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鉄血女帝アナスタシア 第四十二話

 ロシアの一番長い日(4)


 王宮


「民衆がヤンコフスキー邸と親衛隊本部に集まってきているだと?」


 第一近衛連隊の伝令兵が王宮に現状を伝える。ヤンコフスキー邸に集まった民衆によって連隊の進軍が止まってしまっていると。


「邪魔をするものは皆殺しにしろ!大逆罪だ!邪魔をする本人とその親族も同罪だ!」


「皇帝陛下!!」


「なんだ?ルバノフ」


「皇帝陛下、なりません。武器を持たぬ民衆を殺害するなどあってはなりません。アナスタシア様が命をかけてまでレナ鉱山での衝突を収めたのは何のためでしょう。民衆に銃を向ければロシアの命運が尽きるからです。何とぞご再考を」


「ではなぜアナスタシアは反乱を企てたのだ!レナの事件は国を守る為だと私も思っていた。だが実際にはどうだ?あの事件で聖女扱いされた挙げ句私の暗殺だぞ!あんなに愛情を注いできたというのに・・・・・」


「陛下、しかしながら、アナスタシア様が毒殺を企てたという確たる証拠はありません!何とぞご再考を!」


「ルバノフ!お前も裏切っているのでは無いだろうな?憲兵!この者も大逆の疑いがある!逮捕しろ!伝令兵!連隊に伝えろ!ヤンコフスキーとアナスタシアは生きたまま連れてこい!邪魔をする者は逆賊だ!抵抗するなら殺してでも排除しろ!」


 ◇


「同志レーニナ、こちらに来たのはどうやらマンネルヘイム連隊のようですな」


「そのようね。一応予測通りと言うことで良いのかしら?」


 私は親衛隊本部の鐘楼に登って進軍してくる近衛連隊を見ていた。傍らには37才になる参謀のアガペーエフが双眼鏡を覗いて敵の戦力分析をしている。


 アガペーエフは私の前世でロシア帝国陸軍元帥にまで上り詰めた男だ。祖国解放戦争(第二次大戦)でもその手腕を遺憾なく発揮してくれた頼れる男よ。しかもイケメン。もちろんその事は話してないんだけど、長年右腕として働いてくれた記憶があるから親近感が湧くのよね。アガペーエフは私からのよくわからない親近感を好意的に受け取ってくれているみたい。そして、ロシアの現状を強く憂えている志のある人物だわ。


 ※ウラジミール・アガペーエフ 史実では白軍南ロシア軍軍事代表を務めた


「はい、同志レーニナ。今動かせる近衛連隊は第一連隊とマンネルヘイムの騎兵連隊だけです。マンネルヘイムの方が冷静で統率がとれるので、娘である同志の方に向けさせるのは自明の理です」


 マンネルヘイムはお父様からとても信頼されている。娘である私を傷つけずに捕らえるにはマンネルヘイムの方が良いと考えるわね。そこまでは予測の通りよ。


「そうね。つまりルスランの方には凶悪な第一連隊が向かっているということね。あとは皇帝がどのような命令を出すのか・・・」


 お父様ならおそらく非武装の民衆に対してでも発砲命令を出すでしょうね。この1年間、何度もお父様とロシアの改革について議論をした。でも、力でねじ伏せなければ皇帝の威信を保てないと考えてるお父様とは何処まで行っても平行線だ。各地で頻発する労働争議や農民暴動も1905年のロシア第一革命で自由を与えてしまったせいだと本気で思ってる。お爺さまが夢見で警告していると言ってもそれは変わらなかった。ロシア第一革命やレナ事件の時がそうであったように今回も発砲命令を出すだろう。そうなれば、ロマノフ朝は不名誉な烙印を押されて終焉を迎えることになるわ。


 今年はロマノフ朝成立300周年。丁度区切りが良いと言えるのかしら。お父様の治世は最初から呪われていたと言っても過言じゃ無い。お父様が皇帝に即位された日、モスクワの記念品配布会場で雑踏事故が起きて数千人が死亡した。そんな悲劇があったにもかかわらず祝賀式典や晩餐が予定通り行われたのよね。しかも、雑踏事故が起きた現場がお父様とお母様のパレードの通り道だったから、その予定時間までに死んだ人も動けない重傷者もかまわず荷馬車に山積みにして郊外の畑にまとめて捨てさせた。お父様の指示じゃ無かったと思うけど、それを追認してしまったのはお父様だ。同じ責任があると思う。その時親族のミハイロヴィチ大公が「こんな悲劇があった日に晩餐や舞踏会にでるなら、あなたたちはマリー・アントワネットの再来になるだろう」って諫めたけどお父様は聞き入れなかった。その時から死神に魅入られていたのね。最期くらい、民衆にだけは銃を向けなかったと歴史書に書かれたいものだわ。


