り散らす。愛新覚羅溥儀は、清帝国は当然に“帝政”であると思っていた。しかし、憲法では皇帝の権限はことごとく制限され、内閣が決めたことを承認するだけだ。公的な発言も、全て内閣の許諾を得たものに限定されていた。


「はい、陛下。その通り共和制です。なにかご不満でも?」


 川島芳子は“おまえはバカなのか?”という風な目で愛新覚羅溥儀を見る。


「顯㺭!お前は誰の味方だ?忠誠は朕に向いていると言ったではないか!」


「はい、陛下。もちろんです。しかし、それは満洲民族の統合の象徴としての陛下に対してです。もし、ご自身が親政(皇帝が自ら政治を行うこと)をなさりたいのであれば、その限りではありません。立憲君主制は、20世紀に於いて王族が生き残れる唯一の方法だとご理解ください」


 ※史実に於いても、愛新覚羅溥儀は帝政にこだわった。そして、それは関東軍の思惑とも一致し、満洲国は専制君主制に近い政体になったのだ


「立憲君主制では、皇帝に何の意味がある?朕にお飾りになれというのか?朕はこんな国の皇帝にはならぬ!」


 芳子はほとほと呆れた。


「そうですか、残念です。それではそのように致しましょう。皇帝には別の者を立てます。もしくは、よく似た影武者でも良いですね。いずれにしても、役に立たなくなった“お飾り”は廃棄処分に致します」


 芳子は素人でも解るくらいの殺気を放ち、愛新覚羅溥儀をにらんだ。


「ま、待て顯㺭。お、お前は正気か?誰か!誰かこの逆賊を捕まえろ!」


 溥儀は叫ぶが、当然誰も来ない。


 芳子は溥儀に近づき、その胸ぐらをつかんだ。


「ひとついいことを教えてやろう。お前のレゾンデートル(存在意義)は飾りであることだけだ。それを喜べ。まだ自分には、お飾りほどの価値があったと言うことをな。飾りはしゃべらない。飾りは考えない。国民を美しく飾ることだけに専念しろ」


 その、すさまじい殺気のこもった芳子の言葉に、溥儀が逆らえるわけが無い。溥儀は無様にガタガタと震えながら失禁していた。


「それと、婉容(えんよう:溥儀の正妻)と文繡(ぶんしゅう:第二夫人)とは離婚してもらう。婉容はアヘン中毒だ。文繡も皇帝の妃にはふさわしくない。二人は日本が引き取って、静かに暮らしてもらうことになる。解ったな。これが本当の最後のチャンスだ」


 そして、溥儀は新憲法を受け入れた。


 史実では、婉容は重度のアヘン中毒によって、最後は独房で糞尿にまみれ狂い死にしている。文繡もまた、誰にも看取られず、餓死してしまう。高城蒼龍は、時代の激流に飲み込まれて、溥儀から愛されることも無く、不幸な最期を遂げる二人を見捨てることは出来なかった。


 こうして、1928年2月1日、清帝国が樹立される。初代皇帝は愛新覚羅溥儀だ。


 ※清国は中華民国に継承されているので、清帝国は新しく独立した国家とした。


 同日、憲法が公布施行され、極東で3番目の立憲君主制の国家となった。


 続いて、清帝国国民の確定作業が開始される。満洲民族には、当然清帝国の国籍が付与されたが、それ以外の民族に対しては、清帝国の国籍を得て元の国籍を喪失するか、元の国籍を保持しつつ、清帝国国民とほぼ同等の権利を有する“永住許可”を得るかの選択が提示された。


 永住許可者の権利は、国政選挙への参加は認められないが、地方選挙への参加は認められ、その他、社会福祉や行政・経済活動で差別されることはない。ただし、強盗や殺人、放火や強姦などの重要犯罪で刑が確定した者は、服役の後強制送還されることになる。


 当時の満洲は、満洲族が約400万人、漢民族が2300万人程度だったとされる。圧倒的に漢民族が多数を占めていたのだ。


 そして、満洲に住む多くの漢民族が、中華民国の国籍を維持しつつ、清帝国の永住権を選択した。その方が、万が一の時に中華民国に帰ることが出来ることと、中国と清の両方で商売をするには有利だと判断したのだ。


 選挙権については当面、中等教育を受けた25才以上の者とした。当時の満洲の識字率は10%も無く、ほとんどの住民は教育を全く受けていなかったからだ。


 また、地方の馬賊は武装解除され、頭目達はその支配地域の県知事となった。これは、日本の廃藩置県のプロセスを参考にしたものだ。まだ法律が整備されていないので、それまで権力の範囲は地域の行政と警察力、そして徴税権となる。


 1928年3月20日


 第一回議会総選挙が実施された。


 議員は、ほとんどが満洲旗人で占められた。旗人とは、満洲族の中の武士階級のようなものだ。そして、次々と法律が制定されていく。


 法律の制定に当たっては、日本とロシアから法律顧問が多数派遣され、助言を行った。法律のベースは日本の法律を参考にしている。当時の日本の法律は、全て漢語の書き下し文で書かれていたので、翻訳作業もスムーズに行えた。


 また、法律の施行と平行して汚職の摘発も苛烈に進めていく。当初、県知事となった馬賊の頭目達は、それまでやってきていたままに、賄賂や汚職を当然の権利として実行していた。それは、法律が施行された後も、やめることなど出来るはずが無い。


 そして、川島芳子の調査によって、次々と摘発されていった。


 しかし、摘発したことを民衆に正確に伝える方法が無かった。民衆のほとんどは文字が読めないのだ。そこで川島芳子は、民衆にわかりやすく伝えるために、劇団を組織する。


 その名は「満洲歌劇団」。


 日本の宝塚歌劇団を参考にした、女性ばかりの劇団だ。


 汚職によって首長が摘発された都市を中心に、無料公演を行った。どのように捜査をして首長の悪事を暴き、民衆を助けたのかを、相当に脚色を加えて公演する。そして、その捜査機関に陰から指示を出すのは、必ず皇帝その人であるとアピールした。民衆は、愛新覚羅溥儀へ拍手喝采をするのであった。


 こうして、人心の掌握を進めていく。


 そしてその頃、宇宙軍本部に一人の陸軍参謀が訪れる。石原莞爾であった。


第五十七話を読んで頂いてありがとうございます。

ついに満洲のキーマン登場ですね!


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


おもしろくない!と思ったら「★☆☆☆☆」でも結構です!改善していきます!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レゾンデートルとは存在意義ではなく存在理由ですね。意義と理由では全く異なります。意義(価値value)は人間の行動の動機づけとなる事物の表象ですかね。唯一絶対の神が創造したのなら地球の…
[気になる点]  う~ん、普通に考えて「馬賊の頭目」は支配地域の住民を帰化させて、自分に投票させるとおもいますけどね。
[一言] この暗躍好きな日本からすると帝政にして傀儡化する方が楽にコントロールできそう。それでも劇団を組織するなどの手間をかけて立憲君主制にするのは長期的な考えだろうか。
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