鉄血女帝アナスタシア 第十八話
大日本帝国宇宙軍 第二巻 絶賛発売中!
イラストはもちろん湖川友謙先生です!
帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。
ご購入頂けると嬉しいです!
土曜日午後
「こちらが高城男爵の邸宅なのですか?」
私たちは高輪にある高城男爵家に馬車で到着した。泉岳寺のすぐ近くにある200坪ほどの敷地に、木造2階建てのこぢんまりとした家が建っている。ルスラン以外の護衛を道で待たせておいて、私とルスランは使用人のおばあさんに案内されて門をくぐった。庭はよく手入れがされていて、小さな池に錦鯉が泳いでいる。塀の近くには大きな柿の木があってまだ緑色の実をたくさん付けていた。
「姫様、こちらは別邸でしょうか?何と言うか・・・」
ルスラン、あなたの言いたいことはよくわかるわ。これが貴族様のお屋敷だって言われても信じられないわよね。私も初めて勝巳の家に入ったとき、その小ささにびっくりしたもの。
乃木院長のご自宅も伯爵様の邸宅としてはかなり小さいのよね。600坪ほどの敷地に地下1階地上2階建ての木造建築だ。女中さんが何人か住み込みで働いているけど、やっぱりヨーロッパの貴族と比べると規模が違う。乃木院長は戦功によって伯爵に叙されて、それで領地を持っていないからそんなものかとルスランも思ってたみたいだけど、高城家は大名家の分家筋だ。ロシアでは地方領主の分家の男爵がこんな小さな家に住むなんて事はない。
「ルスラン、よく見ておくのね。ロシアの貴族と日本の貴族との違いを。日本の貴族は名誉称号で特権なんて無いのよ。特権がないから民を虐げるようなことも無い。だから革命は起きない。それに引き替え富を独占し民を虐げたロシアの貴族は、私の夢見の中では革命によって悉く殺されてしまうわ。わたしも陵辱されたあげくに生きたまま焼かれてしまうのよ。今富を独占し我が世の春を謳歌していても、その人生の途中で無残に殺されてしまうのと、民と一緒に富を分かち合い、苦楽をともにするのとどっちが幸せかしら」
私の問いかけにルスランはこわばった顔をして何も答えない。答えることが出来ないのよね。ルスラン自身も男爵家の子弟だ。ウラル山脈の西側にそこそこの領地があって、500人くらいの農民と炭鉱夫を雇って作物や木材、石炭を生産している。農奴解放以降多くの貴族が没落したけど、ルスランの実家はそこそこうまくやっているほうだ。まあだから私の護衛に選ばれたんだけどね。父親や兄弟はサンクトペテルブルクで王宮や政府機関に役人として勤めていて俸禄も受け取っている。首都に屋敷も構えていて、使用人もたしか20人くらいは雇っているはずだ。貴族は土地税(固定資産税)が優遇されてるから大きい邸宅が持てる。今は豊かな生活を送っているけど、革命の炎で全てを焼かれ殺されてしまうことを想像したのだろう。でも、そんな未来が待っているかも知れないと思っても、今の生活水準を下げることが出来ないのも人間なのよね。
私たちは玄関で蒼龍の出迎えを受けて簡単な挨拶をした。そして応接間に移動する。畳の部屋にラグを敷いていて、そこにテーブルと椅子が置いてある八畳くらいの部屋だ。勝巳の実家もこんな感じだったわね。もうちょっとだけ広かったけど。
「ご家族の方は?」
女中さんはいたけど、他の家族が見当たらないわ。一応挨拶の為に焼き菓子を持ってきたのよ。出来る女をアピールしておかなきゃね。
「父は工廠ですよ。軍人に半ドンなんてないんです。母は実家のお父さんがケガをしたとかで妹を連れて看病に行っています」
「そう、せっかく可愛い妹さんに会えると思ってたんだけどまた今度ね。じゃあまずルスランを紹介するわ。私の騎士、ルスラン・ヤンコフスキーよ。彼は私に絶対の忠誠を誓っているから、これから話すことを全部共有して欲しいの。私がロシアに帰って“もしも”の時は一番頼りになる人よ。私と国のためなら何でもしてくれるわ」
私は決意を込めた目でルスランを見る。ルスランはちょっと気おされたような表情で頷いて見せた。
「何でも?それはどんな“汚いこと”でもですか?」
“汚いこと”
10歳とは思えない鋭い眼光で私を睨んでくる。真っ黒い瞳はまるでブラックホールのようね。今の蒼龍は32年間21世紀の平和な世界で暮らしてきて、そしてこの時代に転生してから10年しか経っていないはずなのにどうしてこんな目が出来るの?それは、これから起こる惨劇を知っているから。それを防ぐために何をしなければならないか、そして、その過程で多くの人を殺してしまうことも覚悟しているからなのよね。
「便所掃除とか?」
しまった。極度の緊張からついつい面白くも無いことを言ってしまった!ああ蒼龍、そんな冷たい目で見ないで!ルスランまで呆れた目で見てる。
「じょ、冗談よ。“汚いこと”、いわゆる“濡れ仕事”のことね」
“濡れ仕事”とは非合法活動全般を指す隠語だ。前世では勝巳がKGBを率いてそういうことをしていたわね。
「姫様、“濡れ仕事”とはどのような仕事でしょう?」
クソ真面目なルスランがちょっと不安そうな目で私を見てくる。男装をしているけど中身は18歳の女の子だから、濡れ仕事という響きから女の体を使った仕事を想像したのかも。まあ、もちろんそういう仕事の意味も含まれるんだけど。
「“濡れ仕事”っていうのは謀略や暗殺、非合法な活動全般のことよ」
「暗殺・・・・ですか?」