「同志レーニナ。どうやらマンネルヘイム連隊長自ら通信使として来るようですぞ」


 私は拡声器で通りを埋めている民衆に道を空けるように放送した。民衆は素直に従い、モーセが海を割ったがごとく道を空けていく。


「大公女殿下。皇帝陛下からの勅命です。すぐ王宮に出頭して下さい。もし抵抗するようなら実力を持って連行しろと厳命を受けました」


 マンネルヘイムは騎士の礼をとって片膝をついている。とても堂々としていて礼儀正しいわ。さすがフィンランド軍最高司令官としてソ連との戦争を戦い抜くだけのおとこね。


「マンネルヘイム連隊長。私がその勅命に逆らった場合どうなるのかしら?」


 その答えはもう解ってる。私が拒否したからと言って引き下がるようなことは軍隊としてあり得ないわ。


「アナスタシア様だけは生きたまま連れてこいと。それ以外は・・・邪魔をする民衆を含めて大逆罪で皆殺しにしろとのご命令です」


「そうですか。ロマノフ朝の歴史も今日終わるのですね。もしあなたたちが民衆に向かって発砲するようなら、私たちは最後の一人になるまで民衆を守って戦います。それが神から与えられた崇高な使命ですから」


 私はきびすを返して親衛隊本部に戻る。お父様は最悪の決断をしてしまった。今日、多くの民衆が銃弾に斃れるだろう。サンクトペテルブルクは大混乱に陥ってしまう。しかしこれは必要な通過儀礼でもある。ロマノフ朝にはもはや国を率いていく資格が無いと全国民に解らせる必要があるのよ。


 私はマイクを握りしめる。もはや時を後戻りさせることは出来ないのだ。どんな犠牲を払ったとしてもロマノフ朝を倒し、私が新たな王朝を立ち上げなければならない。


「同志諸君!皇帝は私を逮捕するために私と行動を共にする同志や人民を皆殺しにしろと勅命を出した!同志諸君!もはや皇帝にこの国を統べる資格は無い!皇帝の暴虐から人民を護れ!我らはロシア人民の為のみに存在するのだ!」



次回更新は2月4日水曜日です


四十一話の答え合わせ

みなさん、ご回答ありがとうございました!


「同志諸君!私はここに宣言する!卑劣な手段によって機関紙「ミール」の発行を禁止しあまつさえ我々に軍を差し向け歴史を逆流させ、ひとたび確立しようとしていた人民の幸福という権利を強奪する専制政府の連中どもは、その悪業にふさわしい報いを受ける事となるだろう!奴らと野合し、ロシアの自由と平和に不逞な挑戦をたくらむ資本家や門閥貴族の野心家達も同様の運命をまぬがれることはない!誤った選択は正しい懲罰によってこそ矯正されるのだ!罪人に必要なものは交渉でも説得でも無い!ただ力のみが彼らの(もう)を啓くことができるだろう!」


↑この部分は、銀英伝でラインハルトが同盟に対して行った演説のオマージュ。皇帝を誘拐した貴族の残党とそれを利用しようとした同盟に対して宣戦布告したときの演説



「同志諸君!諸君の前にあるものは私との困難な旅路だ!報酬の約束も無い!命の保証も無い!だがっ!成功の暁にはロシア人民の!子供たちの笑顔を得ることができるのだ!」


↑この部分は1914年にロンドンタイムスに掲載された南極探検隊募集広告のオマージュ


「我らの未来は鉄の意志と血によってのみ開かれん!!!!」


↑この部分はプロイセンの宰相ビスマルクが1862年に行った演説のオマージュ。この演説によってビスマルクは鉄血宰相と呼ばれるようになった



「我々はいつの日かと夢見ていた!心目覚め、翼を広げよ!今日が旅立ちの日だ!同志諸君!人民を縛る鎖を引きちぎれ!魂を縛る闇を切り裂け!同志レーニナと一緒に目指そう!あの遙かなる地平を!!!」


↑この部分は太陽の牙ダグラムのオープニング「さらばやさしき日々よ」の歌詞のオマージュ



昔のアニメや小説って名言や名演説名曲が多いと思いませんか?



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― 新着の感想 ―
史実ではここまで頑迷じゃなかったように思えたけど、娘に自分は間違っていると言われたのが逆効果だったかあ・・・。
更新お疲れ様です。 あぁ、皇帝陛下、とうとう最悪の命令下しちゃいましたね。 しかも忠臣のルバノフまで拘束してしまうとは!? いくらアナスタシアの実父とはいえ、ここまで現実を把握できない愚帝だったと思…
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