鉄血女帝アナスタシア 第三十三話
私たちは手分けをしていろいろな人から話を聞いた。そして、チャフチンスキー鉱区の労働者達が最後までストライキに反対していたことを突き止めた。
「あなたたちは最後までストライキに反対したって聞いたわ。それは何故?」
今回は、蒼龍に従者の一人としてついて来てもらってる。ロシアは多民族国家なので、私と同じ年くらいのアジア人従者がいても無学な労働者は不審に思わないだろうって。
「おれたちゃあいつらの言う社会主義の理想なんてどうだっていいんだよ。働いて飯がくえりゃな。だが、あいつらの“より安全な職場”や“人間的な労働環境”ってのは確かにその通りだ。いけ好かねぇ現場監督に怒鳴られるのもこりごりだしな。だからストライキに賛同することにしたんだ」
確かにこの人の言う通りね。お金は欲しいから働きたいけど安全はやっぱり必要だものね。ここからどうしたものかと思っていたら、蒼龍がフランス語で話しかけてきた。労働者に聞かれないようにする為ね。
なるほど。蒼龍の方針はわかったわ。さすがね。
「あなたたちの18箇条の要求は読んだわ。でも、あの全てを一度に認めさせるのは絶対に不可能よ。それこそ革命でも起こさない限りね。でもあなた方の追い詰められた状況も理解した。だからね、“順法闘争”よ!」
「順法闘争?」
労働者達は皆訝しげな表情を向けて来る。私だって初めて聞いた単語だわ。法律を守りながら戦うってどういうことって思うわよね。
「そうよ。ロシアにも鉱山労働安全を規定した法律があるわ。最低限の安全を確保するためのね。それを忠実に実行するのよ。こっちが法律を守るんだから会社も文句は無いでしょ。法律をきっちり守ったらどうしても生産性が下がるわ。会社はそれが嫌だから、違法な労働を強いてきてるのよね。もし法律を守ったことに対して難癖を付けてきたらその時こそ交渉のチャンスよ」
「交渉できるのか?」
この鉱区のリーダーらしい男がちょっとだけ私の言葉に興味を示したわ。よし、このまま押し切ってやる。
「出来るかどうかじゃないの!交渉して認めさせるのよ!」
「・・・・・アンタが本当の公女だったとしても無理だよ。あいつらは金の亡者だ。それに、実行委員会に逆らったら、どんな仕返しをされるかわかったもんじゃねぇ。おれたちゃ実行委員会の方針に従う。なにもしねーよ」
なんでそんなに消極的なのよ!!あー本当にイライラするわ。
「ねぇ、あなたの足の間にあるモノはお飾りなの?経営者や実行委員が怖くて縮み上がってるのね。ちょっとでもあなたたちに期待した私がバカだったわ」
「何だと?このガキ!」
「あら、本当のことを言われたら怒るくらいの気持ちは残ってるのね。じゃあ最後に言ってあげるわ。この負け犬ども。飼い主に言われるままブタの餌でも喰ってやがれ」
「ああっ?クソガキ!言わせておけばつけあがりやがって!」
労働者達が顔をまっ赤にしているわ。さすがにこれだけ言われたら怒るくらいの気力は残ってたのね。後ろではルスランと私兵達が腰のピストルに手をかけたのがわかった。でもダメよ。私は右手でルスランを制してありったけの声量で労働者達を怒鳴りつけた。
「男なら立ってみろやぁ!ウサギ野郎ども!この皇帝アナスタシアがお前らインポの童貞陰キャを“男”にしてやろうって言ってんだよ!私を楽しませてくれる男は一人も居ないのかい!?」
※ウサギ ロシアでは英語のチキン(臆病者)に相当
ザワザワと騒いでいた労働者達が静まりかえった。みんな、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になっちゃったわね。まさか10歳の幼女にそんな事を言われるなんて思ってもみなかったでしょ?でもね、私はロシア国民3億人を何十年にもわたって率いてきた皇帝なのよ。舐めてもらっちゃ困るわね。
「ふはは、はーはっはっは、おもしれー嬢ちゃんだ。もう皇帝になったつもりなのか?そこまで言われて勃たないんじゃ男が廃るってもんだ。わかったぜ、小さな皇帝陛下。俺たちゃアンタに従おう。チャフチンスキー鉱区で労働組合を結成だ!皇帝陛下が委員長でいいんだな?お前らも文句はねぇかぁ!?」
「おう!文句はねぇぜ!」
労働者達は口々に同意を表明する。この鬱屈とした雰囲気をなんとか打破したかったのね。
「いい面構えになったじゃないの。あんた、名前は?」
「俺はイワンだ。よろしくな、皇帝陛下」
◇
「なんとか説得に成功したわね」
チャフチンスキー鉱区の労働者達で労働組合を結成した後、私とルスランと蒼龍の三人で天幕に戻ってきた。
「アナスタシア、かっこよかったですよ。本物の皇帝より迫力ありそうですね。俺もちょっと惚れてしまいました。有馬くんにも見せてあげたかったですね」
「お世辞はいいわよ。ついつい皇帝って間違えちゃうわね。それに勝巳にあんなはしたない所なんて見せられないわ」
「お世辞じゃないですよ。本当に尊敬しました。ルスランのびっくりしてまっ赤になった顔も可愛かったですね。18歳の女の子だと再認識しましたよ」
「そ、蒼龍、そんな事を言わないで欲しい。私は姫様と国家のために女を捨てたのだ」
あら、ルスランがまたまっ赤になっちゃった。可愛いって言われて本気で照れてるわ。なんて可愛いのかしら。蒼龍って見た目は10歳の男の子なんだけど、私たちだけで話しているときは大人の余裕って言うか落ち着いた感じがあって男らしいのよね。私やロシア政府がダメダメなときにはイヤミを言われることもあるんだけど、頑張ったときには良く褒めてくれる。特にルスランの事はすごく褒めるのよね。蒼龍もルスランのこと気に入ってるんじゃないかしら?時々ウイットに富んだジョークでルスランを笑わせてるし。実際中身は32歳+10歳の42歳だからね。でも18歳の男装令嬢と10歳の男児の恋愛かぁ。これって“おねショタ”って言うのかしら。まるでUSUIHONのネタね。
「アナスタシア、どうでも良いこと考えてませんか?」
ほんと感のいいおっさんだわ。




