鉄血女帝アナスタシア 第三十二話
ストライキ実行委員会
「本当に大公女?」
実行委員会が陣取ってる宿舎は、鉱山事務所から歩いて30分くらいの所にあった。実際に歩くとかなり遠い。道路は多数の轍の形に凍っていてまっすぐ歩けないわ。まだ昼過ぎだけど太陽はもう沈みかけていて本当に寒い。そして私たちが宿舎にたどり着いたとき、待っていたのは労働者達の不審者を見るような視線だった。まあ、突然公女を名乗る幼女が現れたんだから信じられないわよね。それはともかく、ここはちょっとあり得ないくらい不潔で臭いわ。何ヶ月も体を洗っていない男達の体臭でむせかえってる。しかも目の前の実行委員たちの口臭も瘴気を吐いているのかってくらいね。倒れそう。おそらくビタミンC不足で壊血病になりかけてるんだわ。でもここで不快な顔をしてはダメよ。彼らはこういう環境での生活を強制されてるんだから。
「信じられないのは無理も無いわ。でも本物よ。あなた方がストライキをしてるって聞いて駆けつけてきたのよ。あなたたちの話を聞かせて欲しいの。このストライキを流血無しに終わらせたいのよ」
労働者達の視線が刺さる。特権階級に対する妬みと恨みのこもった視線。前世で何度もあの視線に晒されたもの。
ストライキ実行委員の委員長はこのレオンチーという男だそうだ。鉱山労働者とは思えない理知的な雰囲気があるわね。社会主義を勉強しているような気がするわ。
「ストライキを聞いて来た?嘘をつくな!イルクーツクから三週間はかかるんだ。公女がこんなに早く来るはずが無いだろう!」
あ、しまった。確かにそうね。時系列が合わないわ。それに気付くとは、やっぱり頭は良さそう。こういうインテリタイプの人には、ちゃんと論理的に説明して怒らせないように注意をしなきゃ。
「そ、それは事前に情報を得たのよ。ストライキを計画してるって。だから急いで来たのよ」
事前に情報がもたらされたと説明したら辻褄はあうわよね。それに労働者のみんなのことを心配してるって伝わるはずだわ。
それなのに、何故か実行委員達の視線がさらにキツく刺さる。
「幹部の誰かが裏切って情報を漏らしているのか?」
ヤバイヤバイ!首謀者の男が周りの幹部達を睨みつけているわ。突然粛清とか始まったらどうしましょ。
「今はそんな事どうでも良いでしょ!後でやってよ!とにかく話し合いのテーブルに着いてよ!私はみんなの生活を少しでも改善したいのよ!」
「少しだと?本当に俺たちの現状がわかってるのか?俺たちは生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ!我々の18箇条要求は既に出している。これが全て認められるまでストライキは続ける!」
ああ、何故かさらに怒らせてしまった。もしかして私ってポンコツなのかな?
「じゃ、じゃあ、食事の改善と時間外の採取を復活させたらストライキを中止するとかは?」
「確かにストライキのきっかけは腐った肉と馬肉が入っていたこと、それに時間外採取の禁止だ。だが時間外採取があったからなんとか我慢出来ていただけなんだよ。それが復活したからと言って根本的な解決にはならないんだ。多くの仲間が事故で死んだり大けがをしてるんだよ。命懸けなんだよ!要求が満たされるまで我々は断固としてストライキを続ける!」
◇
「全然埒が開かないわ。どうすればいいのよ!」
私たちは管理棟の近くに天幕を張って野営をする事にした。管理棟の部屋を用意するって言ってたけど、なんだか覗かれるようで不安があったのよね。乙女の直感よ。
双方の話はとりあえず聞いたわ。罰金と社内通貨に関しては明らかに違法行為なのですぐに止めさせるように手配をしたんだけど、それ以外の条件については全く歩み寄りが無いのよね。
「皇族といってもそれほど権力無いんですね。この時代のロシアについてはあまり知らなかったんですが、もっと専制的なのかと思ってましたよ」
「1905年の革命でかなりの権力を制限されちゃったからね。皇族でも皇太子以外はそれほど権威なんて無いのよ。日本とは比べものにならないわ。特に私は四女で10歳だし。でも、皇族の犯罪は皇帝しか裁くことが出来ないから、いざとなったら私が労働者を扇動して会社の勢力を追い出すっていう手も採れるわ」
「過激ですね、アナスタシア。まあそれは最後の手段にするとして、まだやってないことがたくさんありますよ。ロールプレイングゲームの最初の村の基本です。もっと多くの人に話を聞くんですよ。労働者は本当に一枚岩ですか?執行部の方針に反対しているグループは無いんですか?」
確かにそうね。この鉱山では一万人以上が働いているんだから、全員が同じ考えとは限らないわね。
「主流派があれば反主流派もあります。主流派に不満を持っている人たちに接触しましょう。そして、アナスタシア、あなたの力で反主流派を形成するんです。そして主流派の切り崩しです。主流派の強硬派についていくよりアナスタシアについた方が得だと思わせるんです」
「それは日本のナベツネの手法ね」
「そうです。そうやって彼は大新聞の主筆にまで上り詰めましたからね」




